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第18話 王都守備隊


「これは……大分ヤバイぞ……」


 城門は目の前だというのに最後の障害が障害過ぎていた。ミラビリス王国の王都ティユール。その王都守備隊が立ち塞がる。近衛騎士団がいないだけまだマシ……なのだろう。


「俺からも問おう。何故貴殿らがここにいる?」


 隊長の大男,レイバー・オルコットが問いかける。


「あんな魔法撃ち込んどいてそれは無いんじゃないの?」


「そうだそうだ!」


「いきなりあんなことしやがって!」


「信じらんない!」


 レティシアの返答によって和解の可能性は完全に砕かれた。クラスのムードは王都守備隊との決戦ムードだ。


「王都守備隊自体はそこまで強くはない。才能が足りずに近衛に入れなかった連中の滑り止めみたいだからな」


「勝ちの目はあるかしら?」


 小国とはいえ,ここは王都。人口は軽く万を超える。その守備隊も隊員は200名と今の湊斗たちに対処可能な人数ではない。今,湊斗たちを取り囲んでいる10人+2人を退けたとて無事に切り抜けられるか如何かは不明確が過ぎる。

 湊斗は【情報開示】を隊長と副隊長に向ける。


『レイバー・オルコット』

 体力:A

 魔力:D

 筋力:A+

 敏捷:B+

 耐久:A-

 魔力抵抗:C-

 技能:■■■■■■■■Lv.-,剣術Lv.7,喧嘩闘法Lv.5,自動回復Lv.5,覇気Lv.4,バーサークLv.1

 状態:-


『グリーズ・メイキル』

 体力:C

 魔力:B-

 筋力:C+

 敏捷:C-

 耐久:D+

 魔力抵抗:C-

 技能:基礎魔法(火)Lv.7,剣術Lv.2

 状態:-


「副隊長1人なら勝てそうなものだが……」


「隊長は?」


「総力を上げても分が悪いぞ」


「不可能ではないのね?」


「だといいが」


 守備隊は静かに包囲を進めていた。1-Sが退かない以上,包囲されるのは避けられない。時間の問題だった訳だ。

 湊斗と有栖が話している間に包囲は完了され,徐々に狭められていく。


(正面から戦って勝てる可能性がゼロではないと信じてみるか)


 そう湊斗が考えていた矢先,戦闘が開始される。仕掛けたのはレティシア。暴走候補筆頭ではあったか。


「僕1人で,副隊長を抑えられるかもしれません。時間稼ぎをお願いします。ベステさん,カタリナさん! 僕に強化をお願いします!」


 ノアは素早く判断を下し,ちょっとした策のために行動を開始する。


「私たちもやるわよ」


 残されたメイン戦力は有栖,アルトゥール,湊斗,シャルロッテ。ちなみにアジュンは一般兵を相手取っている。


「ミンナ,ノアのカバーに回ってくれ」


「……え,私」


「頼んだぞ」


 念の為ミンナにノアを援護させ,湊斗もまた隊長との戦闘に入る。


(一般兵相手組は少しキツくなるだろうが耐えてくれよ……)


「具合はどう?」


「ボクのことならご心配無く。ただこっちは持って数分です」


 有栖の問いにシャルロッテは手の中の魔導具を見せながら答える。魔術の効果を底上げする物で,有栖たちが3人で理事棟に侵入したとき,遭遇した下っ端から巻き上げた物でもある。

 この世界においてステータスの差は大きなものだ。ランクが1つ違うだけで天と地ほどの差が出る。その差を無理矢理埋めるのがこの使い捨ての魔導具でシャルロッテに強化魔術を使わせると言うものだ。


「よし,何とか2人目だね」


「私は3人片付けたわよ!」


「即席落とし穴決まりっと」


「怪我したの? ほら早く出して,回復するから」


 一般兵相手はそうたたない内に終わるだろう。終わらなければ魔導具が壊れ,状況は絶望的になるが。


「バーンさんかー」


「はい,自分も残念で仕方ありません。何故,このようなことを……」


 葵とバーン。バーンの名前を知っているのは1-Sでは葵と湊斗だけだ。何なら湊斗も名前を聞き出したのではなく覗き見ただけなので,実質唯一とも言えるかもしれない。


「えーっと,メリナ様に仕えてるんじゃなかったっけー?」


「王都守備隊はレグニア公爵家が維持の資金を供出しているのであります。なので,実質的にレグニア公爵家の物となっているのです」


「なるほどねー。でもまあ,うん。仕方ないかー。ごめんね,バーンさん」


「そうですか。自分も──」


 そこで言葉は途切れる。落合裕信の魔術の効果だ。

 落合裕信──魔術適性『幽体行動』を持つ。湊斗とは関わりが薄いが葵との関わりは昔からあり,今回も顔見知りへの攻撃を躊躇う葵に代わり,バーンの意識を刈り取っている。他者に対して割と当たりが強いが,おそらくそれは思春期だからだろう。


「死んではないさ」


「……ありがと」


 その一方でノア,ベステ,カタリナ,ミンナは副隊長グリーズ・メイキルと対峙していた。


「宝石類をジャラジャラ鳴らして,どんな神経してるんでしょう……」


「戦場であるからこそ,美しくあらねばなるまい?」


「……最初見たときも宝石ばかりでした……」


「うるせぇ!!」


「ひゃう!?」


「2人とも,強化をお願いします」


「……!」


【事象増幅】ファノミン・ファシュターコン


  ノアの体に2重目の強化がかかる。シャルロッテのものに比べて効果は小さいが,ノアとしては勝率を上げるために必要な支援と考えていた。


  転移後,有栖とノアが主導し,全体のレベルアップを図った。ベステはその際無詠唱を会得。本来歌うことが条件となっているのユニークスペルを歌わず高い効果で提供出来るようになっていた。


「【悪を裁く,掟の王。孤高の王を支えしは,正義を宿す法の剣──」


 2重のバフをさらに強化増幅で底上げしてもノアとしては安心出来ていなかった。


「長々しく詠唱出来ると思うなよ!【炎熱の螺旋よ,我が敵を包め──フレイムストーム】ッ!」


 ミンナ・ロヒ──彼女は何故この場に行くよう言われたのか理解していなかった。普段からやる気なく,なんとなくで生きてきて。期待されることも無くなり,それが余計に意欲を損なわせてきた。表園学園への入学は家族の意思でもあったのだろう。表園学園はどこから資金を得ているのかは不明だが,学費を求めていない。更には卒業生がそのまま親元を離れるケースが多い学園と知れば,ミンナの家族は喜んで彼女を差し出したことだろう。

 そんな彼女を体現する魔術適性『熱量喪失』。

 だから,理解した。炎を目の前にして湊斗が自分をノアのカバーに入れた意味を理解した。


「【喪失しろ(メネタ・セ)──】!」


 目の前の炎が霧散する。生まれて初めて,期待に応えることが出来たという満足感が体を駆け巡る。ただ薄汚れた灰色の髪は,ここに黒とも白ともつかない可能性の色として新生する。


「その程度で! 止められると思うな!」


 追加の炎弾が放たれる。


「くっ,この! えいやっ!」


 とはいえ,撃ち合えば撃ち合うほど不利だ。ノアの詠唱はまだ終わりそうにない。グリーズの魔力値は,B-。魔法に生きてきた人間相手に,魔力に触れて1ヶ月も経たない少女が多少強化されようと追いつける訳がない。


「──! ……ありがとね,助かる」


 意識がブレ始めたところで,体に活力が戻る。ベステとカタリナによる支援だ。ノアにのみ集中していたその効果が,ミンナにも流れ込む。顔を見る必要も,励ましの言葉を貰う必要もない。ミンナの体は確かに限界が近いが,心はこんなにも満ち足りているのだから。

 湧き上がるなけなしの活力で炎弾を消し去っていく。徐々に顔色を悪くしていくグリーズにミンナは必死になって対応するのに限界で気付かない。ノアの補助を行うベステとカタリナも,ミンナを強化対象に加えたことで意識に余裕は無い。

 だが,ノアは見逃さなかった。詠唱に集中しながらも,自分が不利であると悟ったその一瞬を捉えた。ノアは詠唱を縮め,魔術を行使する。


「──下される鉄槌は,容赦無く悪意を押し潰す──刑罰執行タンフィドフ・エーレアクーウバ】」


  詠唱が終えられると,虚空から現れた無数の腕がグリーズを地面に押さえつける。


「か,体が動かないだと!?」


「まさかここまでとは……もう少し詠唱を短くした方が良かったかもしれませんね」


 【刑罰執行】による刑の内容は行使者依存だが,出力は対象の罪に応じたものになる。つまるところ,想像以上に強すぎて間違えて殺めてしまったり,逆に弱すぎてまるで無意味に終わったりがあり得るということだ。


「ふぅ……はぁ……お,終わったの?」


「上手く行って良かったですね」


 まだ,相手は残っているがフルスロットルで戦った後というのもあって多少息をつく時間は必要だ。


「これ……ほっといて良いんですか……?」


「確かに……かなりエゲツない見た目になってるじゃないですか……」


 ベステとカタリナが腕で拘束されているグリーズ副団長に目を向ける。その光景は,腕が全身を覆っていて,辛うじて顔がどこにあるか分かる程度という異様さだ。


「僕のコレは相手の犯した罪で威力が決まりますからね。自業自得でしょう」


「えぇ……」


 カタリナはちょっと引いていた。

 一方,湊斗はその光景を遠目に見ていた。樫のくだりで分かっていたが,湊斗の『情報統制』は理解度が上がればより詳しく分析できる。そのため,ノアの魔術適性を確認させて貰おうと思うのだった。


(ま,機を逃す訳に行かないから後でだが)


 眼前では有栖が守備隊長レイバーに突撃しているところだった。


「やあっ!──っ!?」


「ふむ,なかなかやるようだな」


 有栖による鎧の隙間を狙った突きを弾き,蹴りで吹き飛ばすと,レイバーは腕に覆われた副団長を含むのびている8人の部下を軽く見やる。これで残る隊員はレイバー含め4人だ。

 すぐに向き直り,大剣を振るう。その大剣をアルトゥールが篭手で受け流す。

 本来なら2人が力を合わせようともまともに戦うなど無理ではあるが,シャルロッテによるバフ効果で何とか戦えているところだ。それでも有栖もアルトゥールもかなり消耗している。篭手もレイピアも限界に近く,制服だってボロボロだ。間違いなく,この小さな戦場で一番の激戦地。


【調律連合】ハーモニアススクワッド……!」


 倒れ込んだままの有栖の魔術によって,動物の形を模した存在が現れる。その形は様々でざっと10匹,或いは10頭といったところだ。


(そろそろどういった魔術適性なのか教えて欲しいところだが……無駄か?)


 アルトゥールと有栖による2方面からの連撃。これをレイバーは歯牙にもかけない様子で弾いて,捌いて,何なら反撃までしていたが,数多くの動物たちによってバランスが崩れようとしていた。


「どりゃぁあ!」


「ふん……む?」


 アルトゥール渾身の一撃をレイバーは片手で受け止める。大剣を持ったもう片方の手でアルトゥールを両断せんとするレイバーの視界に,左右から突っ込んでくる牛と鹿の姿が映る。レイバーは素手では無いとはいえ,金属製の篭手を片手で受け止める程の力量の持ち主だ。故にその鹿と牛の突撃を受けても戦闘続行は問題なく可能だと見破った。


(動物たちのスペック低いの見破られてるわ……)


 シャルロッテのバフはあくまでも本人に対するバフである。動物たちは召喚獣のため,スペックは元の有栖に依存しているのだ。そのため有栖は大きな打点にするのではなく,動きを崩すために生成していた。

 小さな動物たちをメインで使い,大型を少し下げて待機させる。その結果,弱いのは小型だからと印象付けるつもりだった。だが,そんな有栖の目論見は守備隊長には通用しない。比較的大型である牛と鹿を嗾けても,動じもしなかったのが証拠だ。

 だが,振り下ろす直前でその動作は中断される事となる。


「ははっ,驚かせてくれるじゃねえか。小僧」


 その場を飛び退いたレイバーの居たところを圧縮された魔力弾が駆け抜けていった。攻撃対象に避けられたそれは,城の壁を大きく穿つ結果に終わる。


「俺も驚いた。まさか避けられるとは思わなくてな」


 シャルロッテが魔導具経由でバフ効果を発動したことで,クラスメイト全員のステータスは大きく向上している。


『藤室・湊斗』

 体力:C-

 魔力:B

 筋力:C

 敏捷:C+

 耐久:C-

 魔力抵抗:B-

 技能:情報統制Lv.?,基本魔術Lv.3

 状態:-,■■■■,(?)


 これがバフ込みのステータス。ランクにして2ランク相当の上昇というインチキと言っても良い程の上昇効果。

 そんな,湊斗が戦闘開始直後から密かに魔力を練りここぞというタイミングで放たんとした魔力弾。当たればレイバーといえど大きなダメージは避けられない……はずだった。アルトゥールの犠牲を避けるためとはいえ,牛と鹿に反応を示さないレイバーを止めようと放ったせいで最大の好機は逸した形になる。


「何すんのかとは思っちゃいたが……存外,恐ろしいことをしてくれる。仕切り直しと行こうや」


 シャルロッテの増幅バフは間もなく切れる。おそらくそれも分かっての発言なのだろう。その口は笑っている。直に狩りに移行するが,それでは()()()()()。レイバーは好敵手に飢えていた。守備隊の中に自分とやり合える猛者はいないのだから。

 残り時間の少ない湊斗たちと人数の少ないレイバーたち,門を前にした戦いは,第2ラウンドに突入する。


キャラクターメモ

『グリーズ・メイキル』

名字持ち──とどのつまり貴族である。跡継ぎになれず,こうして王都守備隊の副隊長の座に収まっている。異世界にやってきた湊斗たちのファーストコンタクトの相手なのだが……小物感を漂わせたまま出落ちした。


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