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「失礼します」


 許可を受けた後、扉を開けたレイモンドは頭を抱える主人を見る。

 青ざめた顔でレイモンドを見るフリーダに呆れて息を吐き出した。


「…………なにをしてるんですか、貴方は」


「まさか……こんな事になるとは思わなくて……」


 音を立てて立ち上がりレイモンドの前に行くと、書類が差し出された。

 それを見ると、先程フリーダに言っていた内容そのままを丁寧に綴られた契約書。


「……は……早すぎないか」


「奥様がすぐにでもと」


「どうすればいいと思う……シェリーと別れるなんて考えられない……でも……伯爵家として妻を娶らないわけにもいかない」


「だからといって、飾りの妻など無理だと言ったじゃないですか。愛人を許可する奥様など居ませんよ。しかも全てバレてるじゃないですか」


 レイモンドの言葉にフリーダは再度頭を抱える。

 フリーダは、白い結婚をして子ができないから愛人を第2夫人にしようと企んでいた。

 現在平民の愛人、シェリーはどう頑張っても伯爵夫人には出来ないからだ。

 だが、子をなせないからとの理由に限り第2夫人を呼ぶことが出来る。

 出来れば貴族が好ましいが、この場合欲しいのはフリーダの血が繋がった子供。

 なので、最悪平民でも許される。第2夫人が社交に出る必要はないからだ。


「…………くそ」


「自分はいいけど、奥様には我慢しろとかそんなので納得するはずがないでしょう」


「…………もっと大人しい女だと思ったのに」


「……いやぁ、あの方は大人しいとは程遠いですね。芯の通った強い女性ですよ。噂なんてあてになりませんね」


 社交界で流れるマリーの評価は大人しい女性だった。

 だからこそマリーを選んだ理由でもある。


「……まあ、貴方が選んだ方ですし。それに貴方の方が不誠実なのですから仕方ないですね」


「レイモンドォォ……」


「情けない声を出さないで下さいよ」


 伯爵家当主の情けない姿にレイモンドはまたため息を吐く。

 まだ来て2日目のマリーの方がよっぽど落ち着き冷静ではないか。


「これからどうすればいい」 


「そうですね、マリー様に頼み込み和解案を提示して説き伏せ契約書を書き直すか、約束通りに3年で離縁するかの2択です」


「………………はぁぁぁぁぁぁぁ。マリーに離縁されたら困る。今から3年経てば私は25歳だ。離縁した過去がある25の男の元の嫁ぐ女はまずいないだろう。それに……いたとしても……」


「そうなったら貴方に選り好みする権利はないじゃないですか」


「だから! なんとかマリーには妻でいてもらわないと……」


 この貴族世界、立場や職種によって婚姻が遅れる場合はあるが大体は遅くても23~24歳には結婚する。これでも遅いくらいだ。

 すでにフリーダも結婚適齢期となっているが、恋人がいるからと婚約者すら作らなかった。

 そんなフリーダの現状を知らず両親がいなくて大変なんだろうなと亡き父の昔馴染みから、年頃で婚約者が居ない令嬢を紹介された。

 そのうちの1人がマリーだったのだ。

 マリーは恋人がいるなど知りもせず、急遽決まった婚姻に夢を見た。

 急に現れた素敵な人に見染められて幸せな結婚が出来ると。

 そんな頭の中に満開の花が咲いていそうな乙女思考のマリーは、結婚式で初めて見た自らの夫に淡い恋心を抱き、優しくフォローする姿にときめいていた。


 なのに、白い結婚を言われたあの時の衝撃はマリーには受け止めきれず前世を思い出すきっかけとなる。なんて皮肉なのだろう。


 悩み頭を抱えるフリーダは唸りながら解決策をどうにか探し出そうと必死だった。


「…………では、獣人を預けますか?」


「………………獣人、か」


 ふむ……と悩むフリーダはそれは採用してもいいかもしれない……と呟いた。



 この世界には人間と獣人がいる。

 奴隷などは居なく種族間での争いも全くない平和な世界なのだが、ひとつだけ変わったことがある。

 それは、種族間の交流としてたとえ婚姻をしていても男女で親密になって良いというのがあるのだ。

 それは、異種族の間に子ができない事と関係がある。

 これは浮気では無い。交流なのだと無理やりこじつけ仲違いする夫婦それぞれが獣人と仲良くなることは多々あるのだ。

 同種の人間の愛人はダメだが、獣人はいいなどよく分からない法律だがそれがはるか昔から罷り通っている。

 だからこそ、レイモンドは妻としてそばに居る代わりに獣人との関係を持たせて気持ちを満たせばよいのでは? とマリーからしたら最低な提案をフリーダに持ちかけたのだ。

 

「………………よし、これでいこう」


 フリーダは立ち上がり自室に戻ったマリーの方へと向かっていった。

 

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