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第15話 王城暮らし

 

 朝日が部屋に差し込み,湊斗は目を覚ます。パジャマなどの用意も無かったため制服のままだ。ポケットに入れたままになっていた携帯端末を取り出す。自分の寝相の良さに感謝しながら画面をつけると時間は6:54と表示されている。日の出はもっと早い筈だがこの時間になってようやく日が差したのは部屋の向きの問題だろう。日付は3/28となっているがこの世界の暦と一致しているかは不明である。……当然圏外な上,充電不可能だ。購入早々お役御免とはなんとも哀れである。その購入資金は有栖なのだが。


 朝食のため,食堂に移動する。昨日聞いたとおり,過去に召喚された一行のためと思われる設備は整っており,それなりに大きな食堂もある。

 食堂の入り口付近にミィナの姿を見かけた湊斗は【情報遮断】(じょうほうしゃだん)を使いながら近づいていく。【虚無境界】(きょむきょうかい)でも良かったが,こちらの方が燃費が優れている面と,性能が少し劣るという面で【情報遮断】を選択した。


(さて,どんな反応になるか)


 少し早足で近づいていき,1mを切ろうという距離で声をかける。


「早いな」


「ひゃう!?……し,失礼しました。気配を感じなかったもので……集中力が足りなかったでしょうか」


「出会ってそう時間も経っていない。今の俺には判断しかねるな」


「それもそうかもしれませんね……。あ,朝食の用意は出来ていますので,いつでもどうぞ」


 ミィナは魔術を使ってまで驚かしてきた湊斗にもすぐににこやかな笑顔で対応する。

 そんなミィナの反応に満足しながら湊斗は食堂へと足を踏み入れる。多少,急いで掃除した感じはあったが,綺麗な部屋とおそらく水準が高いであろう食事が迎えてくれる。


「お,フジムロくんも朝ごはんかな?思ったより美味いよ」


「なら,多少は期待できそうだな」


 席に着くと隣に座っていたアジュンに声をかけられる。ちなみにその後ろの壁際に料理担当のメイドが1人複雑そうな表情を浮かべていたのだが,2人とも気づいていなかった。


「いつもこれくらいの時間なの?」


「流石に普段よりは遅いけどな。昨日は怒涛の1日だった」


「今日からどうするの? 正直何がなんだか」


「それは俺もだ。取り敢えずは望月が何とかするだろう」


 確かに今後の方針を固めるのは急務だ。湊斗としてはこの国とは友好関係を築きたいところだが,何故召喚されたのかも何故監禁状態だったのかも説明が無い。不信感を植え付けるのには十分だろう。


「フジムロー,何の話してるんだ?」


「裏切り者のラヴィーンか」


「やめろよ……不可抗力だろあんなん……」


 丁度食堂に入ってきたリチャードが,会話に参入してくる。裏切り者というのは元の世界でアルトゥールに連行される湊斗を見捨てた故の事だが,それを知らないアジュンには何の話か分かる筈もなく,ただ怪訝な表情を浮かべるだけだ。


「はぁ……話が脱線しているぞ,ラヴィーン」


「脱線させたの俺じゃねぇよ!」


「話を戻すと,いきなり飛ばされた異世界での身の振り方について話したんだ」


「だから俺が悪いみたいな言い方……もういいや」


「ラヴィーンくんは何か考えてる事とかあるの?」


「さあな。ま,なるようになるさ」


「楽観的過ぎるんじゃないか?」


 楽観を悪としたい訳ではなかったが不自然が重なるこの状況での楽観的観測は悪手に思えた。湊斗としてはまさしく内憂外患のこの状況で何を楽観視したのかは気になるところだったが。


 その後も朝食を満喫しながら話に花を咲かせていると1人の兵士が食堂に入ってくる。


「誰かな? あれ」


「何か問題でも起こしたのか?」


「それで俺を見んなよ……」


 クラス中から注目を集めた兵士の男は視線を向けられ慣れていないのか居心地の悪そうな表情を浮かべながら空きテーブルへと歩いていく。持っているのは紙の束。湊斗はその紙束を見てふと呟く。


「メリナが計測してたステータスどうこうってやつだろう」


「ますますゲームじみてきたというか何というか,だね」


「俺は結構楽しくなってきた感じだぜ?」


「それに関しては俺も同感だね」


 盛り上がるリチャードとアジュンを傍目に湊斗は兵士の持つ紙束へと意識を向ける。そこに書かれている文字は自らの慣れ親しんだものではない。だが不思議と理解できる。


(不思議な感覚だ。自分の分かる言語になって見える。そこに書かれているのは”絶対に”俺の知る言語ではない。それどころか地球上に存在する言語かも怪しい。──脳が既知の言語に無理矢理置き換えている……?)


「昨晩の計測結果をお持ちしました」


 そう言ってテーブルの上に紙束──紙28枚を端を揃えてから置くと,兵士は足早に立ち去っていく。


「メリナのパシリ……か」


 立ち去って……いなかった。正しくは湊斗の呟きを聞いたのか引き返してきた。


「じ,自分は断じてパシリではありません!心からメリナ様にお仕えしているのでしゅ!」


 その表情は緊張で硬くなり,自分が噛んだことにも気づいていないようだった。


「なるほど,そういう……」


「でも年齢差凄くねーか? 10歳差程度じゃ済まなそうだぜ?」


「相手は公爵家令嬢……そのような不埒な考えなんてありません!」


 今度は勘違い発言をしたアジュンとリチャードに矛先が向く。それをいいこと湊斗は思考に集中する。


(レグニア家は公爵家,という訳だ。それがわざわざ,となるとメリナも相当な変わり者ということか)


 公爵家令嬢の身分にあるものがわざわざ召喚した異世界人たちの能力計測を行うだろうか。

 相手の素性も思考パターンも不明なままに推定娘を送り込むだろうか。


(中世風な世界観である以上,コレが男なら自然に受け止めれたんだがな)


 ただ,女性も十分に力を保持しているなら湊斗にとってもありがたい話だ。むしろそうであれと考えながら湊斗は自分の計測結果を眺める。

 兵士の男はいつの間にかリチャードとの論争を終えたのか足早に立ち去っているところだった。


「俺にも見せてくれないかな?」


「構わない」


 尋ねるアジュンにそう返しながら,湊斗は内心戦慄する。

 計測結果として提示されたのは名前を除き6種。湊斗になら確認のできる技能と状態を含まないものだ。隠蔽していたはずが見抜かれている。

 つまりメリナには湊斗の隠蔽を見破る技量があったということ。情報の隠蔽は湊斗の持つ魔術適性に沿ったもの。メリナと対面していた時間はそう長くない。あの時間でクラスメイト全員分の計測を行っていたのなら,メリナの技量はかなり高いことになる。


(俺の隠蔽前に計測した線もあり得るが……あの短時間で計測を終えている以上,楽観はすべきじゃないか)


『ウォン・アジュン』

 体力:D

 魔力:E

 筋力:E+

 敏捷:D-

 耐久:E+

 魔力抵抗:E-


 紙に記されている内容は以上の通り。湊斗は自身の魔術をアジュンに向け,特に差はない事を確認する。技能や状態の差は魔術適性と基本■■のレベルが1であることだけだ。


「思ったより高くて驚きだな」


 湊斗は素直にそう口にする。


「まあ,いろいろとね」


 アジュンの能力は魔力と魔力抵抗が低いという魔術師らしからぬステータスだ。この2つを除いてステータスは湊斗以上。一応同ランクでも差はあるため敏捷に関しては湊斗の方が高い可能性もゼロでは無いのだが。


 その後も軽く話した後,アジュンは食堂から去っていく。湊斗は計測結果を受け取りに来るクラスメイトのステータスを確認し,差がないかを確認する。自身含め,誰1人計測結果と湊斗の【情報開示】(じょうほうかいじ)に差がある生徒はいなかった。


(さて,この後はどうするか……)


 内心で呟きながら湊斗は席を立つ。まだ何人か食堂内にはいるが気に掛ける必要はないと判断した結果だ。

 食堂を出ると,目の前の庭に2人分の人影を見つける。


「何を話してるんだ?」


「この世界の植生について話していました」


 シャルロッテがそう返す。湊斗はその返しを聞くと【情報開示】を目の前の植物に向ける。


『木』()


「木……」


「?どうかした……?」


 『木』としか表示されなかったのは湊斗にとっても想定外だった。思わずの呟きにもう1人の生徒が反応する。

 アーキル・アーリム・アッラーム──湊斗とは特段関係がある生徒では無い。魔術適性は『記憶書庫』。有栖曰く,行使する魔術に自らの記憶から属性や性質,概念などを追加で付与できるという。なお,他の多くの生徒と違い中等部入学時に日本に渡ってきた生徒だ。かなり勉強ができ,定期試験では教科問わずいつも1桁順位だった。……因みに湊斗の順位はもう少し下である。


「俺の魔術で視てみたんだが……『木』としか出なかったんだ」


「あぁ……なるほど。多分樫だと思うんだけど……」


『ミラビリアン・クウェルク』


(表示変わりやがった……)


「今ので情報が更新されたみたいだ。『ミラビリアン・クウェルク』になっている」


「それなら樫で間違い無さそうですね。ミラビリアンということはこの国の発祥か固有種なのでしょう」


「植物の生態自体は変わらないのかな。となるとこっちは──」


(想像以上にレベルが高いな……)


 湊斗はアーキルが関わっている以上,それなりに学に富んだ会話だろうとは思っていたがここまでだとは想定していなかった。湊斗には完全では無いとはいえ前世の記憶がある。それ故に忘れかけることも多いが,1-Sは高等部1年である。何なら地球の暦を引き継いだ場合今は3/28。所属は未だ中等部だ。中等教育を受けるのが中等部と高等部,高等教育を受けるのが大学……。なんと紛らわしいものだろうか。

 ともあれ,そんな年代の子供が話す内容では無いだろう。


「俺はそろそろ行くとするよ」


「もう行くのですか? ……無理に引き留めはしませんが,もう少し手伝ってくれても良かったのですよ」


「その発言が既に引き留めようとしてるだろ。それじゃ,また後で,だな」


「最後に1つだけ」


 シャルロッテのその言葉に湊斗は足を止める。


「こちらは任せて下さい」


「助かる」


 そう言い残し,湊斗は庭を離れる。


(俺は俺で動くとするか。後顧の憂いは断てたことだしな)


キャラクターメモ

『アーキル・アーリム・アッラーム』

序章ではまるで出てこなかったがようやく登場。中等部から表園学園に通っていた。

テストでは学年内Top10常連であり,表園学園で学力優秀者として線引きされる上位20%の中でも突出していた。

魔術適性『記憶書庫』は記憶した術式を再現できるというもの。術式自体への理解や制御に依存しないため,多くの術式を記憶する程に強化されていく。


─────────────────────────


ただでさえクラスメイト30人という大量の登場人物がいるのにまだまだ増えます。

減りますが。


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