2:はじまり
「それで用件は何ですか?」
この人に関わると厄介ごとに巻き込まれる。絶対にだ。
そもそもあの日もイリオスが言い出していなかったら…また違っていたのかも知れない。
今更どうこう言っても変わらないし、あの日を繰り返してもあの時の私は同じことを繰り返す。
「おい、ここには2人きりだろ」
「はいはい。悪かった。それで用件は?」
「そう急かすなって。茶の一杯ぐらい飲んでからでいいだろう」
あちらのペースに乗せられた負けだと頭ではわかっているが、いつも乗せらてしまう。
勝手にお湯を沸かしてティーセットを準備している。
悔しいがイリオスは万能な男だ。
「おいおい。そんなに見つめてくるなって。そんなに俺の顔が良いから見つめないでくれ〜」
前言撤回だ。イリオスはただのナルシストだ。
用意されたティーカップ。
イリオスの分に座標を定める。
「冗談だって!!……冷った!!!ノルシェン!おまえ」
「どうかしか?イリオスの淹れたお茶は相変わらず旨いな。」
「・・・急に誉めんな。」
怪訝そうな顔をしつつも口元はニヤけている。
これでこっちのペースに戻すことができた。
長年の付き合いだ。負けてばかりでは居られない。
ティーカップを置き、イリオスの方に視線を戻す。
ここからが本題だ。
そもそも優雅にお茶飲んでいる時間もないほど多忙なはずだ。
彼の秘書官は突然のゲリラ豪雨に見舞われて立つ尽くしてる時と同じ状態であろう。
厄介ごとに巻き込まるのもいつものことだから早く用件を言ってほしい。
イリオスもカップを置き、改まった姿勢をとって私に告げた。
「いつ旅立つ予定だ?俺も一緒に行く」
「っーーーー」
風に吹かれた葉を映した瞳。
自分でも動揺したのを感じた。
「…何の話だ?旅立つ?「とぼけんなよ。お前は行くつもりだろう?」
「…」
「執行室もやけに片付いているし、引き継ぎ用の資料も整理されていた。」
普段のイリオスは他人に任せ、厄介ごとに巻き込まれないよう生きている。
相手に意見を求められて場合ものらりくらりと回避し、彼がストレートに意見することはない。
そんな彼が結論から、外堀を埋めた状態で発言してくるのは長い付き合いでも数えるほどしかない。
「あの日…あの場所には俺も居た。
俺も勇者のことは知っていたし、知っていたのに止めなかった。
だからお前だけが背負う必要はない。」
勇者一行の勇者、ユウタスは私の乳母兄弟である。
本当の弟のように可愛がり、我が家公爵邸の敷地で一緒に遊んでいた。
イリオスも公爵邸には顔出すことが多く、乳母兄弟を含めて遊んで貰うことがあった。
いつもと変わらない日々。
その日。
私たちは勇者誕生の瞬間を目撃することになった。