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第11話  素敵な朝食と悪い予感



 配信を終えたハルキチは、仲良くなった刺身ウオさんとフレンド登録し、コラボのお礼に自腹でアジとサワラとアサリを購入してから桃兎堂へと帰還した。

 刺身ウオさんにはお金はいらないとだいぶ抵抗されたが、最終的にはまた遊びにきた時にサービスしてもらうという約束でハルキチはお金を払うことに成功した。


 桃兎堂の二階に帰ってきた時間は朝の6時30分。


 まだフレンドたちは起きてきそうになかったため、ハルキチは必要なかった書き置きを回収してから、リビングに備え付けられたキッチンに移動して朝食の準備を始める。


 メニューは和食で魚定食だ。

 アサリの味噌汁に、丁寧に骨を取ったサワラの塩焼き、昨日の残りものでサラダと山菜のお浸しを作り、あとは冷蔵庫にあった食材で卵焼きと納豆を追加して、カットフルーツで食卓に彩りを加える。

 もちろん普通に作ったアジの活け造りも忘れない。


 そしてハルキチが味噌汁に入れるネギを刻み始めたころ、美味しそうな匂いに釣られて寝室からカンナが起き出してきた。

 二日酔いが酷いのか、アンデッドのような顔色でリビングに入ってきた私服姿のカンナは、テーブルに並べられた朝食を見て戦慄する。


「先輩の女子力が高すぎる件……」


 アホなことを呟く嫁に、ハルキチは冷蔵庫に入っていた【状態異常回復薬】を掲げて、とてもいい笑顔で昨夜の蛮行を問いただした。


「おはよう、カンナ。昨日はずいぶんSNSでハシャいでいたようだな?」

「…………調子こいてすいませんっした」


 酔って暴走した自覚があったのか素直に謝罪したカンナは、ハルキチから薬を渡される。

 それを一気に飲み干すとカンナの顔色に生気が戻り、いつもの調子を取り戻した鬼娘はハルキチが作った朝食を改めて称賛した。


「先輩! 結婚してください!」

「もうしてるだろ?」


 すでに夫婦だった事実にカンナは「むふーっ!」と幸せを噛み締めて、この幸福を自慢してやろうと画策する。


「ところで、この朝食はちゃんと配信で紹介しましたか?」

「いや、今日の配信はもう済ませたから、これは普通に作ったけど……?」

「それなら私が撮影しますから、ちゃんと動画にして配布販売しましょうよ。こんなごちそうを私たちだけで独占したら、間違いなく炎上しますって」

「? そうなの??」


 朝食を普通に食べただけで燃えるとか、高天原の学生はフラッシュペーパーくらい可燃性が高いのだろうか?

 頭に疑問符を浮かべるハルキチを置き去りにして、カンナはリビングから寝室へと戻っていく。


「先輩はネギを刻んでてください!」


 言われた通りにハルキチがネギを刻み始めると、今度は背後に目玉カメラを従えたカンナがリビングに入ってきて、キッチンで包丁を振るうハルキチの姿を撮影した。


「おおう……これぞ理想の嫁…………」


 なにやら不快な言葉が聞こえたので、ハルキチは包丁をカメラに突きつけて、ドスの効いた声で訂正する。


「嫁じゃなくて夫だ!」

「はひっ!? すいませんっした!」


 カンナが再び謝罪したところでハルキチはアサリの味噌汁をよそい、刻みネギを散らして食卓にセットした。

 そこに炊きたてのご飯と緑茶を追加すれば、完璧な朝食が出来上がる。

 目玉カメラが朝食を撮影している間にカンナが『なにか一言!』とハンドサインを送ってきたので、ハルキチは食卓から振り返った目玉カメラに視線を向けて笑顔で銃のスライドを引いた。


「お残しは許さないから」

「はうっ!?」


 その完璧な美少女スマイルにハートを撃ち抜かれたカンナは、胸を押さえて撮影モードを終了する。


「……男らしく撮れてた?」


 アイテムボックスにコルトをしまって確認するハルキチに、カンナは呼吸を荒げながら親指を立てた。


「完璧でした! 流石は先輩です!」


 続けてカンナが撮影した動画の編集を始めたので、ハルキチも横から覗き見る。

 動画はリコリスとあん子が眠るキングサイズのベッドでカンナが目覚めるところから始まって、暗黒騎士とバニーガールを踏みつけながらベッドを抜け出したカンナが、味噌汁の香りに釣られてハルキチと先ほどのやり取りを交わしたところで終わっていた。


「みんなでいっしょに寝てたのか」

「リコさん()のベッドは大きいですから」


 カンナが気にした様子もなく答えるあたり、特にやましいことはないらしい。


「次は先輩もいっしょに寝ますか?」


 にしし、と微笑んだカンナが誘ってくるが、ハルキチは頬を染めてお断りする。


「……遠慮しておく」


 おそらく気を使って寝室を別にしてくれたフレンドたちにハルキチが感謝していると、動画の編集を終えたカンナが最後にタイトルを入力した。



【私の嫁を自慢します!】



 そのタイトルを確認したハルキチは、アイテムボックスから抜いたコルトの銃口をカンナの後頭部に押し付けて、冷たい声で警告する。


「動画のタイトルを『夫』に変えろ」

「…………うっす」


 朝から本物の殺気を浴びたカンナは即座にタイトルを変更した。




     ◆◆◆




 動画を投稿したハルキチとカンナが朝食を食べていると、カンナに踏まれたことで目を覚ましたのかリコリスとあん子もリビングへとやってきた。

 カンナと同様に、アンデッドのような有様だった二人はハルキチにSNSでハシャいだことをごめんなさいしてから薬を飲んで復活する。

 そしてテーブルに並ぶ朝食に目を輝かせると、リコリスが先に宣言した。


「今日からハルハルはボクの嫁にします!」

「待て! ハルキチを嫁にするのは私が先だ!」


 寝ぼけたことを抜かすバニーガールと暗黒騎士に、サワラの塩焼きをモシャつきながら鬼嫁が激高する。


「バカ言ってんじゃねーですよっ! 先輩は私の嫁ですっ!」

「夫だから」


 きっちり訂正しつつも、二人の味噌汁をよそうためにハルキチがキッチンへ向かうと、最後にラウラがリビングへと入ってきた。


『皆さま、おはようございます』


 半分寝ぼけたリコリスとあん子が「はよー」とか「おう」とか、適当な挨拶をする中、カンナは昨日と変わりない様子のラウラの姿に感心する。


「おはようございます。ラウラさんは二日酔いしなかったんですね?」

『はい、わたくしはメイドですから』


 二日酔いとメイドにどんな因果関係があるのかは不明だが、とりあえずカンナは山菜をモシャモシャ食いながらJKっぽくヨイショした。


「ほぇー、メイドすげー」

『そうでしょうとも』


 カンナの適当な称賛に頷いたラウラは、メイドでロボのくせに起床が一番遅かったことを恥じらうでもなく、当然のように自分の朝食が用意された食卓へと座る。


『ああ、マスター。わたくしのご飯は大盛りでお願いします』

「自分でよそえや!」


 ハルキチはお玉を投げたくなる衝動に駆られたが、機械の身体にお玉では大したダメージも入らなそうなので、グッと堪えて味噌汁と大盛りのご飯をよそった。


「ほらよ!」


 主人から給仕を受けたマスターメイドさんは、礼儀正しく両手を合わせてから、箸を手に取り味噌汁をすする。


『――むっ!?』


 その味がお気に召したのか、ラウラはテレビの頭にピコーンとハートマークを表示させ、ハルキチのほうへと振り返った。


『毎朝マスターの作った味噌汁が飲みたいです』

「お前が作れ!」


 今日も朝からハルキチの専属メイドは絶好調である。

 そうして和気藹々と食事を楽しみながら、ハルキチたちは今後の予定について話し合う。


「ところで昨日はけっきょく飲み会だけで終わっちゃいましたけど……うちのクラン、新入生オリエンテーションはどうするんですか?」


 給仕を終えて座ったハルキチがウサ耳を力なく垂らした低血圧なリーダーに尋ねると、チビチビ味噌汁を啜っていたリコリスはお椀から口を離してニヤリと笑った。


「もちろん勝ちに行くさ。キス魔どもにハラスメント設定の管理者権限なんて与えたら、ボクの愛する高天原が滅茶苦茶になっちゃうからね!」


 決め顔でサラダを頬張ったリコリスの台詞を継いで、黒い兜のフェイスガードに白米と納豆を付けた騎士様が真剣な声を出す。


「新入生オリエンテーションで優勝できるのは新入生だけだ。詳しい内容については後で説明するが、基本的に私たちはサポートに回ることになる。うちのクランで唯一の新入生である貴様は最も危険で重要なポジションになるから、せいぜい今のうちに英気を養っておくがいい」


 そう言って茶碗から英気をモリモリ養った暗黒騎士は、新たな英気をおかわりするために席を立った。

 戦友らしく脅しをかけたあん子に代わって、デザートのカットフルーツをついばむ嫁が夫を甘やかす。


「あん子さんはあんな風に言ってますけど……まあ、先輩は大船に乗ったつもりでいてくださいよ! 私たちもそれなりに秘密兵器は用意していますし、そこに先輩のプレイヤースキルが加わるのですから、勝率で言えば80%は固いでしょう! たぶん!」


 カットフルーツを食べきって空になった器を抱えるカンナに、ハルキチはおかわり用に用意していたフルーツを与えながら注意する。


「カンナは楽観しすぎだよ……きっとこのオリエンテーションは厳しい戦いになる。俺は昨日からずっと悪い予感がしているんだ……」


 そんなハルキチのボヤキに、先ほどまで和やかだった食卓が凍り付いた。


「うわっ、出ましたよ……先輩の『悪い予感』…………」

「おいこら、ハルキチ! そういう大事なことは早く言え!」

「これはちょっとボクの情報収集が甘かったかなぁ……?」


 食事の手を止めてハルキチへと視線を向ける三人に、呑気に卵かけご飯を嗜むラウラが訊ねる。


『どうされたのですか、皆さま? そんなハトが豆鉄砲くらったようなお顔をなさって』


 メイドの疑問に、カンナたちは箸を置いて矢継ぎ早に答えた。


「先輩の悪い予感はめちゃめちゃ当たるんす!」

「台風とか雷とか地震とか、天災すらも予知するからな、こいつ!」

「ハルハルの直感は超能力だ。特に悪い予感に関しては絶対に当たる!」


 言われほうだい言われたハルキチは、恥ずかしくなって自分の勘を否定する。


「いや、絶対ってことはないよ。厳しい戦いになるとか言ったけど、俺だって勘が外れることはあるし……特に今回の悪い予感はあまりにも現実身が無いって言うか、これまでに感じたことがないレベルだから……それこそ俺の勘違いだと思う」


 ハルキチの不穏な呟きに、三人はゴクリと生唾を飲んだ。

 そして緊迫した空気が流れる中、リコリスが三人を代表して質問する。


「い、いちおう聞かせてほしいんだけどさ……今回の悪い予感はどんな感じ?」


 ハルキチは変な注目を集めてしまったことに嘆息し、白米を頬張りながら答えた。




「なんか……人類が滅びそうな感じ?」





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