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遥かに遠き、英雄譚  作者: 鈴汐 タキ
二章 最強を目指す者
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星の導きは望みを見ゆ ー1ー

 と、まぁ、そんな事があって、漁師の真似事をすること早四日。驚くほどに、馴染んでしまった俺は、現在、項垂れながら街を歩いていた。

 

「リオ君、そない落ち込まんでも……。」


「……ノインにマジギレされたの久々で……。」


「まぁ、仕方あらへんよ。どう見ても、リオ君、目的忘れて楽しんでたしなぁ。」


 あはは、と苦笑しながら隣を歩くのはクオンさん。

 どうやら、彼女もノインと同じような意見だったらしい。安易には慰めてくれなかった。


 あの船で過ごしていく内に、変な高揚感と一体感を感じてしまっていたせいだ。

 完全に魔魚の事が頭から抜けて、認められる事に専念してしまった。

 

 おかげで、最初では考えられないぐらいには、彼等と馴染む事が出来たが、冷静になると、最高に恥ずかしい。


「ウチはノリがええ人は好きやし、ああいう一面見れたんは好印象やで?」


「そりゃ、どうもです。」


 可愛げたっぷりと目を細めるクオンさんに、多少なりとも癒される。美人にこう言われて悪い気はしない。


 当然だが、ノインとは別行動中。

 漁船での生活で、大した進捗が得られず、街に繰り出しての情報収集となったのだが、氷よりも冷たい態度で同行を拒否されてしまった。


 代わりにクオンさんが来てくれたのは有難いが、早く機嫌を直しておかないと、面倒なのは間違いが無い。

 一番は何とか有用な情報を持ってくることなのだが、残念ながら上手くはいっていない。


 と、いうより、俺達がミューズに着いてからは、どうにも動きがない。魔魚の騒動なんて、作り話かのように穏やかな日が流れている。


「しっかし、あかんねぇ。誰に聞いてもここ最近は何もあらへんって。」


「可笑しいぐらいに、平和ですね。」


「やねぇ。」


 本当に可笑しい。これまでは三日に一度は襲撃が必ずあったらしいのに、そんな素振りは見当たらない。

 影すら見当たらないというのだから、返って不気味になってくる。


 考えられるのは、二つ。

 一つは、本当に偶々出会していない可能性。

 向こうの準備中か、在庫切れかは知らないが、相手さんにとって都合が悪い時期だった。


 もう一つは警戒された可能性。

 俺達というより、ノインは顔が割れてるので、ミューズに来た事がバレて、動きが緩くなっているってのは大いに考えられる。


 どちらかといえば、後者の方が可能性が高いだろうな。そうなれば、何かしらのノイン対策も講じてきそうなのが面倒だ。


「そないしても、人多いねぇ。やっぱり皆ローレライはん、目当てなんやろか。」


「……男はそうかもですね。他にもご飯目当ても多そうですけど。」


「あぁ、ほんまやね!ええ匂いしてるもんなぁ。」


 見渡せば、道に並ぶ様々な露店と、行き交う人々が視界を埋め尽くす。

 若干、男が多いようにも見えるが、まぁ理由は、言わずもがな。


 露店からは良い匂いが立ち上っていて、気を抜けば釣られてしまいそうになる。

 クオンさんを見れば、耳と尻尾が忙しなく揺れていて、今にも店に飛びつきそうだった。


 そうしないのは、彼女なりに気を遣ってくれているからか、それとも、年上としての矜持なのか。

 どちらにしろ、可愛らしい意地だと思う。


「……そういえば、俺、お腹空いたんですけど……軽く腹にいれません?」

 

 そう言えば、ピンっ、と耳が縦に張り、分かりやすく反応してくれた。

 感情表現が豊かで有難い。ノインにも付いてくれないだろうか。


「リオ君が、そういうなら仕方あらへんね。どうしてもいうなら、付き合うたるで。」


「じゃ、どうしても、なんで付き合ってください。」


「ふふふ、しゃーないなぁ。」


 頬に手をやり微笑む姿は、如何にも、ゆとりのあるお姉さん、といった感じ。

 だが、大きく左右に揺れる尻尾が彼女の尊厳も保たせてくれない。

 ぶんぶんと音でも出そうな勢いで振れているので、こちらとしては微笑ましさが勝ってしまう。


 ものすごっく、お腹すいてたんだなぁ。

 匂いに釣られて、余計に増してたんだろうなぁ。


 なんて、温かい目でクオンさんを見てしまうのも、仕方無い事だと思う。


「ほな、あの屋台いこかぁ!この通りで、一番美味しそうな匂い出してるわぁ。きっと、秘伝のタレとか使うてはる!」


「ははっ、りょーかいですっ!」


 既にを目を付けていたのだろう、人の波に逆らいながらも、流れるように進んでいくクオンさん。

 はぐれないように、俺もその後を追いかけていく。


 鼻は確かなようで、確かに歩を進める事に食欲を唆る匂いが増していく。

 焼き物の香ばしい匂いが、食欲を刺激して、俺の足も早くなっていく。


 実際、朝から肉体労働をしていて、お腹は空いていたし、我ながら悪く無い提案だったな。


「ふふふ、他にも露店あるおかげで、そないに待ってる人おらんへんね!」


 興奮冷めやらぬ、と言った様子で口元を拭う素振りを見せたクオンさんは、嬉々として四、五人が並んでる列に参加した。

 遅れて俺も隣に並んだが、確かに思っていたより待ちの時間が少なく済みそうで嬉しい。


 昼時とはいっても、大通りの両脇に並ぶように店が出ていれば、客足も散り散りになっているのだろう。


 ノインにも買っていってやりたいが、彼女も彼女で行動しているせいで、合流する時間が良くわからない。

 せっかく出来立ての物を買っても、渡す時には冷め切っている、なんて事になる可能性があるので諦めるしかない。

 露店の焼き物一つで機嫌を取れるとは思っていなが、少しぐらいは足しになってくれただろうに。

 

 皮算用で内心残念がっていると、相変わらず尻尾を左右に振っているクオンさんが、思い出したかのように口を開いた。


「そういえば、リオ君って魔法師やないんやね。」


「そうですね、師匠やノインに習ってはいますけど、基本的にはこいつです。」


 軽く体を揺らして、腰に下げてる剣を鳴らす。

 ミューズに来ても素振りはしていたし、近くで見ていたクオンさんも察したのだろう。


 まぁ、この人なら、重心や、筋肉のつき具合などから、最初から気づいていても可笑しくはないのだが。

 同じく、数日ほど彼女を見ていて、相当な使い手だと俺も察している。


 さっきの人波を進む時の動きもそうだが、全体的に足運びに無駄が無い。

 カイル以上、グリード未満、ぐらいの実力は備えているんじゃなかろうか。


「ほな、剣もリゼちゃんに教えてもろたん?」


「いや俺の我流です。師匠は見てくれはするんですけど、教えてはくれなくて。」


 何か気になった事でもあるのか、小首を傾げて聞いてくるクオンさんは少しだけ眉根を寄せていた。


 師匠は魔法に関しては右に並ぶ者がいない猛者だが、剣に関しては手慰み程度に修めてるだけなので、講師役としては物足りない。

 その割には目の付け所が鋭いので、助言は貰う事はあるけど。


 師匠と浅く無い付き合いがあるみたいだし、そんな事は聞かなくても分かると思うのだが。 


「……ふーん。相変わらずイケズやね、リゼちゃん。」


「?」


「何でもあらへんよ。気にせんといて!」


 そう言われても、気になってしまう。

 ふい、と顔を背けられてしまったので、答える気はないのだろうけど、むぅ。

 なんか釈然としない。いや、師匠の性根がよろしくないのは知っているが、にしても、気になる言い方だ。


 言い出した本人が、再び目を輝かせて露店の主を見つめてしまっているので、残念ながら続きは聞けそうにも無い。


 師匠も何かしらの心得を習得しているのだろうか。貴族の出だし、無くは無い。

 もしそうなら、教えてくれないのは確かにイケズだと思う。


 突如として湧き出た疑問に頭を捻る事、数分。当然、答えが出るはずもなく、気づけば列の最前列になっていた。


 既に支払いを済ましていたのか、クオンさんが数1十本の焼き串を受け取っている最中で、その手際の良さに少し呆れてしまう。


 って、めちゃくちゃ買ってるな、おい。

 二、三本ぐらいの間食のつもりだったんだが、しっかりとした昼食になりそうだ。


「おおきに!……リオ君、遠慮せず好きなだけ食べてやぁ。ウチの奢りやで!」


「あはは……有難うございます。それじゃあ、いただきます。」


 満面の笑みと共に差し出された焼き串は、魚の身が全面に塗られたタレで輝いていた。

 包みも貰えたらしく、差し出された一本以外はそこに収まっている。


 せっかくの好意だし、言葉通り遠慮せずいただくとしよう。というか、本当に旨そうで俺も涎が止まらない。


「っ。……んまっ!」


「んんっ〜!堪らんわぁ!」


 欲望のままに口に運べば、期待を裏切らない味に二人してついつい感想が口を出る。

 ミューズの食べ物が美味しいとは聞いていたが、露店も、とは恐れ入った。

 これなら、何本でも食べれそうだ。


「……っと、すいません!」


 危ない。焼き串に気を取られて、人とぶつかる所だった。というか、少し肩が当たってしまった。

 咄嗟に謝りはしたが、大丈夫だろうか。


 相手を見ると、俺の胸元ぐらい、クオンさんやノインと同じぐらいの背丈のフードを被った女性で――――。


「…………っ。」


「……なんや、行ってもしもた。急いではったんかな?……リオ君も気をつけなあかんでー、って、リオ君?どないしたん?」


「――悪い!クオンさん、ちょっと用事が出来た!」


 しまった。一瞬呆けている間に行ってしまった。

 急いで追いかけねぇと、見知らぬ土地にこの人通りだと容易に見失う。


「へ?ちょ、どないしたん!?あ、待ち、待ちって!!」


 後ろから静止の声が聞こえてくるが、構っていられない。後で、謝るんで許してください。

 今は、さっきの人を追いかける事が最優先。人混みに紛れて見失う前に捕まえる。 


 ちらりと見えた、フードの中。

 見間違いで無ければ、追いかける理由には充分すぎる。……違ってたら、精神誠意で謝るとして。

 

 自分でも少し早計だという自覚はある。ノインから聞いていた特徴とは少し違っているし、女性だというのも該当しない。が、完全に捨ておけるものでも無い。


「カイル、それに、魔人とやらと同じっ!」


 見えたのは、見て聞いた魔族達が持つ特徴と同じモノで。


「白い髪に紅い瞳っ!見逃すわけにはいかねぇ!」

 

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