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「…………まあ、貴方は本当に……私を素晴らしく馬鹿にするのがお好きね」


 にこやかに目の前に座るフリーダと後ろにいるレイモンドに笑みを浮かべる。

 自分は愛人と一緒にいるから、マリーも獣人と交流を持てばいいと。

 しかし、ここでマリーは少し考える。


 マリーに許された獣人との交流は法律で許される合法的な浮気だ。

 逆にフリーダがしていることは完全なクロと呼ばれる周りにバレたら不名誉な事実として記憶されること。

 これについて不倫された妻とマリーは見られるが、その代わりに伯爵夫人として出来る幅が広がる今の状態を手放さなくていい。

 番外編の1つとして数ページしかない過去編であるマリーの手記を見た時、恋しいフリーダは愛人にしか興味はなくひとり寂しく人生の幕を閉じたと記されている。

 1人きりのマリーは悲しさや虚しさから食欲不振で体が弱り、動く気力も無くなった大人しくも夢見がちなマリーがフリーダの愛を求めながらも寂しく死んだのだ。


 だが、今のマリーはどうだろう。

 図太く生き残ろうと足掻き、離縁を望むマリーは気の弱いフリーダの愛を求める可愛らしい令嬢ではないのだ。

 出来るならマリーだって愛を受け幸せに生きたい。

 それはフリーダの妻であればいつまでも叶えられないものだ。

 何が楽しくて見せかけのハリボテ妻を死ぬまで続けなくてはいけないのだ。

 だからこそ、離縁を願った。

 しかし、獣人との交流を夫に認められたら話は変わってくる。

 獣人との交流も嫌がるパートナーだっているが、フリーダは良いと言ったのだ。なら。



「…………では、契約内容の変更をしましょう」


「!」


「貴方は愛人と素敵な時間をお過ごしください。その事に一切私は口出し致しません。お子様が生まれましてもご自由にどうぞ。ただし、私は子育てには一切携わりませんし私が母になる事もないのでそちらで養女として育てるなどご自由にしてください。くれぐれも私の腹から生まれた子とはしないでくださいね」


「だが……出来るなら直系の子として……」


「私は離縁でも構いません」


「ぐっ……」


 どうにかマリーの子にしたい様子で話をするフリーダ。

 愛人の子を直系の子として発表したいなら3年待って第2夫人にしろと正当なことを告げると、手を強く握りしめてうなずいた。


「……あとは獣人についてですね。私が交流をするかは正直今はなんとも言えません。ですのでいい巡り合わせが来たらとさせていただきます。その際の交流には一切口を挟まないようよろしくお願いします。最初に言った通りに夜の仕事はない対外的な妻として伯爵夫人で過ごします。それでよろしいですね?」


「ああ」


「あとは、契約の妻なので夫人に出される毎月のお金は伯爵夫人としてのお給金として頂きます。あと……いずれ私も何かしらの事業を始める可能性もあるかと。その場合の権限は私が頂きます。その代わり一から全て私が携わりますのでご了承ください」


「あ、ああ……」


 すなわち、何かした場合すべての責任を負う代わりに収入は全てマリーの物となり伯爵家へは一切の見返りがない。

 勿論負債になった場合もマリーの責任となり伯爵家からその分の負債の肩代わりはしないとなる。

 これで、権利はマリーの物となるのでたとえ離縁したとしても事業はマリーが引き続き行う事になる。

 たとえひとりになっても生きる為の仕事は確保された。


 これはフリーダもレイモンドも理解出来たのだろう頬を引き攣らせる。


「…………り、離縁はしないんだよな……?」


「はい。この約束を守ってくださる限りは私も約束を守ります」


 つまり、この契約をフリーダが破ったら離縁もやぶさかではないですよ、とにこやかに伝えた。

 あまりにも強かなマリーに2人はタジタジになっていた。

 しかし、これで3年後の離縁については撤回出来たと息を吐き出した。

 しかし、次に出されるマリーからの言葉にまた動きが止まった。


「…………そうです。愛人さんの生活はどうなさるのですか?」


「……え?」


「住む場所、家賃、愛人の方に使う金額、そのお金は一体どこからくるのか……は決まっています? 」


「………………は?」


「契約ですから愛人の方を貴方が愛するのは全く構いませんが、その方に使うお金で伯爵家が傾くのは得策ではありません。よく聞くでしょう? 愛人の方が好きすぎて貢ぐ、またはオネダリされて買い与えて借金や没落など……小説の題材にもなり得ますもの。それは私も旦那様も困りますし……暴走する場合は止めさせて頂かなくては。貴方はもう独り身ではありません。妻を迎えたのですから妻が不安にならない生活をしなくては、ね?」


 恐妻!!

 2人の頭に浮かぶこの言葉。

 自らの生活を守るためにマリーは一切手を抜かない。


「ところで、私への毎月のお金は夫人として出されますが、まさか愛人費用などありませんでしょう? どうなさるの? まさか何もしない愛人の為に伯爵家のお金を出します? そんな頭の弱いことはしませんよね? するなら毎月旦那様の私用に使える金額からになさってくださいね」


 引き攣る頬。

 厳しくチェック致します、とにこやかに笑うマリーに2人は完全に反論を失った。

 屋敷内の管理を受け持つ女主人は帳簿も見る。

 だから直ぐにバレますよ、と笑ったマリーを嫁として選んだフリーダは青ざめて選択を間違えた……と内心思った。

 

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マリーさん、痛快です♪ いいぞーもっとやってくださいー♪ ふっふっふっ。くみたろうさん、胸のすくお話をありがとうございます♪
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