第XXXX 9話 現実と空想の境界線的な未来ページ
六畳間の中、一人の女の子が机に向かっていた。女の子はそこで一冊のノートを広げていた。そのノートは普段から学校の授業で使っている数あるノートのうちの一冊だ。しかし、現時刻は丁度深夜帯に入ったところだ。そんな時になぜそのノートを広げているのだろうか。
女の子は暇だったからという理由でそのノートを広げ、何かを書こうとしているのだ。明日の予定、過去の振り返り、思考の整理等、兎に角思いついたものから書き出そうとしている。とはいえ、ノートの表面は黒鉛一つ付いて無い。純白と、その上で均等に引かれている罫線と、日付と番号を書き入れる欄だけだった。
何も思いつかない儘時間だけが過ぎて行く。
ふと白いノートの表面を眺めていると、右上の日付と番号を書き入れる欄に目を遣った。それをずっと眺めていると、何かを閃いたのか、そろそろとシャープペンシルを手に取った。シャープペンシルを持った右手を日付欄へと運んでいく。そして頭で思い浮かんだ年月日を記入する。
「2122/1/11」
それは百年先の年である。近過ぎるとそれはすぐにやって来る。遠過ぎるとあまりにも空想的だ。百年先というのは、すぐにはやって来ない、しかしながら空想ともいえない未来だ。
目の前に未来のページを顕現させた女の子はそこに何かを書こうとする。女の子は頭を抱えて悩み出した。百年後には何がある。車は飛んでいるのか。ゲームで見る近未来な都市ができているのだろうか。別の星へ行く駅があるのだろうか。もういないであろう私の痕跡が何処かにあるのだろうか。
悩み倦んだ。しかし、女の子はその1ページに何も書くことができなかった。その白い表面を見た時、2122年の出来事を予想していた。しかしそれは所詮、予想であり空想だ。女の子の考えた未来の姿に過ぎなかった。何かを書こうとしても、それは全て空想となってしまう。そうして悩まされていると、段々その1ページが別の何かに見えてきた。目の前にあるこの1ページは、本当に2122年からやってきたのではないか。これは未来の物体なのではないか。そう思った瞬間、そのページに何も書きたく無いという拒否感が生まれてきた。
結局、百年先の年月日だけが書かれたページには、何も書き入れることができなかった。それ以降、授業を振り返ろうとノートを捲る時、そのページを通過する必要があった。過去を振り返る際に突如現れる未来のページは、現在の中で生み出された奇妙な空間だった。