エピローグ ー2ー
快晴の下を、数羽の鳥が自由に飛び回る。
その切先が狙うのは水面に映る魚か、それとも、浜辺で切り捨てられた死体の山か。
うるさく騒ぎながら旋回する彼らにとっては、どちらでも構わないのだろう。
「あ、姉御、一体どうしましょうか、これ。」
額にバンダナを巻き、丁寧に剃り上げられた頭に手をやった男が困ったようにそう告げた。
袖の無い上着から見える腕は太く鍛えられており、日に焼けた健康的な色している。
その身体からは、長い間、日の下で働き続けている事が容易に見てとれる。
「せやねぇ。ほんまに、どないしよか……?」
答えたのは、男は打って変わった容貌を持つ女性。
顎に手をやり困った様子を見せるのは同じだが、その見てくれが何から何まで正反対。
身を包むのは、着物、と呼ばれる耽美な衣服。白い布地に、袖口で華が描かれており見るからに高そうな衣服。
すらっと伸びた手足は白く、目尻の垂れ下がった瞳、肩口で切り揃えた金茶色の髪。漂う柔らかい雰囲気もあってか、どこかの令嬢といえば、疑われる事はまず無いだろう。
そして、何よりも特徴的なのが。
彼女の頭に生えている尖った耳と、背中の後ろで揺れている大きな尻尾。
どちらも髪と同じく、金茶色で狐と同じようなそれは、まごうことなき獣人の証。
「ウチも斬ったはったは得意なんやけど、こういうのは専門外やしねぇ。」
「ウチでは、荒事が少ないせいか、詳しいのがいないんでさぁ……。」
「何とかはしてあげたいんやけど、さっぱりやわぁ。」
二人して眉根を下げて会話する男女の目の前に広がるのは、死骸の山。
積み上げられたそれらが、悩みの原因なのは間違いが無い。
綺麗に首を落とされた死骸自体はどうでも良い。
問題は、なんの、である。
「ほんまに、見た事ない魔物ばっかりやわ。これでも、ウチも色んな魔物見てきたんやけどねぇ。」
積み上げているのは、魔物の死骸。
魔魚、とでも呼べばいいのか、魚に似たナニカの亡骸。
鋭く尖った牙をもち、肥大化したヒレは羽にも見えるそれらは、獣人と男性にとって、いや、この国にでは見かけた事の無い怪物達だった。
「人魚の宴も迫ってるってのに、何だって、こんなのが急に現れるかね…………。」
「お祭り前に難儀やね……。」
そうして、頭を悩ませていること数分。
突然、獣人の耳がピンと張った。
「せや、リゼちゃんに頼めば、何とかしてくれはるかも!」
「ほ、本当ですかいっ!?」
「うんうん、ほんまやで!リゼちゃんは魔法にごっつ詳しいし、頭もええから、ちゃっちゃっと解決してくれると思うわぁ!」
「そんな方がお知り合いにっ!さすがは姉御、頼りになりますっ!!」
先ほどとは一転して、きゃっきゃっと楽しげな声をあげる男女。
左右にふらふらと揺れる尻尾も、獣人の彼女の今の気持ちを如実に表している。
「そうと決まれば、リゼちゃんに手紙かかんと!」
「では、自分は迎えの準備を整えておきましょうか!……その御仁は魚はお好きですかい?」
「嫌いや無いと思うよ?けど、そんな心配せんでも任せとき。」
――リゼちゃんのことなら、なーんでも知っとるさかい。




