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遥かに遠き、英雄譚  作者: 鈴汐 タキ
二章 最強を目指す者
33/38

星の導きは望みを見ゆ ー2ー

 ミューズの町をを駆け抜けていく。

 すれ違い様に、ぶつかりかけた人々から非難の声があがるが、今は謝っている暇も無い。


 クオンの下を飛び出しての鬼ごっこはまだ続いていた。相手に気づかれたのか、逃げるように駆けていくので、どうにも捕まられない。

 速い、というよりは、道を知っている感じで、後手をいってるのが原因だ。


 面倒くせぇ。

 だが、逃げるという事は、俺に捕まると不味いということ。早とちりの考えも、意外に正解だったか。嬉しい誤算だ。


 ますます、取り逃す訳にはいかない。

 絶対にとっ捕まえてやる。


 滾る気持ちをのせて、足の回転数を上げていく。

 鬼ごっこしていて分かったが、純粋な身体能力では勝っている。

 付かず離れずの距離を保たれているが、後一押しあれば追いつける。と、なれば、一押しを持ってこればいい。

 

「"敏捷強化(クイックネス)"!」


 唱えた魔法の効果が発揮され、俊敏性が増して、詰める速度が上がっていく。

 よし、これなら、問題なく追いつく事が出来る。

 短い間だったが、楽しい鬼ごっこだったぞ。


「……っ。」


「……やっぱり、紅い。」


 前をいく女が振り返り、視線が交差する。

 フードの下から覗く瞳は、間違いなく紅い色で、いつか見た瞳と酷似していた。


 ノインから聞いていた特徴では、魔人男は白髪に紅眼。一緒にいた女の方は違ったらしいが、どうなっているのか。

 姿を変える手段をもっているのか、はたまた別人なのか。出来れば、面倒じゃないほうだと嬉しいところだ。


 どちらにしろ、後少しで答えがわかる。

 既にもう少しで手が届く所まで来ている。

 加えて、逃げる女が曲がった先は。 


「…………終わりだな。観念しろ。」


「…………。」


 行き止まりだった。

 店か、家かは分からないが、建物に囲まれた路地裏。有難い事に人気が無い。

 

 この辺りの地理に詳しいようだが、焦ったのか?

 どうでもいいが、好都合だ。これなら、多少荒事になっても騒ぎは起きなさそうだ。


 剣を抜いて、切先を目前の相手へ向ける。

 目的の奴なら魔法師と聞いている。

 この距離なら俺のほうが先手を取れるだろう。


「まずは、フードを取れ。」


「……なんじゃ、えらく物騒な奴が仲間になったもんじゃな。それにしつこい。お主、女に嫌われる性質(たち)じゃろう。」


「よく喋るな。いいからさっさとしろ。」


 はいはい、と見るからに余裕そうな女がゆっくりと頭を覆っていたフードを取った。隠されていた容姿が露わになって、剣を握る手に力が入る。


 腰まで届く長い髪は、色素を失ったかのような白髪。こちらを見やる瞳は、血のような真紅。

 肌は黒く無く、俺達と同じ肌色をしているが、違うところも多い。

 目元には鱗があって、耳は尖ってヒレが付いている。衣服に覆われた腕や、脚も恐らく、鱗やヒレがあることだろう。


 魚人族(マーフォーク)


 人の姿でありながら、水中での生活が可能な種族の特徴だ。


 さて、どっちだ。

 魔魚とやらが出て来ている以上、魚人族(マーフォーク)の関係者がいても可笑しくない。

 それか、姿を変えた本人か。

 あの髪と瞳は間違いなく同じ。無関係、という事は無いはずだ。


「名前は。」


「礼儀のなっていない小僧じゃ。まずは、自分から名乗るのが礼儀じゃろうて。」

 

「もう一度聞くぞ、名前は。」


「ふん。……ミスティアじゃ。これでよいか?」


 俺と同年代でも疑いようぐらい若く、愛嬌のある顔の割には古風な話し方だ。そのせいで、年齢の判別が難しい。

 

 にしても、ミスティア、ね。

 軽く記憶を辿るが、覚えは無い。

 魔人ディシードと居た女の名前は、クレアだったはず。……別人、と見たほうがいいのか?


「…………何者だ、お前。」


「?なんじゃ、お主、(わらわ)の事を知らんのか?」


 問いかけたら、何故か怪訝そうに首を捻られてしまった。まるで、俺が知っていると思っていたかのような感じだ。

 

 どういうことだ?

 少なくとも、俺の記憶には彼女の顔も名前も存在していないのだが。……そんな相手を追いかけ回して、剣を向けていると思うと、間違いなくやばい奴だな、俺。


 いや、大丈夫だ。相手が魔族に連なる者なら、俺の行いも問題にならない。何と無く、漂い始めた違和感が不安でしか無いが。

 

「…………ちよっと待て、お主、何で追って来た?」


「…………気になった事があるからだ。」


 何だろうか。

 こう不安な感じが余計に濃くなった。

 馬鹿正直に答えてしまうと、万が一の時もあるし。濁して答えたのだが、どうにも先行きが怪しい。


「…………妾の鱗が欲しいのでは?」


「?違うが。」


「…………妾の髪の毛は?」


「いらん。」


 なんだ、その偏った質問は。

 悪趣味過ぎるだろう。

 いや、人の思考を馬鹿にするつもりはないが、俺にはそんな趣味はない。


「…あぁ!そうかそうか!ふむ、何処で聞いたのかは知らんが、若い割には耳聡いのう。」


「っ!」


 呆けた顔から一転して、悪どい笑みを浮かべたミスティアに、自然と警戒が高まる。

 空気もピリつき始めてきた。

 どうやら、本題に入れそうだ。


 そうだ。俺はお前の正体を――、


「――占い、じゃろう?」


「は?」


「全く。ちと、熱心すぎないかお主。まぁ、いい。その努力に免じて特別にしてやろう。ほれ、なんじゃ、恋占いか?恋占いじゃろ?」


 ……………………すぅ。

 これは、どういう感じだぁ。

 おっと、懐から手のひらサイズの水晶玉を取り出したぞぉ。

 よく、剣を向けられて、平然としていられるな、この人……。

 

「お主のような年頃の奴はほんっとうに、恋愛事が好きじゃのう。そういうのは占いに頼らずに頑張るほうがというに……。」


「あー、うん、すまん、ちょっと待ってくれ。」


「ほっ?」


 にやにやと水晶玉をこねくり始めだした、ミスティアに待ったをかける。頼むから、本気で占いを始めようとしないでくれ。

 自分の恋愛なんて、聞きたくはない。結果が最悪、一生独り身とかだったら悲しいだろ。

 

 どうにも、話が変な方向に向かっている。

 敵意や、悪意は感じないし、なんなんだ一体。

 もしかして、もしかするのか。

 これは、俺が大いにやらかしてしまった感じなのか。いや、でも、彼女の見た目はカイルと一緒だと断言出来るし。

 

 あぁ、くそ!

 面倒だ、もういっその事、全部ぶちまけてやる。


「ミスティア、お前は魔族か?」


 下がっていた切先を再び向けて、眼光鋭く問いかける。馬鹿な質問の仕方だが、見極め方は心得てる。

 瞳の動き、息遣い、身体の機微。どれか一つでも見受けられたら、悪いが捕えさせてもらう。


 何一つも見逃さないように集中する俺を前に、ミスティアがゆっくりと言葉を繋いだ。

 

「お主……………歴史の勉強は不得手なのか?魔族はとっくに滅んどるじゃろうが。」


 瞳は揺らがず、こちらを見据えてる。

 不自然な息遣いはなく、自然体。

 可哀想なものを見る目が向けられている以外は、変な所は見当たらない。


 ふむ。魔族に反応は無しか。


「ち、ちなみに、魔魚って知ってるか?」


「あれじゃろ?最近、ここらを荒らしとる魔物共。鬱陶しいからどうにかして欲しいもんじゃ。」


 ……特に異変はない。魔魚も不発、か。

 ふむ。これは、どうしたもんか。


 とりあえず。一旦、剣は収めるとしよう。

 走ったせいで、乱れた服を整えて、と。

 大きく息を吸ったら、覚悟を決めて。


「すいませんでしたっ!!!!人違いでしたぁ!!!」


「うぉわ、いきなり、おっきな声を出すでない!びっくりするじゃろが!」


 平身低頭、精一杯の謝罪を伝える俺に、ミスティアは、全く可愛くない叫びをあげたのだった。


――――――――――――――――――――――――――


「ほーん。つまり、お主は妾の髪と瞳を見て、探し人と勘違いして、追いかけ回して、終いには、剣を向けてきた、と。」


「はい。そうです。」


 状況変わって、地面に膝をつく俺と、それを腕を組み見下ろすミスティア。

 事情を説明する事に、どんどん冷たい目を向けられてしまい、気付けば膝をおってしまった。

 バツが悪くて、顔を上げられないが、今はより恐ろしい顔をしている事だろう。


「……え、お主、イカれてるじゃろ。普通、かも、ぐらいの人に剣を向けるか?」


「ぐっ。」


「一応、騎士、なんじゃろお主……?アイゼル国の治安悪すぎんか?」


「……普通はもっと、慎重なんです……。」


 あまりのど正論に耐えきれず、言い訳を溢してしまう。全くもって意味を成さないけど。

 本当にミスティアの言う通りだ。


 見た目の他にも、直感的な所も訴えてきていたので、行動したが違っていたのだから、面目ない。


「信じられる要素が一つも無いのう……。」


 仰る通りで……。全面的に俺が悪い。

 呆れが多分に含まれたミスティアの言葉は、甘んじて受け止めるしかほかない。


「はぁ、まぁ、理由はわかったのじゃ。で、その探し人とやらは危険な奴なのか?」


「えっ、あぁ。さっきの魔魚とやらに関わってるかもしれないんだよ。」


 答えてやると、ふむ、と何やら顎に手を当て考えるような仕草をするミスティア。

 今のところ無関係そうな彼女に、教えていいものか悩んだが、魔魚騒動については、ダゴン達も動いているし、問題ないだろう。多分。


 暫くすると、ミスティアがポンと掌を叩いた。


「ええぞ、妾も探すのを手伝ってやろう。」


「は?えと、どういう事だ?」


「なに、妾に似とる奴が暴れておったら、お主のような輩がまた現れるやもしれんじゃろ。」


 当然のように言ってのけるミスティア。

 まぁ、理屈はわかる。過程は違えど、ノインや師匠も彼女を見れば、多少なりとも警戒はするだろうし。もしそうなったら、面倒なのは間違い無い。


 ただ、流石に危険すぎる。

 簡単に巻き込んでいいような内容では無い。

 話してる感じ、戦闘が得意という訳でも無さそうだし。悪いが、断ったほうがお互いの為だ。


「気持ちは有難いが……」

 

「本当に良いのか?主ら、見かけ一つで逸るぐらいには、情報が不足しておるのじゃろ?」


 放たれた言葉に、閉口してしまう。

 ……その通りだ。図星も図星。

 ミューズに来てから、一切新しい情報が回ってきていない。

 本当なら猫の手でも借りたいぐらいの実情ではある。

 どうするべきか。巻き込見たく無いのは本心。だが、少しでも進展が望めるなら手を借りたいのもまた本音。


「一つ言っておくが、妾は表には出んぞ。使うのはコレじゃ。」


「水晶玉?」


 言葉と共に見せられたのは、ミスティアの手の中にある透明な玉。

 そういえば、さっきも占いがどうのと言っていた。まさか、それで居場所を見つけるとでもいうのか?


「察しの通り、占いじゃ。心配するな、妾の占いはよく当たると評判でな。探し物を見つけるぐらいは、朝飯前じゃて。」


「…………。」


 下らない、と捨てるのは簡単だが、一考の余地はある。例えば、固有魔法なんかが絡んでいた場合、信憑性も増してくる。

 たかが占い、されど占いといったところか。

 まさしく、猫の手程度の助力だが、表立って動くのが俺達な以上、彼女に危害が及ぶ危険も少ない。


 見れば、随分と自信があるようだし、これぐらいの助力なら受けても問題はなさそうだ。


「ふむ。どうやら、決心はついたようじゃな。では、占ってやろう。ただ、交換条件がある。」


「なるほど。タダじゃないのな。」


「当たり前じゃろうが。こちとら、いきなり剣を向けられてとるんじゃ、対等に話してやるだけ有難いと思うんじゃな。」


 半目で睨まれるが、返す言葉も無い。

 状況だけ見れば、軍に突き出されても文句は言えないからなぁ。


「で、条件は?」


「簡単じゃ。とある一味を潰してほしい。お主それなりに強いじゃろ?」


 まぁ、思ってた通り荒事だわな。

 初対面の怪しい奴の力を借りたいぐらい、って事は相当まいってるんだろう。

 それか、この短時間で俺の何かしらがミスティアの琴線に触れたか。


「どんな相手か聞いても?」


 悪人や、非人道的な組織が相手なら、問題なく力を貸すのだが、違うのなら残念ながら手は出せない。

 出来れば、前者だと助かるのだが、どうか。


 そう思い問いかけると、考えを見透かしたかのように、小さく笑うとミスティアは答えを教えてくれた。

 

「奴隷商人、じゃよ。」

 

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