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第★ 12話 魔法少女の絶念

 契約を結び、強大な力を得たごく普通の少女。人を陰から助けるために得たその力は、確かに人を助けた。


 魔法少女は性格柄一人でいる方が気楽であり、極力他の魔法少女とは関わりを持とうとしない。とはいえ、彼女は自身の目的である、人を助ける事を全うしていた。人を助けることができれば本望だ。


 明日も、明後日も、その先も、人を助けていたい。そんな安寧を願いながら、今日も人を助けた。元の姿に戻ろうと、人気のない建物の影へと移動する。魔法少女は魔法少女としての姿を解き、いつもの学生服姿になる。


 契約を結んだ存在が影からぬめりと現れた。全身が黒に包まれた人形。少女の頭の上に、もう2、3個頭を積み重ねた程の身長。頭部を見るだけでも首の後ろが痛くなる。


 『これが今日の報酬だ。受け取ると良い』


 契約主は魔法少女に報酬を渡すと、再び影の中へと沈んでいった。魔法少女が受け取ったのはコミカルなピンク色のコインが複数枚入った袋。魔法少女として生活する上で助けとなる力と交換することができるコインだ。


 受け取った魔法少女は、学生鞄の中に入れた。


 魔法少女はこのコインを使ったことがない。人を助ける事が目的であり、力を得る必要が無かったからだ。魔法少女に変身した時の身体能力の向上。これだけでも、人を助けるには十分過ぎた力だった。


 家へ帰ると学生鞄をベッドの上に置き、チャックを開けると、すぐにコインの入った袋が現れる。それを取り出すと、服をしまうためのロッカーを開けた。


 ジャラジャラと雪崩れ込む袋の大群。これまでに契約主から受け取ってきたコイン入りの袋がロッカーの大部分を占領していた。服をかけるスペースもなければ、物を置くことも難しくなっていた。


 使い道が思い当たらずに貯め込んできたコイン。流石にロッカーが使えないのは不便だと感じ、袋を一つずつベッドの上に移していく。


 全て移し終えると、ロッカーを閉じ、ベッドの上に山積みになった、動かす度にカラカラとコインがぶつかり合う音を立てる袋の群れの隣に座った。


 スマホの電源を付け、魔法少女にしか配られないアプリを起動する。


 ゲームのホーム画面のような場所から、ショップへと移動する。ロードが終えると、ショップ画面が映し出される。様々な力を購入することができ、ジャンルで細かく区分けされている。


 魔法少女は上から一つずつ見流していく。身体能力の強化、武器、装備品、魔法、追加能力……。


 どれもこれも、自分には過ぎいる力だった。


 追加能力の一覧を眺めていると、最下部にあった追加能力に目が留まった。


『全知全能:この世の全てを知り、この世の全ての能力を得ることができる能力。これで神様の仲間入り!』


 余りにも非現実的な金額がその隣に並んでいた。魔法少女でも、これを購入するにはコインを一切使用を禁じた上で、年単位の貯金が必要になるだろう。


 しかし、今魔法少女の隣には、それを購入することができる山があった。


 魔法少女はこのコイン袋の群れが無くなるのであれば良いと、全知全能を購入した。隣で少しずつ消えていくコイン袋の群れ。やがて、コイン袋は部屋から完全に消滅し、部屋から広さを感じることができた。


 すると、程なくして魔法少女に変化が起きた。全身がじわじわと熱を感じ、視界がチカチカとする。心体に何かが加わっていく感覚。全知全能の力が魔法少女に与えられた。


 無限の知識が頭の中から出てくる。無限の力が使える。やはり、この力は余りにも過ぎているものだった。魔法少女は息を整えて頭の中を空っぽにしようとした。


 ──。


 ──しかし、魔法少女は、無限の知識からあるものが見えてしまった。


 計画。


 全知全能を購入した魔法少女を捕らえ、その魔法少女で他の魔法少女を**計画。


 契約者達が秘密裏に企てた陰謀。


 契約者達がやがて行う魔法少女への……。


 見てしまった。


 知ってしまった。


 気付いてしまった。


 ──すると、契約者が、魔法少女が全知全能を購入したことに気付いた。


 魔法少女は全知全能の力で、その契約者がこちらに向かって来ていることを察知した。その契約者からは捕らるという思惑が見えてしまった。


 魔法少女は固有結界を創り、その中に籠った。契約者側はこの結界の中に入って来られない。契約者は私の部屋に現れる。それを固有結界から見ていた。


 どうしよう。どうしよう。──このままじゃ、いずれ捕まってしまう。


 あのショップは罠だったのだろうか。契約者は最初から計画を実行に移す機会を窺っていたのか。コインを貯めるようにと念入りに説明されていたのはこのためなのか。


 目まぐるしく思考していく頭の中。この状況を無かったことにする方法を考えた。


 自身の全知全能の力で、時間を巻き戻し、その際に自身も全知全能の力を消滅させる。そうすれば──。


 思いついた計画を、すぐに実行する。全知全能の力だこの計画がどうなるかも知っていた。これが最善策であることは知っている。この計画による代償もなければ、契約者達の記憶も消える。


 ──まだこの世界に、『全知全能』を購入した魔法少女はいない。


 心体から力が離れていく。全知全能が消えていく。

固有結界もじわじわと無くなっていき、自分の部屋へと戻った。


 ──。


 ──あれ、何してたんだっけ。


 魔法少女は記憶を辿っていく。


 思い出した。山積みになったコイン袋を──。


 と思ったが、部屋を見回しても、山積みにしたはずのコイン袋はどこにも無かった。


 ロッカーを確認しても、やはり無かった。


 もしかして、盗難? だとしたら、取り返さないと……。


 しかし、魔法少女関連に警察は当てにならない。


 ……。


 ……。


 まぁ、いっか……。


 魔法少女は、コインの在処を探るのを諦めた。そもそも、コインに対しても重要性を感じていなかった。無くなってしまった事は気になったが、余り情は動かなかった。


 はぁーっと息を吐いて、なぜか溜まっている疲労に嫌気が差す。


 お風呂に入ろう。


 ごく普通の魔法少女は、お風呂に入り、1日の疲れを癒した。


 浴槽の中で、明日も沢山の人々を助けるようと、意気を込めた。しかし、その中で正体不明の不安が脳裏を過っていた。

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