3話 裏の裏に真実はない
「巨人、9回ツーアウトランナー二三塁、バッターは4番の伊能!第一球を…投げました!打った!これはのびている!入った!逆転サヨナラスリーラン!!劇的な幕切れ───」
あの日、父親にすすめられてアカデミーに入った。
「君、名前はなんて言うのかな?」
「僕ははると!!おじさんは?」
「私は木柱雄作、ゆうさくおじちゃんと呼んでくれ。」
雄作は誰にも優しかった。指導も上手かった。だからこそ、人材も流出してしまった。もちろん、遥斗もその1人となってしまうのだ。
「雄作さん、少しお話が…」
雄作に話しかけたのはアカデミー…そう、北丘バイソンズ直轄のまさに金持ちアカデミーであるNBアカデミーの人だった。
「遥斗くんをお譲りしていただけないでしょうか?彼の才能は他と比べ物にならないくらい…いや将来MLBに行ける人材ですよ、だからこちらとしても北丘バイソンズの次期エースにしたいのでね…」
まさに「北丘バイソンズ」の名前を借りた悪い交渉である。雄作の子、貴之は北丘の二軍監督であるため、あまり反発もできない立場だ。反発をした暁には、貴之を追い出される上に、二度と自分のアカデミーからは北丘バイソンズに選手を輩出することもなくなるだろう。
「もちろん、譲っていただけますよね?」
圧力をさらにかけるNBアカデミーの人、だがまだ雄作は屈しなかった。
「少しだけ、時間をくれませんか。」
「分かりました。早めに連絡をお願いしますね。鉄は熱いうちに打たないと冷めてしまうのでね。」
───あれが遥斗の運命を変えたのかもしれない。
「遥斗?大丈夫?」
ロッカールームで休んでいた遥斗のところに2人がやってきた。
───佐野瑞稀と今井達稀、2人ともES時代の…いやそれより前からの、言うなれば幼なじみだ。
「ごめんな…なんか…でも!これも勝負だからな!泣くんじゃねぇぞ!」
達稀も心配してくれている。(ちょっと余計な言葉も多いが)
「泣いてないぞ!そんなに弱いわけない!」
…泣きたい気持ちだが泣けるわけないじゃないか…
「でもまだチャンスはあるし、野手試験頑張って!」
「応援してるからな」
───ありがとう
「…ではここからは野手の試験を始める。まずはバッティングからだ。」
始まってしまった。遥斗は目標にしていた投手になることはできなかった。でも、誰よりもこのチームに入りたいという思いは強かった。
───当然、野手試験では他を圧倒した。センスも、努力もケタ違いだった。遥斗を含め十人強が合格した。
「合格をした皆、おめでとう。だが、気を抜いてはいけない。最初は全員が二軍からだ。明日から毎日練習もある。怪我をするかもしれない。でもそれを乗り越えて初めて一軍に上がれる。明日から気合いを入れていけ!」
「「はい!」」
試験が終わった後、貴之に呼び出された。
「遥斗、明日からお前だけ一軍だ。」
「え、?」
衝撃の一言だった。遥斗にとって願ってもいないチャンスが急に訪れたからだ。
「遥斗、お前を投手で選びたかった…でもてきなかったんだ…一軍から、野手であげてくれと、言われてしまったからな…でも、お前なら投手に返り咲けると俺は思う。そうだよな?」
「は、はい!」
遥斗は驚きながらも返事をする。
「親父からお前のことは沢山聞いた。お前がどれだけすごいかって、もう毎日語ってたよ。」
───「親父!もう仕方ないじゃないか!」
「でも…遥斗だけは…」
NBアカデミーに移して欲しい、そう言われたあの日、今までにないくらい、雄作は悩んだ。
「親父!大切なのは分かる!自分はどうなってもいい!でも!アカデミーの、他のみんなを巻き込むことになるだろう!それだけは…尊敬する親父にはやって欲しくないんだ…」
雄作は悩んだ。泣いてしまうくらい…そして遥斗はNBアカデミーに渡されることになった。
「遥斗、どこに行くの?」
瑞稀が遥斗に聞いた。でも遥斗にもその答えは分からない。
「はるとくんはね、遠い所に行くところになったんだ。今は会えないかもだけど、いつか会えるようになるからね。」
雄作が代わりに答えた。
「そうなんだ…ならまた会おうね!約束だよ!」
「うん!約束!」
───「遥斗、もしかしたらお前は祟られてるのかもな…才能の代わりに悪い大人が近づいて来る…」
貴之も遥斗の未来をあまり良いものとは見ていないようだ。
「遥斗、一軍でも頑張れよ。絶対お前ならやれるはずだ。」
「はい!ありがとうこざいます!」
そう言って遥斗は去っていった。
「…親父、俺にできることはここまでだ。後はあいつ次第、見守ってやってくれ…」