婚約破棄!さあ、もふもふの里へ行くわよ!
「クリスティーネ・セーデルホルムそなたとの婚約を破棄させて貰う。これは決定事項だ」
待っていた言葉があたしの耳に心地よく響く。
婚約破棄!なんて素敵な音を奏でるのでしょう。
頭が可笑しくなったんじゃないよ?
嬉しくて涙が出そうなのを我慢するのが大変なぐらいよ。
この勘違い野郎と縁が切れることがこんなにも嬉しいとは!
一人偉そうに婚約破棄を言い出したのは、この国の公爵子息で王位継承者第5位の男。そんな肩書きに寄ってきた女を侍らせ、自分がもてると思い込んでいるおめでたい男だ。
鏡を見たことある?
思わず何度言いそうになったことか。
でも若いだけマシなのかもしれない。この学園でも卒業と同時に結婚する令嬢はそれなりにいるが、中には借金とか縁結びのために自分の父親よりも上の者に嫁ぐ者がいる。
それを考えると、まだこの男はまだマシなのかしら?
頭を見る。
…やっぱりあたしは絶対に無理。
しかもテンプレの卒業パーティで皆の前で宣言する。なんてひねりもない。
なんかもっとこうさあ……策略巡らせて、あたしを陥れようとか画策するとかなかったわけ?
どんなことでもここでそれを打ち破って、ざまーなんてやってみたかったのに。
一生に一度のそんなチャンスさえなくなったよ。
折角ラノベみたいな世界に転生したのに。
――無念!
「聞いているのか、クリスティ」
「ええ、聞こえていますわよ?婚約破棄ということで宜しいのですね?」
「ああ、そうだ」
こんなにも早く了承したことを訝しんでいるが、どこまでもおめでたい男だ。
「では、皆様が証人と言うことで宜しいでしょうか?」
「…ああ、かまわない。が、本当に良いのか?」
「もちろん構いませんわ。世間的にはこちらから婚約破棄を願うことは出来ませんでしたから。でも、そうですわね。私に対する餞を頂いたと思っておきます。ではごきげんよう」
唖然としている皆を放置して、あたしはドアの外に出る。
一歩出ればそこは契約が切れた証。
もう二度と会うことはないでしょう。
ん―――――ッ!
自由だ!
「シロー!」
呼べば真っ白いあたしの2倍はある毛玉の塊が飛んできた。
ああ…会いたかった!このもふもふ。
家系的に禿げるのが確定しているあの男の価値などない。
婚約破棄が出来たなら行っていいとお父様の了承ももらっている。
さあ、行くわよ!シロの住んでいるフェンリルの里へ。