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第107 8話 478番地の疲労公園

「とある国のとある町のとある場所にある公園の話、知ってる?」


「あ、それ聞いたことある〜。確か都市伝説だっけ?」


「うん、その公園は存在しないっぽいんだけど、条件を満たせば行けるようになるとか」


「なにそれ〜、オカルトみたいな感じ?」


「まぁ、オカルトっちゃあオカルトか」


「あ、そんなことよりさ〜」


「──」


 朝方の電車の中。吊り革を握り窓の外の田園風景を眺めている。その手前で、女子高生がスマートフォンを操作しながら、女子高生らしからぬ奇妙な話をしていた。そして、その話が妙に気になってしまい、降りる駅に到着するまで頭の中で繰り返していた。


 それからは一日の半分以上を埋めている大学の講義に参加した。そしてその日最後の授業を終えて帰りの電車を待つ。アナウンスが聞こえた後、目の前に電車が停車する。ドアが開き、降りる人がいなくなったのを確認して電車に乗った。ドアが閉まり、ゆっくりと電車は動いていく。


 夕方の電車の中。横長の座席から反対の窓の外の風景の眺めていた。ビルが並んでいた都会の風景に徐々に緑が増えていき、やがて一面田園風景になる。外の風景を眺めていると、電車の揺れと疲弊が相俟って眠たくなってくる。ゆっくりを瞼を閉じようとしたが、そこで次降りる駅のアナウンスが入った。ふわふわした感覚で電車の扉の前まで移動する。駅に到着し、ゆっくりと開くドアにもたれかかるように外に出た。改札を通り、駅を出た。


 駅を出て少し歩くだけで周辺は田園地帯となる。振り返ると遠くに降りたばかりの駅が見える。しかし、それ以外は特に目立つ建物は無い。そんなことはどうでもいいと一息吐き出し、再び歩いていく。思っていたよりも疲労が溜まっていたらしく、いつもより足取りが重いように思えた。ただ帰ることだけを考えて歩く。舗装されていた道路は次第に舗装されていない畦道へと変わる。


 田園地帯を抜けると十字路が現れる。住んでいる町の至る所に十字路があり、子供がよく迷子になる。その対策か、十字路に設置されている電灯には色の付いた印がつけられている。この印が結構頼りになり、子供だけでなく、大人もこれを頼りにするとか。帰宅までの道を体で覚えているから、あまり頼りにしないが。


 ある程度道を歩いた頃、辺りに人気がない所までやってきた。ふと、前方を見た。すると、記憶にあったかどうかすらも分からない公園があった。


(こんな所あったっけ)


 疑問に思い、公園入り口にある門を見る。石柱の側面には、『478番公園』と刻まれていた。


 それを見た時、朝方電車の中で女子高生がしていた話の内容を思い出した。もしかしてこの公園は──。


 そう思ったが、疲労が思考を打ち消した。すると、公園の中に、白い光を放つ自動販売機があった。赤いラベル、温かい飲み物が売られているのが見えた。疲労を少しでも癒したいと思っていたからか、よくわからない公園の中に迷い無く入った。その自動販売機に一直線に進んで行き、売られているものを一つ一つ見ていく。そこにはよく売られている飲み物や、見たことのない飲み物があった。財布を取り出し、よく売られている温かい飲み物を購入した。取り口を開けて手を入れると、温かい感触が伝わる。温かい飲み物を手に周囲を見渡すと、すぐ隣にベンチがあった。そこに座ると、溜まっていた疲労が吐息となって放出された。


 温かい感触を少し楽しんだ後、蓋を開けた。火傷しないように、慎重に口の中へと運ぶ。舌の上で熱さを馴染ませてからゆっくりと嚥下する。体の中に温かい飲み物が広がっていくのを感じる。それは、疲弊していた身にとって、これ以上無い程の癒しだった。その後も一口一口、温かさを味わった。全てを飲み終えた時には体中の疲労が和らいでいた。ふぅーっと一息吐き出すと、温かい飲み物によって温められた息が白くなって放出された。疲れた時はまたここに来ようと決心し、自動販売機の反対側にあった鉄網状の屑籠に入れた。公園を出ら時、もう一度公園の名前を確認した。『478番公園』。しっかりとその名前を覚えて帰宅した。


***


 翌日、前日の疲労はすっかり無くなっているのを、体の軽さで実感した。いつものように家を出て駅へと向かっていた時、昨日の公園が忘れられず、ついでに飲み物を買うという目的も含めてそこへ寄り道した。


 しかし、公園があったであろう場所は、何一つない空地だった。

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