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第0301 2話 根暗だった人間の霊

 これは数年前のお話。まだ高校生時代だった頃のお話。


 当時の私は人付き合いが悪く、所謂根暗な人間だった。常に下を見て生活していた。クラスメイトだった友人曰く、当時の私からは凄いどんよりした雰囲気が漂っていたらしい。今となっては懐かしい話だ。


 お話の時期は卒業シーズン。当時高校三年生で卒業生だった頃だ。その時のホームルームで、一人の生徒がとある提案をした。


『卒業生全員で卒業記念動画を撮りたい』


 卒業シーズンならばよくある話だろうか。おそらくその生徒が動画サイトの影響を受けているのだろう。そんなことを思いながらホームルームを過ごしていた。


 後日、教員協力の元でその提案が実現した。卒業式が目前に迫る中、各クラスが各教室の黒板を背に動画を一本。そして卒業生全員が体育館に集まり動画を一本撮影した。


 撮影時、私は体調不良でトイレでこっそり吐いてきた後だった。トイレの鏡で自分の顔を見た時、とても青色だったのを覚えている。そんな状態のまま撮影に参加した。


 教室での撮影が終わると、嘘だったかのように吐き気が無くなり、体育館での撮影では気楽だった。


 そして卒業式前日の三年生を送る会。全校生徒と教員が体育館に集まる中、その動画がステージに大きく映し出された。動画の中では各クラスのセリフを言う人が喋っていたり、後ろではしゃぐ人がいたりと楽しげな雰囲気だった。


 クラスの頭から順に動画が再生されていき、ついに自分のクラスの動画が流れた。私は真っ先に動画内に映っている自分を見た。顔が青すぎて自分でもびっくりした。これには流石に恥ずかしいと思ってしまった。途中で見ていられなくなり俯いた。以降、俯いたまま三年生を送る会が終わった。


 卒業式当日。予行練習通りに歩いたり席を立ったり座ったりして卒業式が終わった。この学校ともさよならかと思うと、なんだかんだで寂しさを感じた。


 その日の夜。私は三年生を送る会で流れた動画に映っていた私の顔のことをずっと気にしていた。吐いた直後とはいえ、いくらなんでもあの顔はまずいと、動画内の私の有様に軽くショックを受けていた。


 私は居ても立っても居られなくなり、スマートフォンで動画サイトを開く。検索欄に卒業記念動画と入力した。すると、様々な中学校や高校のそれらしき動画がヒットした。私と似た境遇の人がいるのではないかと物悲しい行動に出た。私は画面をスクロールし、各校の動画達を見流す。


 えっ。


 思考が一瞬で停止した。数ある動画の中に、明らかに見覚えのある場所が映っているサムネイルがあった。


 私は恐る恐るその動画を再生する。


 ……。


 間違いなかった。その動画は三年生を送る会で流れていた動画だった。


 思考が再起し、情報モラルの欠如やら、無断アップロードやら、色々考えたが、動画の映像が切り替わるとともに考えていることが全て吹っ飛んだ。


 真っ青の私が映像の端に立っていた。


 あああああああああああああっ!!!!


 私の醜態が世に晒された! やめてぇ!


 私は透かさず投稿者を見る。当然分かる筈もないが、おそらく学校の生徒だろう。


 ……。


 ────────っ!!!!


 ただただ恥ずかしさだけが湧き上がり、その感情が声として放出した。その日、人生で一番大きな声が出た。この時、根暗から脱却しようと本気で決意した。


***


 それから数年後、つまりは現在。気付けば俯く癖も無くなり、昔の私よりかは明るくなっただろうと思っている。その動画が根暗脱却の引き金になってくれたことに少し感謝している。


 そんな例の動画は今も動画サイトに数百万もの再生数を蓄えて生きている。そしてその動画に投げられたコメントの一つが──。


『〇〇分〇〇秒の所、黒板に集まってる所の左端に顔の青い女性映ってるぞ。これ幽霊じゃね?』


 あの時、吐いた直後だった根暗時代の私は、今日も幽霊説の対象として世界中の人々をゾッとさせていた。

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