表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

レイナスの街

 

 ボクの故郷であり拠点としてるレイナスは、周りをぐるりと一周する高い石壁に囲まれた砦の様な街だ。

 そんな感じだから、外からの景観はかなり殺風景に見える。中は木造などの建物が多いからそうでもないんだけどね。

 レイナスを囲む石壁の北と南には門が設けられていて、当然だけどそこからしか街には入れない。何故ならば、街の上には魔物避けや不法侵入を防ぐ為の結界が張られているからだ。結界が無ければ、ワイバーンなどの空を飛ぶ魔物はおろか、盗賊などから街を守るのは難しい。

 その結界を維持する為には魔物の体内にある魔石が必要で、魔物討伐専門の冒険者は何よりも魔石を手に入れる事を優先している。

 ちなみに魔石は魔物の心臓付近にあるらしい。魔石が有るか無いかで、魔物か動物かの線引きとなるみたい。

 何故魔物の体内に魔石が有るのか不思議だけど、魔物は少なからず魔力を有しているから、その魔力が魔石になるのかも。

 まぁ、学の無いボクに分かるはずもないけど、もしかしたら王都の研究機関ではその謎が解明されてるかもしれないね。


 結界や魔石云々はさておき、門にはそれぞれ守衛が二人居て、街に入ったり出たりする人々の審査や怪しい人物の取り締まりなどをやっている。

 レイナスは辺境の街とは言え、1万人程が住んでいるから人の出入りもそれなりに多い。だから、各門に二人ずつの守衛さんしか居ないのはとても大変だと思う。守衛さん、今日も街の治安を守ってくれてありがとうございます!


「問題ないな。通ってよし!」


 ボクの前に居た商人と冒険者達の審査が終わり、次はボクの番だ。毎日の様に街を出入りしてるから顔パスでも良いと思うけど、こればかりは決まりだから仕方ない。ギルドカードを腰袋から取り出し、それを守衛さんへと渡した。

 ちなみにだけど、ボクが利用する門は南門の方だ。北門は主に、迷宮に向かう冒険者やそこから帰る冒険者専門になっている。戦う力の無いボクには無用の門だね。


「お、アベルか。今日も薬草採取、ご苦労さん。そろそろポイントが貯まってランクアップ試験を受けられるんじゃないか?」

「今日もお疲れ様です、ルディスさん! ……ルディスさんも知ってるでしょ? ボクが何度も試験に落ちてるって。ボクには戦う才能が全く無いから、試験を受けても落ちるのは目に見えてるよ。それに、『初級者の祠』で試験をやるんだよ? 今回だってゴブリンにやられて、それで試験官の人に助けられて終わりだよ」


 ボクのギルドカードを確認しながら親しげに話し掛けてくる守衛さんは『ルディス=ガードナー』さんという名前で、死んだ父さんと親友だった人だ。

 ルディスさんは身長が2m近くもあって、体型は筋肉質。四角いけど獅子を思わせる風貌は、知らない人が見たら恐ろしく感じると思う。子供なら泣いちゃうかもね。

 そんなルディスさんは昔、父さんと母さんとルディスさんの三人でパーティを組んで冒険者として活動してたらしい。だけど、父さんと母さんが結婚を機に冒険者を引退すると、ルディスさんも冒険者を引退して今の仕事に就いたんだって。

 見た目が厳つくて、体も大きいルディスさんは当時から凄く強かったみたいだけど、母さんに振られて冒険者を引退するなんて意外とナイーブだよね。そんな事、ルディスさんには絶対に言えないけど。

 ちなみに、冒険者を引退した父さんはその後狩人となって生計を立て、ボクを身篭った母さんは大人しく家庭に入ったらしい。


 そしてボクが産まれた。


 ちなみにボクのアベルという名前は、母さんの『アイリ』と、父さんの『ベイウッド』、そしてルディスさんから一文字ずつ貰って付けたんだって。

 そう思うと、ルディスさんもボクの父さんみたいに感じるよね。顔は似ても似つかないけど。


 父さんと母さんの愛情を一心に受けて成長したボクが7歳になった時、父さんと母さんは亡くなってしまった。

 原因は、迷宮から魔物が氾濫し、レイナスの街を守る為に戦ったからだった。

 相当激しい戦いだったみたいだよ? 街を守る結界も役に立たなかったらしいし。

 現役の冒険者や街を守る衛兵、それに父さん達みたいな引退した冒険者が総出でやっと守れたってルディスさんも言ってたからね。

 父さん達が亡くなって、当時のボクは当然悲しみに暮れたけど、今のレイナスが平和でいられるのも死んだ父さん達のお陰と思えば、ボクも何だか誇らしい気持ちになるよ。


「結局何だかんだ言ってもチャレンジするんだろ? ランクアップ試験。俺からのアドバイスじゃないが、アベルもパーティを組んで試験に挑んでみたら良いんじゃないか?」


 ボクの誇らしい気持ちはさておき、ルディスさんが言う通り、今回もボクは試験へとチャレンジするつもりだ。いつまでもFランクのままじゃ生活するのも大変だからね。彼女すら作れないよ。


 試験会場となる迷宮『深淵なる真理』は、通称『初級者の祠』と呼ばれる、全三階層からなる迷宮だ。

 迷宮のイロハを兼ね備えている事で、冒険者の登竜門的な意味合いも込めてランクアップの試験会場として使われてるんだ。

 この迷宮の攻略難易度はDランクとなっていて、正にレイナスの冒険者達には丁度良い稼ぎ場になっている。レイナスの冒険者のほとんどがDランクまでの冒険者だからね。

 そんな迷宮なのに、本当の名前が『深淵なる真理』って言うのも笑える話だよね。……実力不足のボクじゃ笑えないけど。


「チャレンジはするけど……そっか、パーティかぁ。でも、セシルは無理だよね……既にDランクだし」


 セシル……『セシル=リーディア』というのは、ボクの幼なじみの女の子の事だ。年齢もボクと同じ17歳だけど、ボクとは違って才能に溢れた女の子なんだ。

 ボクは両親が死んだ7歳の頃から10年も冒険者をやってるけど未だにFランクなのに対し、セシルは二年前の15歳から始めたのにあっという間にランクアップを果たしてDランクさ。


「セシルは確かに無理だな。試験の規定では、パーティを組むのは同ランクのみ、とあるからな。だが、セシルに協力してもらう事は出来るだろ? 迷宮に一緒に潜って、戦闘のやり方とか、迷宮の歩き方とかを教えて貰えばいい。きっと試験にも役立つ筈だ。あいつもさっき戻って来たばかりで今頃はまだギルドに居るだろうから、今から訪ねてみればどうだ?」

「気が早いってルディスさん! 試験があるのは一週間後だよ? セシルを頼るにしても、明日の朝にでも頼んでみるよ」

「そうだな、それが良いかもな。おっといけない! アベルと長話してる場合じゃないな。……入って良し!」

「またね、ルディスさん!」


 ボクの後ろで並んでた人に睨まれたのか、ルディスさんはボクとの話を切り上げて自分の業務を再開した。

 別れ際のボクの挨拶にウィンクで応えたルディスさんだけど、厳つい顔付きなのにウィンクはしない方が良いと思うよ? 似合ってないし、女の冒険者の人に思いっきり引かれてるからね?


 ともあれ、ボクは南門からレイナスの街へと入り、そのままギルドを目指して中央通りを歩き出した。

 中央通りと言ってるけど、本当は名前なんて付いてない。南門から北門まで街の中心を真っ直ぐに延びてるからそう呼ばれてるだけだ。

 その中央通りには色々な店が軒を連ね、レイナスの住民のみならず、昼間は街を訪れる人々で賑わいを見せている。

 今は夕暮れ時を迎えている為、人通りも少ない。営業しているのは飲食店関連だけだ。ぽつりぽつりと明かりが灯され始めているから、これからの時間帯は依頼帰りの冒険者などで賑わうのだろう。

 その内ボクも、なんて思ったりするけど、薬草採取で細々と生活するボクには夢のまた夢だね。


 そんな中央通りを進み、北門近くまで来ると、目的の建物が見えてくる。冒険者協同組合レイナス支部……つまり、ギルドだ。

 木造の建物が多いレイナスだけど、ギルドは石造りの建物で、冒険者のイメージに合った無骨な感じがする。ボクは嫌いじゃないかな。


「お? なんだ、『無能』は今日も薬草採取か。だが、お前みたいなのが居るから俺らが安心して迷宮で稼げるってわけだからな。頑張れよ!」

「ありがとう。うん、頑張るよ!」


 ギルドに入ろうとした所で、依頼を終えた冒険者が何人か出て来た。レイナスで最も多いDランクの冒険者達だ。

 ボクの事を無能と呼ぶけど、別に馬鹿にしてる訳じゃない。ボクみたいな薬草採取専門の冒険者が居るからこそ、彼らは回復薬を手に入れる事が出来、準備を整えて安心して迷宮に潜れるんだからね。


 数人の冒険者が報酬を得て夜の街へと繰り出すのを見送った後、ボクは扉を抜けてギルドの中へと入った。

 ギルドの造りはと言うと、扉を入って直ぐ左に依頼掲示板が設置されていて、奥の正面に目を向ければ受付けカウンターがあり、カウンターの右に酒場が併設された造りとなっている。

 疑問に思うかもしれないけど、ギルドに酒場が併設されてるのは昔の名残りらしい。

 元々ギルドの業務というのは、酒場の店主がお客さんの悩みを聞き、他のお客さんに手伝ってくれと頼んだ事から始まったとされている。

 人間誰しも、お酒が入れば知らない人でも気を許し、心情を語ったり、悩みを打ち明けたりといった事をするからね。

 そのお客さんの悩みを解決する為に店主が仲介した事で酒場に頼み事をするお客さんが増え、いつしかギルドの原型となったんだって。

 それで、その時の酒場のマスターが初代グランドギルドマスターになったらしいよ。


「あれ、アベルじゃない。今日も薬草採取お疲れ様! これから納品でしょ? 待ってるから一緒にご飯を食べようよ!」

「セシルもお疲れ様! 分かった、ちょっと待ってて!」


 ギルドの成り立ちはさておき、カウンターに薬草の納品に向おうとした時、亜麻色の髪をサイドテールにした美少女に声を掛けられた。ルディスさんとの話題にも出て来た、幼なじみのセシルだ。

 セシルの事を美少女と言ったけど、実際は美女だと思う。身長はボクよりも高い170cmはあるし、スタイルも抜群だ。何人もの冒険者達を虜にしているしね。

 そんな美人なセシルは冒険者としては珍しく片刃の剣……刀と呼ばれる剣を使っている。レイナスでも刀を使ってるのはセシルだけだね。どこで手に入れたんだろ?

 その刀を腰に帯び、革で出来た軽鎧を身に纏ってるセシルの姿は正しく冒険者そのものといった感じだ。美女と言えども、その出で立ちは惚れ惚れするよね。


 ともあれセシルを待たせるのも悪いし、ボクは薬草を納品するべくカウンターへと向かった。

お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ