1話 始まりは別れから
小学生によるプロ野球───1990年に始まったリーグ戦はもう20年以上の歴史となる。そして2012年、その歴史を帰る最強の世代「黄金世代」が登場することになるのだ。
2011年 岐阜のアカデミーに2人の少年はいた。だが少年というにはあまりに若い、小学生にもなっていない2人は少年野球リーグ「翔子園大会」に入るためにこのアカデミーに入学した。
「勇!俺は絶対北丘バイソンズに入って、エースになる!」
「俺も遥斗と同じバイソンズに入って最高のキャッチャーになる!」
これは2人の辿る、波乱万丈の6年間である。
12月、この日は各チームが新人選手をスカウトしに行く日だ。2人にとってチームに入れるかどうかが決まる大切な日。特にトップリーグの北丘バイソンズ、松本メイジーズ、天理バーチャルズ、札幌エンダーズ、名古屋ドルフィンズ、仙台マーシャルズの6チームに入れば、将来プロ野球を目指したり、高い給料も出る。今の北丘のエース選手はなんと1億ももらっている。プロさながらの世界を目指す球児達は決して少なくない。
コンコンとドアをたたく音がした。
「蓮谷、お客さんが来ているぞ。」
遥斗は別の部屋に呼ばれた。そこで待っていたのは北丘バイソンズの監督である峯尾嶺二監督であった。
「蓮谷遥斗君、君のセンスはずば抜けているとスカウトの方から聞いていてね、ぜひうちの球団に入らないか?金はたくさん積もう。君もうちの球団を望んでいるらしいと聞いて真っ先にここに来たのだよ。」
もちろん遥斗は二つ返事で了承した。嬉しすぎてその後の話はまったく覚えていなかった。契約書にサインし、晴れて彼の入団が決まった。
「ありがとう、君のこれからの活躍楽しみにしているよ。」
すぐに勇に伝えなくては、そう思い元いた部屋に戻った。しかし、そこに勇の姿はなかった。
───1時間前
「監督、自分は…」
「氷山、聞いて欲しいことがある。君にとってはショックかもしれない。」
「はい…」
「君は6球団からの契約申請はなかった。だからトップリーグには行けない。」
「そんな…」
勇の目から涙がこぼれた。まさに非情、辛い現実を目の当たりにした。
「俺もとっても悔しいんだ。お前が誰よりも努力していたのも知っているし、お前なら最高のキャッチャーを目指せる。そう思っていたからな。」
「でも、これは終わりじゃない、お前にはチャンスがある。それを掴むくらいの実力もだ。」
「自分はこれから…どうするべきですか?」
───「勇は、一緒のチームに行けないんですか?」
遥斗の目からも涙が零れる。
「残念だが、一緒のチームには行けない。だが勇はまだ諦めていない。いつかお前と2人でバッテリーを組むときが必ず来る。」
監督は遥斗の肩に手を乗せた。
「勇…」
「でも、これから入る世界はさらに厳しい。たった1つのミスが試合を終わらせる。たった一つのミスが戦力外、つまりチームを辞めさせられることに繋がる。だからこれからも努力を惜しまず、最高のエースになるという気持ちで頑張ってくれ。卒業おめでとう、遥斗。」
遥斗の頭を撫で、監督は部屋から去っていった。
遥斗と勇の別れ、これはまだ始まりにすぎない。これから先に出会う人々が遥斗の運命を変えていくのだ。