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2話 試練の始まり

空に舞う白球、

「あっ!」

落球してしまった。このたった1つの落球はその野球選手の未来を変えた。結果その試合後二軍に落とされてそのまま戦力外通告を受けた。非情な世界とはまさにこれを指すだろう。

───スカウトの日から5ヶ月がたった。ついに入寮の日、とはいっても家から数十キロ離れてはいない場所に遥斗の家はあった。

「遥斗、寮母さんに迷惑かけないようにね!」

「はーい」

遥斗は半分聞いてない状態で返事をした。それよりも、これから自分が入寮するわくわくと緊張で頭の中がいっぱいだったのだ。

出発の時間だ。小さい体で大きなスーツケースを運ぶ。もちろん母も手伝い、なんとか車に乗せた。

「苦しくなったり、辛くなったりしたらいつでも家に帰ってきてらっしゃい。頭なでで励ましてあげるわ。」

「大丈夫!俺は絶対に負けない!自分自身にも負けない!自信だけはあるもんね!」

意図しないだじゃれに母は微笑んだ。

「それじゃあ、気をつけてね。」

「ばいばい!また帰ってくるー!」


車は15分くらい走って、多治見市に入った。遥斗の住んでた名古屋よりはだいぶ田舎だが、球場がある所はもっと田舎なのかもしれない。しかし走っていった先は意外にも都会であった。岐阜市の真ん中らへん、長良川に沿った道らへんで車は止まった。

「ここだよ。長良川球場はこの近くすぐにある。」

「ありがとうございます!」

運転をしてくれた運転手さんにお礼を言って、球場の方に歩きだした。

「この先には何があるんだろう?高橋さんの像を…こっちに、あ!あれが球場だ!」

見えたのは長良川球場。北丘バイソンズの一軍の試合が行われる場所である。

「時間は…あ!あと30分しかない!早くユニフォームに着替えて集合場所に行かないと」

ロッカールームで着替えるために更衣室に入った。

ガダッとドアを開けた瞬間だった。

「うわぁ!!」

ドアを開けた瞬間、目の前に誰かが現れた。その子は思わず叫ぶくらいびっくりしていた。

「ごめんなさい!」

そう言ってその子は急いで外に出ていった。

「誰だったんだろう…?」

しかし、そう考えている時間は遥斗にはなかった。まずはユニフォームに着替えなければならない。

───背番号33、この数字が遥斗の背中に輝いている。

着替えてグラウンドに出てまずはストレッチをした。アカデミーでもストレッチは毎日するように口酸っぱく言われてきたのだ。

「集合!!」

声をかけられ、周囲にいた十数人が集まりだした。

集まった人達はみんな同級生で新しく入る人達なのか…にしてはやけに身長が高い上級生もいるように見えるが…

「私は二軍監督の木柱、木柱貴之だ。これからは木柱監督と呼んでくれ。早速だが、入団テストを行う。」

急な発表に周囲はザワつく。そりゃそうだ。既に入団は決まっているはずだし、今からテストなんておかしい話だ。

「まずは新入組…15人か、4人はここで脱落してもらわなければいけない。」

「え!4人も!?せっかく入ったのに…」

「入団テスト…でも入団テストでいい成績を残せば…」

「そうだ。入団テストをしないと、この世界で生き抜けるごく僅かな人材を見抜くこともできない。もちろん良い成績ならば上にも報告しておくし、君たちにとってもメリットがあるんだ。じゃあ、まずはピッチングからだ。」

ピッチャーを目指す4人がマウンドに立った。

「1番!今井達稀、投げます!」ビュン!

───素早いボールはミットのど真ん中に入っていった。

「おぉ、あれは凄い。」

「あれは大物になる予感がしますね。」

後ろではスカウト陣が評価をしている。今井はかなり良い評価だったようだ。

そして遥斗に回ってきた。

「よし、ここで誰にも打てない魔球を投げてやる!」

大きく振りかぶって投げた。別に早くは無いが、ボールがまるで曲がったように…

「変化球!?」

「これは才能ありですね…をしなければ…」

さらに速球を投げ込む。今井に対しても負けない速さだ。

さらに遅めをもう一球投げた。

「これが…努力の成果だ!」

スパーン───

ミットに刺さったかのような音、

ピピッ101km

「1年目でこの速さだと!?」

(1年目、つまり小学校1年生くらいの年齢)

「しかもあの緩急はプロ野球レベルくらいでしかありえないぞ…」

遥斗は自信満々だった。そしてピッチングの評価からピッチャー育成の選手を決めることになった───

「今回ピッチャーとして…」


「今井と佐野を選出する。」

「…え?」

なんと遥斗の名前は呼ばれなかった。

遥斗も、周りもとても驚いていた。

「え、なんで…どうして…」

明らかに…いやもはや確実に他を上回る球威、球速であった。なのに選ばれないというのは不思議だ。

「あの!これはおかしいでしょう!」

ネット裏から見ていたスカウトが叫ぶ。

「蓮谷君のピッチングが圧倒的だったのにどうして選ばないんだ!」

他のスカウトも次々に言い出した。

「そうだ!」

「蓮谷君に失礼だと思わないのか!」

「忖度しているんだろう!だって佐野さんと今井くんはES組、蓮谷君はNB組!実際選ばれたのも君の父親、木柱雄作のESの人ばかりではないか!」

(ES組は木柱雄作が自費で作ったアカデミー、NB組は招待制で北丘バイソンズ直下のグループ)

「しかも蓮谷君をえらばないというのが忖度を表しているだろう!だって彼は…」

「一旦黙れ!!」

貴之が叫んだ。まさに怒りがこめられた叫びといえるだろう。

「公開練習はここまでだ。この後、守備と打撃の試験を行う。選ばれなかったものは1時間後ここに集合だ。」

遥斗はアカデミーで監督に言われたことを思い出した。

「これが…試練なのか?」

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