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遥かに遠き、英雄譚  作者: 鈴汐 タキ
一章 英雄を目指す者
23/38

夜明け、輝きは微笑みとともに ー1ー

 昼下がり、王都を行き交う人々からは楽し気な笑い声や、なんて事のない世間話が聴こえてくる。

 大通りを歩けば、食欲を擽る匂いがあちらこちらから漂っていて、どの店も看板娘が張り切って客引きをしている。


 数日前に、王都を騒がしていた魔力喰らい(マナ・イーター)事件が解決したと正式に発表かれた影響もあって、いつにもまして活気付いていた。 

 

「えーと、念の為聞いとくけど、嘘じゃ無いよな?」


「えぇ、嘘じゃないわ。」


 そんな賑やかな王都をノインと歩きながら、いましがた彼女から語られた内容に俺は唖然としていた。


「……グリード卿の大怪我って師匠のせいだったのかよ……。」


「何度も言わせないで。」


 そう鬱陶しさを振りまかないでほしい。

 手放しには信じられない内容なのだから、何度も確認したくもなる。

 何がどうなったら、そんな事故に繋がるというのか。


 怪我の具合を聞いて予想に違わず強敵だったのか、と一人納得していたの何とも的外れなこと。


「だいたい、貴方にも原因はあるのだから、他人事ではないわよ。」


「俺に?」


 非難めいた目を向けられるが、首を傾げるばかりだ。

 

 本当にそんな記憶はないのだが。

 カイルの最期を見届けた後、次に目覚めた時には全てが終わった後だったし。

 何より、師匠とはずっと別行動だったと思うのだが。


「……使ったでしょう。新魔法。」


 うん。使った。

 使わざるを得ない状況だったし、特に禁じられていた訳でもない。

 何より師匠はあの魔法を知らないはずだが。


「アリーゼがあんなのを見せられて黙っているとでも?」


「………?」


 ピンと来ない俺を見て、嘆息するノイン。

 そんな彼女から改めて語られた内容を纏めるとこう。


『ほう。リオンの割には面白い魔法を創ったな。』

 

 と、こんなところから始まって。


『ふむ。良いな。どれ私もやってみるか。』


 何故か、そんなふうになって。


『グリード、避けろよ。"極致・天剣(ハーキュリーズ・ロア)"!』


『っ!賢者、何を――――』


 で、敵諸共全てを巻き込んで大満足。


 うむ。理解できん。

 どっからどう見ても最悪だ。最悪最低の所業だ。

 ちゃんと聞いて話を整理してみた結果、なおさら分からなくなった。

 

 確かに師匠の全魔力を乗せた一撃なら、如何にグリード卿といえど耐える事は出来ないだろう。


「…………え、これ俺に責任あるか?」


「…………………………………………ええ。」

 

 無茶苦茶を言ってる自負があるようで何よりだ。

 本気で言ってたら、何の疑いもなく師匠(あちら)側へと正式に認定していた。

 

「……まぁ、うん。敵にも命中してたなら良い……のか……?」


「…良くないでしょうね。」


「だよな。うん、俺もそう思う。」


 グリード卿からしたら、たまったものじゃないだろう。まさか、味方から大火力で背中を狙われるとは思うはずもない。

 幾ら敵諸共とはいえ、限度があるのでは無いだろうか。緊急性があった訳でもないのだから尚の事。


「ただ、一概にも否定しづらいのは事実ね。」


「何でだよ?」


 師匠の所業に戦々恐々としていると、意外にもノインからは庇うような言葉が出てきた。

 もっとドン引きしているかと思っていたのだが。


()()()()()()()()()()。」


 戦いの記憶を思い出したのだろう。

 嫌そうに眉根を顰めてノインはそう答えた。


 しかし、またとんでも無い内容だと思ってしまう。


 ノインを含めた三人が手詰まりになった。

 師匠の暴挙を肯定できそうなぐらいには。

 それはつまり、その三人でも手を焼いていた、ということになる。


「って事は、もしかして仕留めきれてないのか?」


「…………どうかしらね。影すら残さず消し飛んだから分からないわ。」


 ノインがそう言うのなら、恐らく生きて逃げおおせているのだろう。俄には信じ難いが。

 でなければ、彼女はちゃんと否定しているはずだ。


「マジかぁ。」


 言わずにはいられない。

 まだ、そこらの劇場でやってる演劇の物語の方が信憑性が持てるだろう。


 彼女から聞いた状況から、生きているだけじゃなくて、逃げる事が出来た奴が二人もいるだなんて。

 そんな話、どうやって信じろというのか。


「念の為に言っておくけど、何度も死んで可笑しく無い傷は与えたのよ。」


「それでも、駄目だった、と。」


 そうね、と小さく首を縦に振るノイン。


 厄介極まり無い事だ。

 魔力を奪う異形の次は不死身の二人組。

 加えて、片方は魔族なんだとか。


 最近は次から次へと、面倒くさい事実ばかり押し寄せて来ている気がする。


「…………カラクリは見抜いたから、次は無いわよ。」


「ん。なら、期待してる。」


 懸念は消えず、不安は拭いきれない。

 だが、それでもノインがそう言うのであれば、信じるしかあるまい。

 

 後、これ以上に言及しようものなら氷河期が訪れそうで怖い。声には苛立ちだとは思うが、怨念にも見える何かを感じる。

 目を凝らせば、黒いオーラのようなモノが見える気もするし。


 それに、あながち嘘でもないことは確かだろう。


 ノインの固有魔法である叡智ノ瞳(メティス・マティ)

 この魔法は、視界が捉えた全ての対象において、魔法に関する事象を(あらわ)にし、その情報を彼女に伝達する。

 発動する為の条件は瞑目するだけ、とお手軽ながら非常に有用な魔法だ。


 そんな固有魔法を持っているノインが見抜いたというのであれば大丈夫だ。

 本人の性格を考えても、意味の無い意地を張ったりもしないだろう。


 ま、今は束の間であろうと訪れた平穏に身を委ねるべきだと割り切っておこう。


 さて、そうと決めたら、早速行動に移してみようではなないか。丁度良いところに、アクセサリーの露店も出ている事だし。


「ノイン、ノイン。どっちが良い?」


 店主に断って、手にしたのは目に付いた首飾りと耳飾りの二つ。

 どちらも銀飾の中に淡い水色の鉱石があしらわれた、派手過ぎないものだ。


 こういう時は選ぶ側が決めるべきなのだろうが、なまじ顔が良い分、どちらも同じぐらい似合いそうで選びづらい。

 なので、ノインが好むほうでいいだろう。


「?……急になによ。」


「いいから。どっち?」


 急な提案だったからか、不思議そうに首を小さく傾げるノイン。

 正直なところ、衝動的な行動ではあるのが、その反応は間違いないのだが、ちゃんと理由はあるのだ。


 カイルという俺も辿ったかも知れない末路を進んだ男。

 結局のところ、俺とカイルで何が違ったのかは、今もわからないままだ。だけど、彼との最後の会話で気付いた事もある。

 

 俺には師匠がいて、ノインがいた。

 

 俺の馬鹿みたいな目標を知って、それでも肯定して、支えてくれる変え難い存在がいる。

 それがどれだけ有難い事なのかに、改めて気付いたのだ。


 言葉にすると気恥ずかしいが、そう思ってしまったなら放置は出来ない。

 という事で、感謝を込めた贈り物って訳だ。

 まぁ、儲け物だと思ってもらってくれると助かるのだが。

 

「……耳飾りのほうが、普段つけやすいわ。」


 ぶっきらぼうに呟かれた言葉だが、その意味が伝わってきて嬉しくなる。

 

 そっか、普段つけやすい方を選んでくれるのか。

 

「ん。おっちゃん、こっちの耳飾りもらって良いか?」


「あいよ!そっちの美人さんがつけてくれるってなら、まけといてやるよ!」


「ありがとさん。」

 

 上がりそうになる口角を必死に抑えて、店主に代金を払う。

 選ばれた耳飾りは、留め具に小さな水色の鉱石がぶらさがっている簡素なモノ。

 特別な効果も無ければ、高価な逸品でも無い。


 それでもノインがつけるのであれば、きっとどんな宝石よりも輝いて見えることだろう。

 店主が安くしてくれる理由も共感できる。


「ほら、受け取ってくれ。」


「………………。」


 手渡した耳飾りを受け取ると、品定めするかのようにまじまじと手にある品を見つめるノイン。

 

 どうかしたのか、と思って不思議に思っていると、何も言わずにそのまま耳へとつけ始めた。


「……似合ってるかしら?」


「文句なし、だな。」


 後ろからは店主のおぉ、と感嘆のような声が聞こえてきた。

 俺も同じ気持ちだ。思っていた通り、元の耳飾りの何十倍も輝いてみえる。


「そう。………………ありがとう。」


 最後のほうは小さな声で聞き取りづらかった。

 それでも、その感謝の言葉はちゃんと聞こえた。


 だから、俺もちゃんと返してやろう。


「どういたしまして。」


「……………ええ。……行くわよ。」


 つかつかと俺を置いて歩き出してしまうノイン。

 相変わらず愛想が無いが、振り向きざま小さく笑みを浮かべた彼女を見逃しはしなかった。


 異性に贈り物なんてした事が無かったが、まぁ、なんだ。これだけでも、した甲斐はあったと言えるだろう。……ただ、師匠に関しては、余り期待しないでおこう。


 そう結論づけると、ノインの後を追いかけるように足を進める。


「そういえば、何で街に出て来たんだっけ?」


 隣に追いついたときに、ふと思い出して首を捻る。

 何か目的があったはずだったのだが、すっかり忘れてしまった。

 

「そう、ね。確かに何をしに来たのだったかしら……?」


 残念。ノインも覚えていないらしい。

 我に返ったかのように、同じく首を傾げている。


 確か、えーと。誰かに頼まれごとをされて。

 そう、そうだ、グリード卿だ。

 だから、彼の話をノインとしていたのだった。


 頼まれたのは、えと、、、捜索だったはずで、、、、、あ。


 薄れていた記憶を辿って、思い出した時、顔を上げればノインも同じような仕草をしていた。

 

「「エリザの捜索。」」


 意図せず重なった声に、どちらともなく笑みが溢れた。

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