① 牢屋スタート
突然異世界転移した。
ちょっと何を言ってるのか、よくわからないかもしれない。私もよくわからない。
でも、異世界。そうとしか思えない。気づいたらここにいた。
空の色もなんか紫っぽいし、人の顔も見たことのないタイプだし、建物の材質も見慣れないものだった。
そして、この状況、ヤバいんじゃないか。そう思った。
なにせ、落ちた場所が悪かった。
だって、なんと王族っぽい人たちのパレードがおこなわれている道のど真ん中。そして明らかにその人たちは怒っている。
周りをちゃんと観察する間もなく、速攻で警備っぽい人に捕まった。
訳のわからないまま連行されて、鉄格子のハマった部屋に入れられる。
ここは拘置所? 留置場? 刑務所?
正式名称はわからないけれど、とりあえず身柄を拘束される場所に入れられた。
鉄格子も含めて全体的に白で統一されているので物々しさは感じない。手錠もされていないし、やわらかなカウチソファーのようなものもある。
でも、その鉄格子の部屋の前のデスクに座っている人の顔はとても怖い。その横の扉の前にももう一人制服の人が直立不動で立っている。
一旦鉄格子の部屋から出されて、デスクの前の椅子に座らされる。手錠付きで。
「あんた、名前は?」
「霧島繭です」
「キリシ ママユ……と。変な名だな」
「違います。キリシマ、マユです」
そんな区切り方ある? ちゃんと訂正する。
「どこから来たのか」
「えっと……日本です」
怖い顔のおじさんに、何言ってるんだこいつという顔をされた。そして日本など知らないと言われる。
日本語を話しているのに?
「じゃあこの地図を見ろ。どこから来た?指差してみろ」
そう言って見せられた地図は見慣れた世界地図とも日本地図とも全く違うもの。
「この地図だと、わかりません……」そう言うと、可哀そうな子だという顔をされた。不本意だ。
「じゃあ、身元の証明ができるものはあるか。もしくは身元引受人になってくれそうな人」
「えっと、日本にいます」
ため息をつかれ、呆れた顔をされる。
「あっ」
思いついて、財布に入っていた顔写真付のマイ○カードを見せるが、こんなものでは役に立たないと言われてしまった。
母国の肝いり政策だったはずでは。日本の威信よどこに。
「あの、私はなんの罪でつかまっているのでしょうか……?」
「まずは不敬罪。不審者としての職質。そして今の取り調べの結果、不法入国、不法滞在の罪も重なっている」
私が落ちた場所で行われていたのはやはり王族のパレードだったようだ。
「でも! 不法入国って言っても、入国なんてしてません! どこかから忍び込んだわけではないんです。それに、不法滞在って言っても滞在もしていない。何なら迷子です。無知で哀れな……」
もういっそ可哀想な子扱いのほうがいいと思い、そう訴える。
「もういい。疲れた」
そんな理不尽なことを言って、怖い顔のおじさんは取り調べを切りあげようとする。
こんな中途半端なまま終わってしまっては困ると思って引き止めようとしたが、扉の前に立っている人に「お前、続きやっとけよ」と言ったので、まだ終わりではないようだ。ほっとしたような、まだ不安が続くような。
最初のおじさんは威圧的だったけれど、次の人は好青年だった。一つ一つ丁寧に、馬鹿にせず聞いてくれる。
優しい。
けれど、取り調べの結果、牢屋行きが確定された。