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「マリー!!」


「あら、なんですか?」


 新作レシピを考えていた所のマリーは顔を上げて無作法にも勝手に入ってきた夫フリーダを見た。

 ウトウトしていたラーゼンは驚き飛び起きて頭を机にぶつけて両手で抑えている。

 虎の姿でその動作は可愛いだけだわ……とソッと撫でながら話の続きを促した。


「…………今、なんか音がしなかったか」


「足をぶつけただけですわ。それで、御用はなんですか?」


「そうだ! 店とはなんだ!!」


 ハッ! としたように聞いてきたフリーダに、マリーは呆れてしまう。

 企画立案し、今まであちこち動き回っていたのは屋敷中の使用人全員が知っている事なのに、その主であり夫であるフリーダは全く知らなかった。

 マリーに興味が無さすぎるだろう。


「店? パティスリィマリーの事ですか?」


「そう! 俺は知らないぞ!!」


「まあ、最初の時に言っていたじゃないですか。何か事業を起こすかもしれませんと。個人で事業を行い私の資産を増やす目的地で開始しましたが、最初の契約でも記載されていますから旦那様に何かを言われる筋合いの無いことですけれど?」


「ひ……費用はどうしたんだ?!」


「勿論実家から持ってきている私個人のです。伯爵家からは一銭も出していませんのでご安心下さいね…………本当に気付いていませんでしたの?」


「言わなければ分からないだろ」


「…………ここ数ヶ月、私は走り回り準備に奔走していましたが、本当に? 何も言っていない使用人すら気付いていましたのに……貴方は私の夫なのに本当に気付いていませんでした?」


「…………」


 ソッ……と顔を逸らすフリーダにため息を吐く。

 1週間に一度のお茶会で、それとなく新しい事業の話もした事があったはずなのに、本当にマリーに関心がないのだ。

 フリーダの中で、マリーはシェリーの相談役とでも思っているのだろう。


「……あなたが私に関心がないのは分かっていましたが、同じ屋敷内で私が走り回っているのを何度となく見ているはずなのに、本当に気にも止めてなかったのですね……こちらは貴方と愛人の方とのより良い生活の地盤固めすら考えていたというのに……」


「……す、すまん」


 流石に居心地が悪いのだろう目線を外すフリーダにため息しかでない。

 足を動かしもふもふとしたラーゼンの毛並みを楽しみながら、冷めた目でフリーダを見る。


「…………まあ、いいです。最初からわかっていましたし、今更ですものね。えーと、パティスリィマリーは焼き菓子専門店です」


「……焼き菓子?」


「ええ、新しく考案したお菓子です。かなり前から試作してお茶会などにも出していましたのでお客獲得に尽力して頂きました。素晴らしい商売をさせて頂いてます」


「…………マリー、その……売上とかは」


「勿論私の個人資産です。お貸ししませんよ?」


「……………………」


 資金からなにから足りず、現状に不安を言うシェリーと、現状を見据えて資金繰りをし伯爵家も切り盛りするマリー。

 嫁としても器が違いすぎる。

 だがやはり、フリーダが愛しているのはシェリーだった。


「…………あの、何を悩んでいます?」


「君が……」


「わたしが?」


「完璧すぎてシェリーが第二夫人になったときに惨めになるんじゃないかと不安になってだな」


「じゃあ離縁します?」


「しない! すぐに離縁しようとしないでくれ!」


「いわれのない不満を私にぶつけられて不快です。嫌なら離縁しましょう? 私は構いません。離縁して実家に帰ることも、平民になっても、交流先に行くことも私には選択肢は沢山ありますから」


「いやそんな……は? 交流先?」


 マリーの言葉に否定していたフリーダが交流先と聞いてピタリと止まる。

 それに首を傾げるマリー。


「なんです?」

 

「今、交流と言ったのか? まさか! 獣人と交流してるのか?!」


「してますけど何か?」


 バン! と机を叩きつけるフリーダにラーゼンがビクリとしてから不機嫌さが溢れ出す。

 獣化は動物の身体能力に近い為耳も良い。

 近い場所で急に大きな音がなりラーゼンの気が立ってくる。


「なんで!」


「なぜとは?」


「…………いや、そうか……俺が許可を出したんだった……そうか……交流があるのか……いつ会ってるんだ?だいたいここで仕事をしているだろう」


「していますね。だからここで会っています」


「…………は? 屋敷に入ってるのか?」


 呆然とするフリーダに頷くマリー。

 これは1度フリーダに確認をしようとはした。

 だが、シェリーの事を中心に生活しているフリーダは、勿論本館であるこの館に帰ってくることは少ない。

 週一回のお茶会と、費用の相談にはくるがそれ以外はたまに食事の時間が被ったり廊下ですれ違う時に話したりするくらいで、2人の関係は極て薄く細い糸ほどの関わりしかない。

 だから、ラーゼンがいるこの執務室と極たまに自室とで会いまったりとしているのだ。

 ラーゼンは、どうやらマリーの側にいて擦り付いていたら満足のようだ。

 今もじゃれつくように足に絡まっている。


「旦那様が好きな時間に愛人の方と会っている時、私は旦那様が本来しなくてはいけない伯爵家の仕事を肩代わりしている物も沢山あります。その私に自由な時間はあると思います? それとも旦那様みたいに伯爵家を顧みず遊び歩いて良いのなら此処にいる時間は極力短時間にいたしますが……」


「いや! 申し訳ない! マリーごめん!! そうだよな……確かにマリーがやってくれるからって毎日しないといけない仕事だったりを放置してた……」


 マリーがやってくれるからと、以前はちゃんとやっていた仕事をマリーに押し付けだしたのはフリーダだ。

 それでラーゼンが執務室に来ていて怒るのは違うだろう。だが、俺の家……しかも伯爵家……とフリーダは悩んだ。

 

 

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