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 フリーダからの相談を受けた翌日、マリーは仕事をレイモンドや他の使用人に任せて外出した。

 それは結婚してから久しぶりにゆっくり外出が出来る時間で、馬車の中にいるマリーは不思議な感覚で外を眺める。


「不思議だな……今まだ見てきた筈なのに全てが新鮮に見える」


 王都に住んでいるから階級が様々な沢山の貴族が住んでいる。

 勿論そこには獣人もいて、そのうちの一人と目が合った。

 相手も目を見開いてマリーを見ていたその人は振り向き走り去る馬車を見る。

 そしてゆっくりと走り出した。

 本人にしたら軽く走り出したのだろうが、地面が抉れるくらいに足に力が入る。

 マリーは気付いていないが、貴族の馬車の後を追うように走る獣人は笑みを浮かべていた。



「…………あら? なに?」


 何故か周りがこちらを見ている気がする……と首を傾げるがマリーの気のせいかと1人で納得する。

 だが、目的地について馬車を降りようとしたマリーは直ぐに見られていた理由がわかった。


「…………あなたは」


「こんにちはお嬢さん。目が合った貴方と話をしてみたくて……追いかけちゃったんだ」


 真っ白な髪を揺らして笑う男性は首を傾げながら馬車から降りようとしたマリーの手を取りエスコートした。

 その男性は、マリーとは違う。

 丸い耳と立派なシッポがあって緩く揺れている。


「初めまして、俺はラーゼン。虎の獣人だよ」


 店の中に入るのもラーゼンがエスコートしてくれる。

 これはあきらかにナンパだろう。

 マリーはどうしようか……と悩むが獣人はフレンドリーで友人になりたいとか交流をしたいとか思ったらしくドンドン押してくる。

 今回ラーゼンはマリーを気に入ったようだ。

 フサフサのシッポを左右に揺らしながらにこやかに笑ってマリーと手を繋いでいる。


「ええっと……私はマリー。伯爵夫人よ」


「…………あー、奥様かぁ」


 耳としっぽが分かりやすく垂れた。

 その可愛さに思わず笑うマリーをラーゼンが見る。


「ふ……ふふ……ラーゼンさん、かっこいいのに可愛いわね」


「お! かっこいい? 嬉しいなぁ」


 交流をしたがっているラーゼンは大人の色気を垂れ流してマリーを見る。

 可愛らしい耳としっぽは感情に素直なのに顔がかっこよくてバグりそうだ。


「良かったら……交流しないかな。旦那さん嫌がる?」


「いいえ……んん、詳しくは言えないけれど交流するのは問題ないわ」


「よかった! じゃあ、よろしく。あの時マリーと目が合って良かった」


 フワッと笑ったラーゼン。

 本当に獣人はフレンドリーで人の心の中に入り込むのが早い。

 それに虎の獣人であるラーゼンは大柄だ。

 小柄なマリーから見たらラーゼンの肩にすら背が届かない。

 なのに威圧感も恐怖心もなく、むしろ居心地がいいのだ。


「何を買うの?」


「甘いのが食べたくて」 


「果物……? ここで?」 


 チラッと見たのは高級スーパーのような複合施設。

 ただ、ここは果物が少ないのだ。


「ああ、果物は買わないの」


「そうなの?」


 エスコートされていた手は、今はしっかりと繋がれていて大きなラーゼンの手に包まれている。

 人間と獣人は合法的な浮気であるから、周りはむしろ微笑ましく見られていた。

 最初はなんだか悪いことをしている気分だったが、今では落ち着いて商品を見れる。


「なにか……作るの?」


「ええ、焼き菓子を」


「焼き……菓子?」


 なにそれ? と首を傾げてマリーを見る大型獣なラーゼンは興味津々だった。

 獣化した姿は見たことないが、しっぽをブンブン振っている大型獣の幻覚が見える。


「…………食べますか?」


「食べていいなら」


 嬉しそうに目を細めるラーゼンはするりと腕を絡めてくる。

 ネコ科……とチラッと見ると、周りを見ながら鼻歌を歌いそうなくらいにご機嫌だ。

 身長差から腕を組むというよりラーゼンがマリーの腕に軽く手を回しているくらいだが。

 先程会ったばかりの人にすることでは無い筈なのにマリーは何故か不快感は一切なかった。


「……どうしたの?」


「え? ……あ、いえ、なんでもないの」


 緩く横に首を振ってから様々な材料をカゴに入れる。

 当然のようにそれを持つラーゼンは、優しく数を確認したり分からない種類を教えてくれたりする。

 小一時間、買い物を楽しんだマリーは馬車に乗る手前でラーゼンを見上げた。


「…………どうしましょうか、焼いたら渡せばいい?」


「出来たら作る姿をみたいんだけどな」


 マリーの両手を握りながら、聞いてくる。お別れは寂しいと素直に言うラーゼンに、マリーは思わず笑った。


「じゃあ、一緒に行きます?」


「マリーが許してくれるなら」


 蕩けるような眼差しでマリーを見るラーゼンを連れて馬車に乗る。

 それからラーゼンはふわりと光り獣化した。

 真っ白な毛並みの綺麗な虎になったラーゼンは、座るマリーの足元に座り膝に頭を乗せた。


「……まぁ」


 《人によるけど、俺は獣化の方が楽で。この姿でも構わない?》


「ええ、勿論……ふわふわね」


 《……もっと撫でてほしいな》


 ゴロゴロと喉を鳴らしてマリーの手に擦り寄るラーゼンを遠慮なく両手でワシワシと撫でると擽ったそうに擦り寄った。

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