第一話 始まりの日
企画[Loster]の最初の大きな一歩です。暖かく見守ってやってください!
※内容は前触れなく変更になる可能性があります。文章の大幅増加など大きな変更の際は報告いたしますのでよろしくお願いします。
✥プロローグ✥
『_____、土地や資源を求める争いが続き、今も世界的な戦争は起きていないものの話し合いという名目のにらみ合いや、外交という名の心理戦が______』
ぱたり、と静かに本を閉じる音がした。深い蒼の瞳がかすかに細められ、ため息と共に目を伏せる。
風がそよぐ図書館の窓際に、その者は美しい金の髪を輝かせて座っていた。本の題名は、「現代における戦争」というものだ。
この世界に、争ってられるほどの土地があるとは思えないけど…と、その者は自身の首元から編まれた三つ編みをそっと撫でながら思った。
これまでに沢山の歴史書なんかを読んできたけれど、魔法学校の図書館にも、街の図書館にも、私が知っている歴史とは確かに違う歴史書が置かれているのだ。
図書館の人に聞いても、歴史書としか答えてくれない。不思議な本。
誰かの作り話ではない、どこかの世界の話。
題に「現代」とつくような本は、だいたい歴史書ではなくて上から目線の指南書みたいなものが多いけれど…そうでないものは本当に興味深いものばかり。
私の知る、私の世界と違う歴史。……もっと知りたい。
左側で軽く縛ったサイドテールを揺らして、立ち上がる。
つまらない本を本棚に戻すと、向こうに面白そうな本を見つけた。
これも、私の知っているのとは違う歴史の偉人らしい。
私は、図書館の貸出名簿に「コンクラッセ・ドゥアルテ」と署名し、本の題名である「アリストテレス」と書いてその場をあとにした。
図書館から外へ出ると、青空が広がっていて…柔らかい風はフリルやスカートをふんわり揺らした。
空を見上げて、思う。
私は、いつかあの世界をこの目で見ることができるのかな____。
✥第1話✥
春が来た。私は今日この日、この魔法学校の高等部2年生になるのだ、と実感した。
学校の正門には薄ピンクの花が咲く木が、沢山並んでいる。名前は誰も知らないらしいけれど、この花を見ると特別な気持ちになるんだ。
私は、少し早いけれど正面玄関に向かって姿勢を正し、歩いて行った。後ろには朝露できらめく草原が広がっていた。
その学校は、成績が優秀な者から順番にクラス分けがなされるが、男女で出る成績が異なるため、一つのクラスの合格者表には男子から順にひとかたまり、それが終わると女子が順にひとかたまりというふうに表示されている。
その一番上、クラスSの1番には、堂々と「コンクラッセ・ドゥアルテ」の文字が置かれていた。ほっと胸を撫で下ろす。クラスが落ちることはなかった。
コンクラッセは見慣れた装飾の校舎を駆け抜け、Sクラスの教室へと向かう。その途中で、ひんやりと冷たい空気が頬をよぎった。
背筋まで凍るような、冷たさと暗さを持つ、それでいて綺麗な髪が視界に入る。振り向くと、長い髪に黒くてダボッとした服、そして、少し取れかかった包帯を目の周辺に巻いた美しい少女が立っていた。前髪は鼻の上まで伸びて、隙間から包帯に隠れた黄金の目が見える。
コンクラッセが呆然として彼女を見ると、彼女は不思議そうに首を傾げ、躊躇いがちにコンクラッセへと近づいてきた。
警戒するように先に口を開いたのは、包帯の少女では無かった。
「貴女、見たことないお顔だけど…新入生?良ければ案内するわ」
軽く胸に手を当て、にっこり笑って言うと、包帯の少女が答えた。
「ありがたいけど…私、新入生じゃない…。アピリア・エストラーダ………去年からいる…」
アピリアと言った少女は伏し目がちに言うと、黄金に輝く瞳へ長い睫毛が影を落とした。コンクラッセの方は軽く動揺して自身の三つ編みを触り、
「え…っ、ああ、そうなの…?ごめんなさい、私も同じく2年のコンクラッセ・ドゥアルテ。迷子ならクラスを教えてくれれば連れて行くけど…」
と困ったように笑って言った。
するとアピリアはコンクラッセの近くに寄り、その顔をじっと見上げた。海で洗われたばかりの太陽が窓から差し、2人の影はくっついて見える。
「……コンクラッセ…あなたが……。」
自分を知っている様子のアピリアに、少々戸惑ったコンクラッセは続いた言葉に息を飲んだ。
「…え?」
「私も、今年から同じクラスになるの。…だからあなたのクラスに行けばいいだけ……私はついて行く。」
新しくSクラスに入る。
それは、能力解放が行えるようになったということを意味する。自分には出来ない、魔法を強化する非常に高度な技能。
「…そう。じゃあついてきて。Sクラスの教室はこの棟にあるの。」
ぐっと拳を握って、コンクラッセは微笑み進行方向へと向き直った。
教室には既に何人かの生徒が来ていて、決められた座席に着席している。南側の窓からは僅かに光が入って、教室はほんのり明るい。私は黒板に張り付いた1枚の紙へ歩み寄って、アピリアの方を振り向いた。
「この紙に番号が記載されているでしょ?これは男女が別れているけど、Sクラスは廊下側から縦に番号順で男女交互に並ぶの。」
彼女に分かりやすいようにゆっくり説明すると、彼女は黄金の瞳に波を立てて目を細める。
「あなた………男なの…?」
「…そうだけど…どうかした?」
どっ、と胸のあたりが熱くなったのを感じた。それなのに背筋が凍るように冷たかった。別に後ろめたいわけではないんだ。でも、それが壁を築いてしまうのは嫌だったんだと思う。
「いや……一番上に名前が書いてあったから、書類が間違ってるのかと思っただけ…。間違ってないなら問題ないでしょ…」
アピリアは淡々と言った。
私は、「そうだね」と答えることしかできなかった。だって、なぜかは分からないけど嬉しかったから。
これは、私が彼女の面倒を見ると決めた日。
私の始まりの日。