1:はじまり
初めまして。初投稿になります。誤字については温かく見守っていただけると助かります!
よろしくお願いします
山脈には光すら通さない暗雲がかかっていた。
北の辺境伯から届いた連絡はあまりにも早い辺境伯の訃報だけであった。
ー1年前の王都ー
色とりどりの商品が並び、活気に満ち溢れた声が市場に響き渡る。
王家から発表された勇者誕生の知らせに、人々の瞳には太陽の日差しが反射されていた。
勇者一行の旅立ちの日。
門出は祝おうと多くの国民が大通りに集まった。
『勇者様ー!!!!』
『勇者様ー!我が国に救済をー!』
沿道には国民たちからの声援。
一行の頭上は花畑が咲き誇る。
その場に居た人々の瞳には満開の花火が輝いていた。
ーーーーーーーーー
勇者一行からの連絡が途絶えて半年。
王都を出発し、数ヶ月に一度送られてきた定期連絡は今や音沙汰ない。
国の重鎮たちは、北の山脈にかかる雪雲も瞳に映している。勇者一行の両親は過去1番の大嵐だ。
魔物の被害は遠方の方から徐々に広がり、市場の物価上昇や物流の遅延など王都にも影響が出始めている。
国民の焦りや不安の拡大に比例し、教会には多くの人が訪れるようになった。
「どうして!どうして捜索隊を出してくれないのか?」
「ーーーー。」
「国のため、皆のために息子は、、、息子たちは魔王討伐の重荷を背負ったというのに王家は何もしてくれないのか?」
王城には悲痛な訴えが響き渡る。
この国の王族は勇者一行の捜索隊を出すことはないだろう。
王は保身的だ。現に勇者一行には王族はいない。
全ての害悪を魔王という存在に押し付け、自分たちは高みの見物をしている。
あれほど盛大な送り出しを催したというのに。
勇者一行には我々公爵家の者もいないため、この言葉は私自身にも刺さる。
我が公爵家は代々王家に仕えてきた。
私、ノルシェンは公爵家の次男として生を受けた。
公爵の父は王の側近を務めている。
長男イリスも学園に在学しながらも勉学・剣術共に頭角を現して来ており、いずれ父の跡を継ぐのであろう。
私は地位も権力にも興味はない。
与えられた機会を甘受し、ただ色褪せた世界を眺めている日々。
非難されるべき側の人だ。
嵐の雨音が強くなるに比例し、王宮に響く私の足音は早くなる。
扉を開くと、インクと紙の独特な匂いが鼻を抜け、心を落ち着かせる。
「ノルシェン様!」
カウンターに座っていた司書が近づいてくる。
足早にこちらに駆け寄る音は激しい雨音に打ち消されたのか、はたまたこの部屋の絨毯の吸音性が高いのか。
司書から告げらた言葉に若干眉を寄せる。
(こちらに非はない。アイツが勝手に来ているだけなのだから好きなだけ待たせておけばいいものを)
司書に礼を告げ、書庫の奥の方に足を進める。
奥に行くにつれ、人気はなくなり室内が暗く感じる。
心ばかりか雨音さえも大きく響いている気がする。
書庫室1階の自室である執行室を向かうが、そこには目的の人物はいない。
隣接している仮眠室の奥の本棚。
そこには所定の場所である言葉を発すると秘密の通路が現れる。
薄暗い通路を向け、螺旋階段を下る。
目的の場所に到着し、ドアをノックする。
返事受け取ると同時にドアを開くと、そこには見慣れた顔が現れる。
「遅かったな。ノルシェン!」
「イリオス、、、あなたが暇なだけでしょう」
何か巧んでいるの翠色の瞳。
「はぁ、、、」
大袈裟にため息をつく私の姿を見たイリオスはニヤニヤ楽しいそうな様子である。
そんな彼を横目に書庫の奥にあるとは思えない立派なソファーに重い腰を下ろした。