第X♪ 14話 深夜とカフェインと音の天気屋
大都会の喧騒に耳が痛む。深夜帯に入っても尚、部屋の外から車の走る音が漣の音の様に響いている。
深夜帯に入ってする事といえば、作業を雑にこなしたり、頭の中をすっからかんにして本を読んでみたり、とりあえず好きな曲を流してみたり……。
深夜帯は、脊髄反射が東奔西走するような、そんな環境だ。
体を伸ばして全身の凝りを解す。キャスター付きの椅子を押して座った姿勢のまま上半身を前に倒して机の下を覗く。そこには小型の冷蔵庫があり、その中には何種類ものカフェイン入りの飲み物がストックされている。今日はどれを飲もうかと冷蔵庫の中で並列する飲み物を指で選ぶ。
今日は味よりも色で選びたい気分だった。青色の缶を取り出し、缶を持っていた手の小指で冷蔵庫の扉を閉めた。
缶を机の上に置くと、ウェブで動画サイトを開く。ロードしている間に、缶のプルタブに指を引っ掛けて、力を加えて開栓する。プシュッとガスの抜ける音と共にシュワシュワと中から炭酸の弾ける音が聞こえてくる。ストローを缶に差して、一口飲む。体に良く無い味が口の中に広がり、喉を通る。
これは良く無いと思いながらも、つい飲んでしまう。背徳感がじわじわと滲み出てきたところで、動画サイトで個人ユーザー画面に移動し、好きな曲を集めるリストを開く。画面をスクロールしながら、好きな曲を選んでいく。最近流行りのダウナー系の曲を流す。
この時間帯、無性にダウナー系の曲が聴きたくなってしまうのはどうしてだろうか。ダウナーとは暗い気分という意味を持っていた気がするが。そんな暗きをイメージした曲が人気な理由はなんだろうと思考する。
いってしまえば、クラシックでいう短調曲を好む時と感覚は似ているのか。はたまた違うのか。
思考を重ねようとしても、結局ピンときた考察はできなかったが、ダウナー系の曲は聴きたいと思ってしまう。引き込まれる力があることは確かだ。これをずっと聴いていればダウナー系の何かが創れそうだ。
しかし、ダウナー系の曲を聴いていると、飲み込まれそうな感覚がある。カフェイン飲料水と相俟って、なんだか酔ってきた。このままではダウナー系ではなく、本当にダウナーな人になってしまう。丁度曲が終わったところで、リストをスクロールし、落ち着く曲を流す。
ふぅーっと一息吐くとノートを一冊取り出し、試行錯誤しながら作業を再開した。
これなら落ち着いたものが創れそうだ。