第── 11話 距離が掴めぬ海中の様
海の中にいた。
海面の場所も分からない位の深い海の中にいた。
呼吸をしているかどうかも分からない。息継ぎをしようともしない。
海の中はどこを見ても青い。上は少し明るく、下はとても暗い。
海なのに気泡がどこにも無い。
では、これは本当に海なのか。ただの青い空間なのか。
そう思ったが、水中にいる時の浮遊感と、明らかに広い空間が、海なのだろうと判断する。
平泳ぎをしてみる。水圧が進んでいることを感じさせる。しかし、青しかない空間が、進んでいるのだろうかという疑いを生じさせる。泳いだ時の水を掻く音も、小粒の気泡も現れない。
これは、本当に進んでいるのだろうか。もしかしたら、後退しているのかもしれない。景色も一切変わる気配がない。
恐怖感すら薄く感じる青色の虚無は、今の私の心に刺さってしまう。
上達、進歩、成長──。
少しずつ積まれていくそれらは、本当に僅かしか積まれない。故に、進んでいるかどうか疑ってしまう時がある。進むしかないという意志だけが今の唯一の力だった。
目が覚めた時、夢で見た海の様な空間だった事もあり、息継ぎの様な深呼吸をした。
本当に嫌な夢だった。私は、あれが夢で本当に良かったと酷く安心した。