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「…………ご自分で仕事をしますか? なら、私は外で会いますし」


「……いや、このままで頼む!」


 考えてから、首を横に振った。

 今の生活に仕事を含めるとシェリーとの時間が減ると自分勝手な理由からだ。

 だがらマリーにしたら好都合。

 仕事をしながらまったりとラーゼンを撫でて癒され、たまに甘味を味わい仕事の効率アップ。

 マリーにはいい事尽くめだ。


「……じゃあ、あとの仕事も任せるよ。ただマリー、無理はしないで。何かあったらすぐに俺も仕事をするからひとりで背負い込まないで」


「………………わかり、ました」


 頷いて、レイモンドにお店の内容を聞くか……と呟きながら部屋を出ていったフリーダにメリーはキョトンとした。

 いったい、どんな風の吹き回しかしら……と。





 それから2年が経過した。

 マリーが始めた事業は大成功して商品の数を増やし、今では2店舗目、3店舗目がオープンしている。

 焼き菓子専門店、和菓子専門店、洋菓子専門店と3種類に分かれていてこの世界で唯一のお菓子屋さんとして日々売上を伸ばした。

 他からレシピを教えて欲しいだったり、事業拡大に手伝わせて欲しいと詰め寄る貴族が増えたが、その頃には堂々と隣を歩くラーゼンの存在が抑止となっていた。


 ラーゼン・シュバルツシルト。

 ラーゼンは獣人社会の中でも強い力を誇る虎の中でも抜きん出ている存在らしく、毎日ダラダラとマリーの足元にいる割にはその影響力は計り知れなかった。

 人間社会と共存している獣人たちは、夜会などにも参加する。

 そこで今更ながらに滅多に表に出ないラーゼンの存在を認識して慌てたマリーが居たが、これで距離を置いたら連れ帰って食い尽くしてもう絶対に部屋から出さないと恐ろしい愛を囁かれて全てを諦めたマリー。

 

 そして夫婦はというと、婚姻して2年半が経過して子も出来ずお互い夫婦としての関係は破錠していると周りの貴族が認識するように振舞った。

 その甲斐あって、フリーダは第2夫人としてシェリーを迎える準備を開始。こじんまりとしているが立派な別館を建てた。

 勿論マリーと相談して、シェリーの要望をなるべく叶える努力をしたフリーダはご機嫌だ。


 以前住んでいた家は契約を破棄して、シェリーとその両親は別館に引越しをした。

 シェリーは第2夫人となり貴族になるが、その両親は平民である。

 好意で貴族街の別館に住むようになるが、その生活費は伯爵家から捻出されない。

 移動手段の問題がまだ解決していなく、2年あったでしょうとマリーが呆れている。

 どうにか出来ないかと泣きついてきたのはもうギリギリの日付になってからで、怒りに満ち溢れているマリーの光のない目で笑う恐妻の姿に、フリーダとレイモンドは気絶したい……と震え上がっていたのだった。




「初めまして奥様。私はシェリーと申します」


 カーテシーをしてメリーに頭を下げるシェリーは様々な感情を胸に手を震るわせていた。

 別館も出来て婚姻から3年、マリーは初めて愛人であるシェリーと出会う。

 マリーは鮮やかな青い生地に金の刺繍が入った美しいAラインワンピースドレスを来ていて、相反するピンクにリボンのドレスのシェリーは緊張からか顔を赤らめてガチガチになっていた。

 マリーは穏やかな笑みを浮かべてシェリーを見る。その足元にはラーゼンもいるのだ。


「初めましてナデリスカ伯爵夫人マリーです。どうぞよろしくお願いします」


 2人はマリーとの約束通りシェリーは平民街で過ごしフリーダは2つの家を行き来して愛を深めていた。

 マリーとは夫婦としての愛は無いがフリーダが一方的に親愛に気付き、寄りかかる方が多いとはいえフリーダはしっかりと仕事を再開していた。

 愛にハマって周りを見えていなかったフリーダは、マリーからのキツい言葉に殴り飛ばされながらも伯爵としての矜恃を取り戻そうと奮闘した2年間だった。


 シェリーに愛を捧げたフリーダは変わらず愛を示し続けていた。

 そんなフリーダはマリーとの親愛を個人的に深めていたらしく、ラーゼンがマリーの側にいると嫉妬している様子が見られるようになったのは1年半がすぎた頃だった。

 今も気に入らないとマリーの足元にいるラーゼンを見ている。


「こちらはラーゼン。ご存知でしょうが獣人で私の交友相手です。この本館には良く来ますので、驚かないように先にお伝え致しますね」


 ラーゼンを優しく撫でると、擦り寄ってから人の姿に変わった。

 3年が経ち、さらに体付きががっしりして艶やかな色気を漂わせるラーゼンはシェリーを見てから小さく笑う。

 その男らしくかっこいいラーゼンの姿にシェリーは顔を赤らめて視線をウロウロとさせているのだが、この3年たまに見る獣化している姿しか見たことがなかったフリーダは完全に思考を停止させた。


「…………あ……え? マリーが言っていたラーゼンって……ラーゼン・シュバルツシルト?!」


「……え? ええ……そうねぇ……私も最近知ったわ。社交に頑張るようになったのもお店の為だし……獣人に興味なかったし……」


「えぇ、マリーったら酷いなぁ」


 クスクス笑って腰に腕を回すラーゼンの手をパチンと軽く叩いて、悪戯だめ! と怒ると蕩けるような眼差しを向けられた。

 最近はお仕置しても喜んでしまうので、この馬鹿トラ! となじっている。喜ばれるだけだが。


「滅多に夜会に現れない最高峰の獣人が……マリーの相手……? え……」


 困惑しているフリーダだが、マリーは常に冷静で通常通り。


「それで、別館の毎月の帳簿や使える金銭についてなのだけど」


「えっ?! いきなりお金の話?!」


「ちょっ……マリー!」

 

 シェリーは驚き、オロオロとマリーとフリーダを見比べる。

 フリーダはシェリーにマリーの話をほぼしていないので完全に初めましてなのだが、マリーはフリーダからこの3年間相談をされ続けた。

 相談という名のシェリー尽くしだったのだ。

 もう好みのドレスやデザイン、食や趣味趣向に至るまでシェリーを知り尽くしてしまったマリー。

 だから、初めましてだがそんな気がしない。

 それは、足元で聞いていたラーゼンもだ。


「…………あら、そうでした。まずはお茶会でもご一緒して仲を深めてからのお話ですわね。失礼しました」


 マリーは別館ができ、第2夫人にかかる費用なども計算しなくてはいけなくなる。

 まだまだ全幅の信頼を預ける事は出来ないフリーダと好きな物は好き、と意思表示をして買いたいと思うシェリーだからこそ、帳簿を預けられないと思っているから、早いうちに話をしておきたかった。

 仕事が倍増しようとも、伯爵家が傾くよりは良いだろう。

 

 

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