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第21話  血戦のはじまり



 4月4日、午前4時30分。

 起床してハルキチの部屋に集まったフラグブレイカーズの面々は、それぞれ装備をチェックして戦闘準備を整えた。

 いつの間にか冒険者ファッションに着替えたカンナが描き終えたイラストを収納する中、コンビニで買っておいた菓子パンとコーヒーで満腹度を回復させた仲間たちへと、リコリスが作戦内容を確認する。


「いいかい? 今回の新入生オリエンテーションでは、ハルハルとカンナ師を最終ステージまで進めることが最優先だ。ボクとあん子は肉盾でおとり、ハルハルとカンナ師は戦闘を極力避けて進むこと。そしてラウラちゃんには単独行動を取って敵の戦力を分散させてもらう」


 バニーガールの解説を、あん子が簡潔にまとめて右手を差し出した。


「まあ、チームワークが勝利の鍵ってことだな」


 カンナ、リコリス、ラウラがそれに頷き、あん子の右手へと自分の手を重ねていく。


「我々の絆がエキドナよりも強力だってことを、連中に見せつけてやりましょう!」

「ボクはむしろ勝てる気がしてきたよ……これが友情パワーってやつなのかな?」

『わたくしがいれば100人力ですから、勝利は確約されています!』


 軽口を叩きながら重ねられた仲間たちの手に、最後にハルキチが手を重ねて、男らしい笑みを浮かべる。


「ああ、みんなで人類を救ってやろうぜ!」


 セーラー服姿でかっこいいことを言うハルキチに、ラウラは笑いを堪えて突っ込んだ。


『くっ……マスター。そういうセリフを言う時は、内股になるのをおやめください』

「スースーするんだから仕方ないだろっ!」


 そんなやり取りをしている間に時刻は午前4時40分となり、ハルキチたちの前に赤いウィンドウが表示される。



【ワールドクエスト:血戦のオリエンテーション】

 新入生代表の座をめぐり、僕たち私たちは殺し合うことになりました。

 高天原の大地を全校生徒の血で赤く染め、教職員を震えあがらせてやるのです。

 我らが神、アマテラスへと戦いの舞を披露し、大いなる祝福を得るために!


 クエスト内容:バトルロイヤル

 クエスト達成条件:最後のひとりになるまで戦い抜く

 クエスト報酬:【処女神の初夜権】【称号:27期の超新星】【副賞:1億EN】



《――強制イベントが開始されます》



 そしてそんなアナウンスとともに、ハルキチたちの周りにある建物が赤い粘液となって崩れ落ちていく。

 アパートが、屋敷町が、高天原の全てが血液となり、最後には血の平原となった大地の地平から巨大な美少女が現れた。


『相変わらず派手好きなメスガキですね……』


 全てを見通す真紅の瞳。

 ツインテールに纏められた焔のような赤髪。

 着物を羽織った小学生くらいの身体は究極とも呼ぶべき黄金比で造られており、見る者に畏怖すらもたらす美しさをしている。


 血の大地の上に降臨した【アマテラス】は、自分を見上げる生徒たちへと尊大に命令した。



《――さあ、私を楽しませろ!》



 アマテラスの命令と同時に生徒たちの足元の血が液体となり、人影が血の海へと沈んでいく。

 頭まで血の海に沈むと、すぐに足が血液の層から突き抜けて、そしてハルキチたちは空へと投げ出された。


「っ!?」



《――特設フィールドに転移しました》

《――新入生オリエンテーションを楽しみましょう》



 唐突なスカイダイビングにハルキチは驚愕したが、すぐに空中で姿勢を整えると、周囲に仲間たちが飛んでいることを確認して安堵する。


「あはははははっ! ひゃっはーーーっ!」


 空中浮遊を楽しむカンナ。


「乳っ!? 乳が零れるって!!?」


 ポロリを気にするリコリス。


「このまま地面に突っ込んだとしても、いっこうに構わんっ!」


 硬さを自慢するあん子。

 それぞれがスカイダイビングを楽しむ中、最後にラウラがハルキチの横に並んできて、


『それではマスター、ご武運をお祈りしております』


 短く挨拶を済ませると、単独任務に向かうため、落下の角度を変えて離れていく。


「ボクたちはまとまって降りるよ!」


 バニーガールの先導でハルキチたちが空中で隊列を整えると、やがて廃墟が並ぶ大地が近づいてきて、4車線以上ある大きな道の上にリコリスは舵を切った。

 地面に激突する直前、ハルキチたちの下に魔法陣が浮かび、落下の速度が緩和される。

 そして全員が特設フィールドへと軟着陸を決めたところで、リコリスたちはすぐに行動を起こす。


「カンナ師っ!」

「はいなっ!」


 促されるよりも先にアイテムボックスから車の絵を取り出したカンナは、地面に設置された絵に向けて詠唱を行った。


「――次元を超えて湧き出でよっ!」


 正式な手順で召喚したことにより、性能を上げた小型車がハルキチたちの前で紙の中から湧き上がる。


「これってカリオ○トロの……」

「小型車でカーチェイスと言えばこれじゃないっすか! 気合を入れて描いたから速度もマシマシっすよ!」


 そう言ってカンナは座席後ろのキャリアへと乗り込み、実物よりも後ろ側に描き直された天窓から暗黒騎士が乗り込もうとして突っかかる。


「おいっ! 下半身しか入らないぞっ!?」

「し、仕様です!」


 あん子の下半身に後部キャリアの場所を取られて、カンナもかなり狭そうだ。

 そして運転席に乗ろうとしたリコリスは、座席の横にあるギアが細かく分かれているのを見て冷や汗をかく。


「ちょっとカンナ師!? これマニュアルじゃないかっ!?」

「そっちのほうが早くなるんです!」

「ボクはオートマしか運転できないんだよっ!!」


 いきなりグダグダになる仲間たちを横に、ハルキチは運転席へと乗り込んだ。


「先輩……運転できるんですか?」


 慌てて助手席に乗り込んだリコリスと後部キャリアのカンナへと、ハルキチはマジキチスマイルで親指を立てる。


「得意分野だ。免許はないけど!」


 その笑顔を見たリコリスは無言でシートベルトを締めた。

 エンジンが始動して、ハルキチが慣れた様子でギアを操作する。

 キュルキュルと煙を立てて後輪が空転し、フラグブレイカーズの面々を詰め込んだ小型車は、遊園地のアトラクションの如く急発進した。



「「「ぎゃああああああああああああ~~~っ!?!?!?」」」



 ハルキチが母親から教わったスタント走法に、内臓を揺すられた仲間たちの悲鳴が尾を引く。


「ふはははははっ! かっ飛ばして行くぜっ!」


 そして小型車はあっという間に最高速度まで到達して、ハルキチたちの新入生オリエンテーションが始まった。




2024/04/26:エピソードタイトルを変更しました。

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