四。目的は果たせずとも。
三。目的は果たせずとも。から四。目的は果たせずとも。に修正致しました(2020/08/10 11:50:58)
「実はな……俺にもその契約者がよく分かんねぇんだ」
「は?」
一般的な契約と言えばやはり、双方の同意の元結ぶものだろう。
だが化け物が知らないということは相手が無理やり行った契約なのだろうか?
考えても仕方の無いことだと思う。だが契約者が誰か分からないなら男の可能性もあるのではないだろうか?
『そんな簡単に答えが見つかっては面白くないだろう。零君ならこの程度では満足しないだろうしね?』
「誰だ!」
「誰も居ないぞ?少年。」
確かに声が聞こえた。
どこかで聞いたような口調で
……そうか。あの図書館の手紙。
「聞こえてるんだろ!聞こえてるなら返事しろ!俺はいつかお前に全てを聞きに行く!だから待ってろ!」
首と口を覆う布を少し下げ、男の出せる最高の声を空へ放った。
仮に聞こえてなくたって良い。言えただけで少年は覚悟を新たにすることが出来たからだ。
「少しはいい目付きになったじゃないか。少年」
「……あぁ。もちろんだ。」
とは言ったものの少年は新たな壁にぶつかった。
これからどうすれば良いんだろうか。
何をすれば答えにたどり着けるのだろうか。
簡単では無いはずだ。簡単ならば既に見つけられているはずだから。
『君にヒントをあげよう。』
またあの声……
‘質問にたどり着いたなら、答えはすぐそこだ’
それが分かれば悩む必要なんてない……
‘人を信頼しなさい。そうすれば人はあなたに正直になるだろう。素晴らしい人物として接しなさい。そうすれば素晴らしさを示してくれるだろう’
信頼なんて……信頼なんて……そんなもの
“生まれてきてくれてありがとう”
「………っ」
「そんなもの。そんなものただの夢物語だろうがぁ!」
男は激怒した。
身に覚えのない寵愛の言葉。
それを作り上げた声の主。
……そして自分を見捨てた両親に。
『零君はこれを夢物語だと思うのかい?』
「当然だ!アイツらが俺にしてきた事は絶対に忘れない!全部!ひとつも残らずだ!」
『君に怒りという感情が残っていて良かった』
一体何を言っているのだろうか。
何に……安堵しているのだろうか?
コイツは俺の何を知ってるんだ?
俺のなんだって言うんだ?
そんなやつが……
「偉そうな口叩くんじゃねぇよ!」
『怒りがあると言うことは喜びも感じられると言うことだからね。』
さっきからコイツは一体なんなんだよ……
“零!……零!早く……目を覚ましてよ……なんで……”
「お前、さっきから何を……?母さんはもう居ないんだよ!今更どうしろと?」
『君の世界から君を連れ出してあげたくてね』
会話になってない。
男は目的のためのヒントを要求した。
その質問に対する答えが男を男の世界から連れ出す?
わけが分からない。
『わけが分からないんじゃない。分かりたくない。そうだろう?』
「俺は……俺は……」
『零君。君は……愛されていたんだよ。今も。』
「なわけ………」
『確かに君の両親は君を傷つけたかもしれない。でもね?現状、君の両親は君の為に涙を流している。ここに来る前の事を1度思い出してみないかい?』
「ここに来る前……」
刹那、世界が割れ始めた。
空からやがて地へと。
『君が早く選択しないとやがて手遅れになる。君の両親は君の命を途切れさすまいと、全力を尽くしたんだ。でも君の体力も、両親の財力も限界なんだ。』
俺はあの世界と別れたくて地へ飛び降りた……
別の世界に行きたくて。
1人になりたくて。
そうか。人類が死滅したんじゃなくて……
「俺の意識が切り離されたのか………」
『もう一度やり直さないかい?君を愛する人の元へ帰って。……それでも嫌なら……君は怪物と呼んでいたんだね。彼を頼れば良い。』
「母……さん……」
帰ろう。
そして久しぶりに家族でご飯が食べたい。
笑いあいながらテレビを見たい。
他にも沢山することがある……
『決心がついたみたいだね。それじゃあ短い間だったけど君との話は楽しかったよ。……最後に僕が君に出したヒントはエマーソンというアメリカの詩人の言葉だ。君の人生に光をもたらす言葉となるだろう。』
「余計なお世話だよ。……あれ、化け物は?」
その瞬間、全てが崩れると同時に俺はこの世界から意識を失った。
どもこんちくわ。
次回で最終回であります。