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遥かに遠き、英雄譚  作者: 鈴汐 タキ
一章 英雄を目指す者
14/38

嵐の前、一時の安らぎ ー1ー

 王都の離れ。栄える中心部とは違い、緑が幅をきかせる中、ポツンと一軒だけたった家屋。

 教会のような見た目をした家屋にしては大きい一軒家。俺が、俺達が育った孤児院。

 ……懐かしい景色だ。たった一年離れたいただけなのに、哀愁にかられてしまう。……これが、夢の世界の中だとしても。


 広がる草原の中、二人の少年が木剣を交わしている。幼き俺と親友(レオ)の二人。景色を見下ろす自分の身体は浮いていて、記憶がなぞられるのを見守るばかり。

 これは、レオと約束を交わして一年後ぐらいのの記憶のはずだ。……本当に懐かしい。近頃は昔の夢を見る事がめっきり減っていたから余計にそう思う。

 

 剣戟が重なり鈍い音がリズム良く響き渡る。受けて、返して、斬りかかって。繰り返し続けられる剣戟の中、大きな機転が訪れる。


 レオが足元を地面に取られて体勢を崩したのだ。相対する幼き俺にとっては絶好の攻め時。真剣勝負、見逃すはずもなく。瞬時に死角に潜り込んだ幼き俺が勢いそのまま横薙ぎの一閃。

 

 勝者が決まる。


 片方の木剣が弾き飛ばされて後方へ。呆気に取られている間に、勝者の剣が敗者の首元へと突きつけられた。武器を失い、生殺与奪を握られる。誰がどう見ても決着がついた。


 勝者はレオで、敗者は俺だった。


『っ!……負け、だな。』


『へへっ!これで俺の勝ち越しだっ!』


『…………たった一勝だろ。直ぐにまた追い越してやる。』


『それでこそ、リオンだなっ!』


 確かこれで、二百勝、二百一敗目だったか。追い付いては、追い越され。追い越されては、追い付いて。そんな変わり映えのしない日々の繰り返し。

 互いに高め合う、まさに対等なライバル関係で、互いに実力は拮抗していた。


 仄かに感じる異質さに俺が目を瞑れば、の話だが。


『………………なぁ、レオ。今の剣、良くかわせたな。』


『ん?まぁな!』


 確かに死角からの一刀だったのに、レオは軽やかに避けてみせた。そして、大振りで隙を晒す幼き俺へ的確な反撃の一手。最初から誘われていたのか、とそう錯覚するぐらいには、完璧な動きだった。


『……何で避けれたんだ?』


『なんで、って……。うーん……。……いや、理由は特に無いんだけどなぁ……。強いていえば、勘?』


『勘……。』


『そ!なーんか、危ないなぁみたいな。偶に感じるんだよ、こうすればいい、とか、こうした方が良い、みたいな感覚をさ。今のもそうだなっ!』


 ――リオンもあるだろ?


 破顔してそう語る親友に、幼き俺が返せたのは曖昧な返事。確かなのは、口からでた言葉が肯定的なものでは無かった事。…………当然だろう。


 そんなもの、一度たりとも感じた事など無いのだから。


 勝負を繰り返して、均衡する結果。しかし、勝つ時は接戦にして僅差で、負ける時は完璧な敗北。

 見栄えの良い数字の裏で増え続ける苦い記憶。そんな記憶を減らす為、教えを乞うた時に返ってくる言葉はいつだって同じ。


 ()()()()()()()()


 剣を振っても。

 槍を突いても。

 弓を弾いても。

 魔法を学んでも。

 二人で実力を競い合っても。


 レオはどんな状況でも、何をやっていても、異様に鋭い感覚を発揮した。その度に迫り来る僅かな焦燥感に気付かないフリをして、より多くの時間を修練に割いて、より多くの汗を流して、数字だけを取り繕う。


 それが幼き頃の俺の生き方だった。 


『てか、そういうリオンも、また剣の振りが早くなってたよなっ!本当に凄ぇよ!毎回強くなってるじゃん!』


『………………当たり前だろ。次も、もっと強くなってるさ。』


『流石だな……!俺も負けてらんねぇ……!』


 つい口をついて出そうになる言葉を飲み込んで。沸き上がりそうになるナニカに蓋をして。さも当然とばかりに平気な顔をする。理由はたった一つだけ。


『絶対になってやろうぜ、英雄に!』


『…………おう。』


 いつかと同じく、眩い笑顔で宣言するレオに、静かに同調する幼き俺。突き合わした拳には確かな決意が込められていた。

 

 曇る事も見失う事もない、たった一つの憧憬。

 色褪せていた人生で初めて感じた眩い光。


 それを失わない為に。嘘にしない為に。その為だけに、俺は剣を振り続け、レオ(こいつ)の隣に並び続ける。

 

 ――――どうしようもない現実、そんな絶望にもうすぐ気付くとも知らずに。


―――――――――――――――――――――――――――


 周りから聞こえる喧しい騒ぎ声につられて目を覚ます。徐々に覚醒する意識の中、鼓膜が捉えた声に自然と嫌気が差す。……まだ、夢が続いているんだろうか。


 そうであって欲しい、と願う俺とは裏腹に、目を覚ましたに気づいて一層の賑わいをみせる周囲の声。

 紛れもない現実に、もう一度眠りにつきたい気持ちが強くなるが、そうも言ってられない。声の主達が嬉々として、こちらに近づいて来ているから。

 …………懐かしい夢を見た、と思えばこれだ。本当に間の悪い。


「リオン!聞いたぞ、あのグリード卿に認められたんだって?流石だなっ!」


 そんな事実は知らない。手も足も出ず、一方的にやられただけで、認められるような功績は無い。


「この方がレオが良く話すリオン……ですのね…!なるほど確かに、グリードと接戦を繰り広げたというのも頷けますわ!」


 勘違いだから、その獲物をみる目付きをやめてくれ。というか、貴方様はこんな所に居て良い人では無いだろう。

 

「……ちょっと、リオン。起きたのなら、この二人どうにかして頂戴。煩くて食事も出来ないわ。」


 ノイン、お前はいつも通りでちょっと安心したよ。…………この部屋で食事してる事を除けば、だけど。……いやほんと最近良く来るけど、辞めて欲しい。周りの男連中からの視線が辛いんだよ……。

 

 男子寮の一部屋にして、俺の部屋。その中で楽しそうに騒ぐ一組の男女と、鬱陶しげに眉を細めるノイン。

 四人くらいなら問題ない広さではあるはずの部屋が、何故か狭く感じてしまうのは気分の問題なのか、存在感が大きいからか。


 あの散々だった夜から数日後。漸く療養が終わって晴れて自由の身になるというのに、回復したはずの英気がどんどん失われていく。

 

 ……気が乗らねぇし、相手にしたくねぇ……。


 加速度的に億劫な気持ちになっていく俺とは対照的に、やいのやいのと騒ぎ続ける来訪者達。……本当に嫌だが。元気に騒いでいる彼らの相手をするしか無い。


「…………久しぶりだな、レオ。元気そうで良かったよ。」


「おう、久しぶり!リオンも無事で良かった!」


 来訪者か一人。元気に赤銅の毛を揺らしたのが、幼馴染にして、無二の親友、レオ・アレクシア。

 簡単に会話しているが、本当に久しぶりだ。学園に入って早一年、顔すら合わせていなかったのに、まさかこんな突然の再会とは思いもしていなかった。


「…………初めましてエリザ様。……小汚い場所で申し訳ございません。」


「良くってよ。レオの部屋より随分と綺麗ですもの。」


 来訪者が二人目。ふふん、と自慢げに長い金糸のような髪を払いながら返事したのは。


 エリザ・アイゼル、様。

 この国の第一王女にして、赤薔薇の王女と呼ばれる尊きお方。本人は愉快そうだが、俺は別。何があっても、俺のような一介の学生の目の前にいていい人じゃない。何かあったらどうすれば良いんだよ…………。

 ……………………というか、レオ。お前、王女を部屋に招いたことあんのか……。良く首繋がってるな、マジな話。


 いや、ほんと。


「何でいんの………………?」 

 

「全くよ。」


 お前もだよ、ノイン。


――――――――――――――――――――――


「で、何の用だよレオ。」


 一旦、仕切り直し。

 簡単なお茶と菓子を用意して、騒ぐ客人達が席についたのを見てそう問いかけた。

 正面にレオ、隣にノイン。出来る限りエリザ様を遠ざけたいが為の席順だ。

 

 それにしても、本当に理由が良くわからない。

 別に不仲では無いが、昔はともかく、今は関わりが少ないというのに急な話だ。


「別に用はないっ!……久々に学園に戻ってきたら、エリザがリオンに会ってみたい、って言うからついでに。」


 菓子を摘みながらそう答えるレオと、ぶんぶんと首を縦にふるエリザ様。


「そうですの!(わたくし)、レオからリオンさんのお話を聞いて一度お会いしたい、と思っていましたのよ!」


 嬉々としてそう言うエリザ様に思わず顔を顰めそうになる。


 厄介事の匂いがぷんぷんする。この赤薔薇主従は色んな意味で、俺の胃に優しく無いと直感が訴えかけて来ている。


「あぁー。エリザ様、お気持ちは「エリザで構いませんわ!……敬語も不要ですわっ!」……………………エリ、ザ、気持ちは嬉しいんだが、そんな期待される程の男では無いんだが……。」


 すっごいキラキラした目と圧に負けて話し方を変えてしまったが、あとで不敬とか言われないだろうか。…………本人は満足気だし、大丈夫だと思いたいなぁ……。


「そんなこと有りませんわ!……アリーゼ・クランを師匠にしていながら、優れた人間性を保っているだけでも称賛に値しますもの。」


 優雅にお茶を飲みながらそう言うエリザ。安物のお茶とカップが値打ちの高級品に見える佇まいは流石は王女様。所作が洗練されている。

 

 ちなみにノインもそういう所作は凄い綺麗。今も俺の横でお茶を啜っているが、エリザと遜色無いぐらい見事な佇まいをしている。本人達から言われるような事は無いが、クラン家も一角の良家。……排出する人材に難が多いけど。


 それにしても、師匠は一体何をしたんだろうか。割と善人っぽいエリザが師匠の名前を出した時、凄い嫌な顔をしていた。

 ………………どうせ碌でも無いことだろうな。王家の人間相手でも関係なさそうなのが師匠だし。


「貴方とは意外と話が合いそうね。」


「あら、嬉しいですわ。」 


 師匠嫌い仲間を見つけて喜ぶノインが珍しく自分から声を掛けていた。明らかに真逆な二人なのに、変な理由で意気投合しないで欲しい。

 

「レオ……お前どんなホラ話を吹き込んだっ!」


「へ?」


 女性二人がきゃっきゃっと騒ぐのを尻目に、菓子を口に運ぶレオに小声で詰め寄る。

 

 どうせ大した事無い話を盛りに盛って話したに違いない。なんだったら、剣鬼とかいう異名もコイツ発信じゃないかと、俺は疑っている。


「えっーと、強いとか、頭が良いとか、後は、料理が上手いとか……?」


「……それだけ?」


「おう。孤児院での話とかが殆ど。」


 ふむ。嘘ではない、と思う。レオは嘘がつけない男なのは長い付き合いで知っているし。

 とすれば、一体何がエリザの気を惹いたのだろうか。…………見当がつかないんだが。……やっぱり、師匠関連なのだろうか。

 

「……そういや、レオ。髪、染めたのか?」

 

 うんうんと頭を捻ってみたがわかるわけも無く。諦めて、親友の変化を尋ねる事にした。

 

 記憶にあったレオは赤銅の髪を短く切り揃えいたはずだが、今は髪の長さはそのままに前髪だけが金髪に変わっていた。

 こういうお洒落には無頓着だったと思っていたが、何か心境の変化でもあったのか?


「あ、これはな――」


「証ですわっ!」


 王女様、襲来。

 いつの間にかこちらの話を聞いていたエリザが勢い良く身を乗り出して来た。


「レオが私の専属騎士となった証ですわ。こうでもしないと、レオは色んなところに行ってしまいますの。」


「……ってことだ!」


「なるほどな。」


 顔を見合わせて嬉しそうに笑う王女とその騎士。二人の仲が良好なのが一目瞭然で、見ていて悪い気はしない。相性は悪く無いようだ。

 

 それに、エリザの言ってる事も納得できる。レオは厄介事を拾ってくる才能がある。助けを求める声に敏感といえばいいか、何というか。

 昔からあっちこっちにふらふらと駆け回っていた。専属騎士となっても在り方が変わらないレオに首輪を付けた、って事はなんだろう。扱いが犬か、子供のような気もするが、当人達か良いなら言うことは無い。


 …………俺はお断りだけど。なので、閃いたような顔でこっちを見ないでくれ、ノイン。これ以上、変な噂が立つのは勘弁してほしい。


「……まぁ、いいわ。それより結局エリザは何の用かしら?」


 諦めたのか、それとも、飽きたのか。俺から視線を外してくれたノインが話を戻してくれた。


「えぇ、お礼を言わなくては、と思いましたの。」


「「お礼?」」


 意外な言葉が聞こえたもので、俺とノインで声が被る。反応を見る限りノインにも心当たりがないようだが……。


魔力喰らい(マナ・イーター)の事ですわ。」


「……あぁ。……それがどうかしたのか?」


 思い出す、というにはまだ直近すぎる出来事。王都を混乱の陥れた異形の怪物。確かに俺達二人が表立って動きはしたが、いまいち礼と紐づかない。


「貴方達二人の活躍は、この国を統治する一族として、お礼をいうべき事ですわ。」


 そう告げるとエリザは静かに目を伏せた。

 

 ………立派だな、と素直に思う。確か年齢は二十歳とそう離れていないはずなのに、確かな威厳が彼女にはある。王族として生きてきた重みが正しく存在している。彼女が民衆に人気なのも、こういった所が理由なんだろう。


 そんなエリザにこう言ってもらえるのは嬉しい限り。だが、素直に受け取れない言葉でもある。


 あの夜に多くの騎士達を救ったのは、俺ではなくてノイン。間違いなく、ノインのおかげで事態を動かすことが出来た。俺はただ同じ場所に居合せただけに過ぎない。


 何よりもまだ。


「有難い言葉だけど、まだ、終わってないわよ。」

  

 ノインの言う通り、あの事件は終わっていない。大きな問題が幾つも残っている。表彰式にはまだ早過ぎる。


「…………えぇ、分かっていますわ。それでも、あの夜から落ち着いた日が続いているのも事実。…………例えそれが嵐の前だとしても。」


「……そう。分かっているのならいいわ。」


 先程までの賑わいが嘘のように、静かになっていく。この場にいる全員の認識が同じであるからこその静寂。確かに事態は進んでいる。だが、未だに未解決。浮かれていい状況では無いのは確かだ。

  

 ……少し訂正。レオは何のことか分かってない。

 一人だけ口をあけてポカンとしているのが何よりの証拠だ。そういえば、昔から頭はそんなに強くなかったなぁ。


「その為に私とレオも、グラトニアから戻って参りましたもの。」


 グラトニアとは隣国の事だ。

 ドワーフや獣人が多く住まう、別名、鉄と力の国。正式な軍は無く冒険者と呼ばれる者たちが、自由を謳歌する愉快な国で、俺もいつかは腕試しで訪れたい国。


 そんな隣国からこの主従は帰ってきてくれたらしい。…………少なくとも俺は二人が国を出ている事なんて耳にした事が無かったけど。……ふーん。隣国にねぇ。


「レオ、グラトニアにいたって?」


「おう、そうだな。エリザの王族修行だ!」


「色んな国を見ておくのは大事ですもの!」


「立派だな。でも、大変だったろ。王女か国外に行くってなれば、大所帯だったろうしな。」


「?…グラトニアに行ったのは、俺とエリザの二人だけだぞ?」


 ………………絶対、無許可じゃねーか。騎士団や王族は頭を抱えていたのではなかろうか。それに、レオ。お前本当に色々と大丈夫か……?

 もし、魔力喰らい(マナ・イーター)の件が終わり次第、また向かうつもりとかなら、そろそろ罰が下りそうで不安何だが……。


「だ、大丈夫ですわっ!お父様には手紙を渡していますもの!それに、(わたくし)の留守は妹が守ってくれている、はず、ですわ……。」


 俺の視線に気づいて慌てて弁解するエリザだが、言葉がどんどんと弱くなっていた。自覚はあるようだ。

  

 …………なーんか、読めてきた。この二人というより、エリザは城に帰れないんだろ。

 魔力喰らい(マナ・イーター)の一件で帰って来たは良いが、行く宛が無くて王都をふらふらしていた折に、俺の話を思い出したから、聞いたか。

 暇つぶしがてら寄ってみました、って感じな気がする。


 もしそうなら、迷惑過ぎるので今すぐ城にお帰りください。……俺のまで騎士団と王家に睨まれたらどうしてくれるんだよ……。

 

 まぁ、彼女達を完全に放置する事は無いはずだし、知った上で放任しているとは思うけどさ。何にせよとっとと帰ってあげて欲しいのは確か。特に代わりを一身に負担させられてる妹君の為に。一番の被害者じゃないか。可哀想に。


「大丈夫だって!もし怒られたら、俺も一緒に謝ってやるからさ!」


「レオ……!」


 本当に責任が問われたら、そんなに簡単に済まないと思うけど。……何やら感動しているエリザに言っても無駄だろう。


「リオン、この二人は本当に大丈夫なの……?」


「いや、まぁ……。レオの実力は確かだとしか。」


 おちゃらけた場面が続いたせいで、ノインからは疑うような声が。気持ちはわかる。この二人は感情と好奇心の赴くままに舵をとってるだろ。


「……にしても、リオンとまた一緒に戦えるんだな!久々だし、楽しみだな!」


「……………………悪いけど、俺はノインと一緒に行動しなきゃ行けないから別だぞ。」


 エリザとの茶番を終え向き直ったレオに、少し冷めた茶を口に運びながら言葉を返す。


 今も昔も変わらない笑顔。それと、言葉に含まれた純粋な好意が少しだけ煩わしい。そう感じるのは俺のせいでしかない。レオは良い奴で、本音をそのまま言ってるだけなんだから。


「…………そうね。悪いけど、別行動してもらえると助かるわ。」


「そうなのか……。……残念だけど仕方ないな。また、今度な!リオン!」


 おう、と短く返しておく。ノインには感謝しておかないとな。上手く話を合わせてくれて助かった。


 今はまだ、俺には――――。


「失礼する。騎士リオンはいるか。」


 厳格な声と共に、ガチャと音を立てて部屋の扉が開かれる。思考を切り替える様にぶんぶんと頭を振って、声の方へと顔をむけると、そこには第四の来訪者が。


 迅雷グリード・ヴェインが立っていた。……何故か、大きく目を見開き固まった様子で。 

 

「………………………………エリザ、様……。」


「ぐ、グリード、何故ここに!い、いえ。ご機嫌よう……?リ、リオンに用があるのよね!(わたくし)達はもう行きますので、ごゆっくりですわ!」


 うん。まぁ、原因はエリザだわなぁ。……やっぱり、城には帰ってなかったんだな……。


 あわあわと手をあっちこっちにフラフラさせるエリザと、後ろで楽しそうに笑うレオ。

 助けを求めるようにエリザがこちらを見てくるが見なかった事にしよう。ノインと俺は無視を決め込むことにした。自己責任なので、諦めるが吉。


「………………お覚悟を。」


「…………あんまりですわっ!!!」


 響いた叫びを聞きながら、グリードってあんな顔もするんだなー、なんて事を俺は考えていた。

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