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少女流転  作者: 丸々
3/7

【3】出国

評価、ブックマークありがとうございます(^^)


マリアナ達が居る場所がコロコロ変わります。




出立の為に荷物を二人で纏めていると、見慣れない服を一式タンスからウィナが持ってきた。



「お嬢様、この服は如何なさいますか?」

「あぁ、これはシュドレッジ家からの結納品と一緒に届いた物だから出立の時に来ていくよ」

「可愛らしいですねこのブラウス!こんな細やかなフリルをあまり近くで見ることが無いので感動です!」

「向こうに行けば見飽きると思うよ?」



マリアナは控えめに笑った。

対戦中に何度か同盟国でもあるフィブリア帝国の貴族や騎士団と関わりを持っていた彼女はそれこそ最初は軽やかでフリルのふんだんにあしらわれたファンシーな女性の格好に憧れたが自分が着ているところを想像しては重い溜め息を吐いたのは記憶に新しい。

あれは見てる分には良い物だともう結論付けていた。


そう言えばとマリアナは向こうの使用人の格好を思い出す。



「そうだ、向こうに着いたらウィナにもフィブリア形式の使用人の制服を支給してもらえる様に頼んで見ようか」

「え!?いいのですか? 図々しくはないでしょうか?」



喜びと戸惑いの間に居るウィナはどこか落ち着きが無くなる。

興奮してるのか、頬が薄く色付いた。



「私が公爵に頼んでみるよ。こんな事になってしまったし罪滅ぼしと言うか、自己満足をさせてほしいな」



目を伏せて、静かに呟いた。

自分と関わっていたばかりに一緒に海を渡る羽目になってしまったウィナにマリアナは罪悪感を覚えてしまった。 しっかりしてるがウィナはまだ若く、幼い。 きっと自国でまだまだしたい事があっただろうにと、考えてしまう。

すっかり荷造りの手がち止まったマリアナの元に近付くとウィナは俯いている彼女の顔を覗き込み、手を優しく握った。 暖かい、所謂子供体温だ。



「お嬢様、ウィナは奥様に言われずとも着いて行く気でしたよ!」

「いいよ、そんな気を使わなくて。本当に申し訳ないと私は…」

「お嬢様!!」



マリアナの言葉を遮る。

いつも使用人然としている彼女にしては大胆な行為だ。 マリアナの手を優しく握っていたウィナは手に力を込める。



「ウィナはもうあの頃の様に子供ではありません。お嬢様が六年間軍人として育った様に私もその間、使用人として多くを学びました。たった一人でお嬢様を戦場に送ってしまった、貴女と共に歩めなかった。私の知らない所でお嬢様がいつ死んでしまうか分からない、その恐怖が付き纏い後悔しか残らなかったのです! ウィナは貴女の専属の使用人でしたのに!」



握る手が震えていた。

離れていた六年間の後悔が、その振動と共にマリアナに流れてくるようだった。

高ぶった感情を鎮める為、ウィナは深呼吸を繰り返した。 何度目かでそれは終わり、いつもの笑顔を灯して顔を上げた。



「そして決めました。もしお嬢様が戻ってこられたら、その時ウィナは何処までも着いて行くと。離れて待つにはもう心臓が保ちそうにありませんもの!」



にっこりと笑われ、二の次が言えなくなる。

握られている手の感触を確かめ、侍女の成長を肌で感じた。

改めて、六年間は離れ過ぎたと実感してマリアナ自身も笑みを浮かべ顔を上げる。



「では、とことん付き合ってもらうとしようか」



二人は笑い合い、再び荷造りを再開した。






****






汽笛の音が鳴る度にうみねこが舞い上がる。

大小様々、国籍もまばらな船舶が体を休めているそこは正に国の玄関と言っても過言では無い圧巻さだった。

マリアナは気持ちが上がっていくのを感じ、ついこの間までの不安感はどうしたと自分を笑いたくなる。それも、隣で自分以上に高ぶっているウィナが居るからだと一人で頷く。


独特の潮の香りを楽しみながら、マリアナは周りを見渡した。隣に居るウィナもその倍は首を動かしていた。


シュドレッジ家が迎えを寄越してくれると言われ約束通りの時間に港に着いたのだがその迎えとやらがまだ見当たらなかった。



「しまったな、フィブリア帝国の方だから髪の色で判断出来ると思ったんだけどな」



手で(ひさし)を作り自国には無い髪色を探す。

港であっても大体は自国の人間が働いているのだからフィブリア独特の髪色なら見つけられるだろうと高を括っていたが裏目に出たらしい。

季節的に長い時間陽に当たっていると汗が滲んでしまう。さすがに汗だくで使いの人と顔を合わせるのは避けたいと次第にマリアナは日陰を探し始めた。


ゆっくりと背後から日陰が差し込む。

体を照らす太陽が隠され、体温が上昇を止めたのが分かった。

振り向くと日傘を自分に向けてくれた人物と目が合う。自国の黒い軍服とは違い戦場で何度も目にした白い騎士団の制服を身につけている。

見慣れない髪に茶色の瞳だ。すぐに自分達が待っていた人物だと分かった。

目が合うと人懐っこく笑う。



「お待たせしてしまい申し訳ありません。団長っ…ではなくシュドレッジ公爵の使いで来ました、アレウス・リードです。フランシズ様とお付きの方で間違いないですか?」

「はい、マリアナと言います。この子はウィナです。」

「は、はじめまして!よろしくお願い致します!」

「せっかく名前をお教えしてもらって申し訳ないのですが、閣下からフランシズ様の名前を自分以外の男に呼ばせるなと仰せつかっておりますので、どうかお許しください。お付きの方はウィナさんと呼ばせていただきますね。自分の事はアレウスとお呼びください」

「………はあ…、分かりました。」



困惑するマリアナにまた満面の笑みを見せてからアレウスは無駄の無い動きでお辞儀し、近くに居た船員にマリアナ達の荷物を運び入れる様に指示を出した。

自分達で持っていく気満々だった二人はいきなり身軽になってしまい手持ち無沙汰になる。

先程から自分に差してくれている日傘をせめて持とうとするとやんわり断られ、ならば自分がとウィナも名乗り出たがそれもかわされる。



「すみません、閣下にペンより重たい物を持たせるなと仰せつかっております。」

「………、シュドレッジ公爵は私を綿菓子か何かだと勘違いされていませんか?」



真顔で尋ねる静留にアレウスはまた笑みを浮かべた。



ーーーこいつ笑えば済むと思ってないか?



「お嬢様はともかく私は侍女です!そこまで気を使っていただくわけには…」

「閣下からお二人を丁重にご案内するようにと仰せつかっていますので、どうかご容赦を」

「それでは立つ瀬がありません!」

「でしたらどうか船室での歓待(かんたい)をお願いしてもよろしいですか?さすがに自分は船室に同伴する事はできないので。」

「それはもちろん大丈夫ですが、アレウス様は室内はご一緒しないのですか?」

「流石にご令嬢と同じ空間に長時間居るのは…。ですが自分は護衛も兼ねてますので、扉の前で待機させていただく予定です。出航してしまえば危機は扉からしか入ってきませんので。」

「えぇ!?それは航海の間、扉の前に居るって事ですか? 確か一日はかかりますよね?」

「はい、ですがご心配なく。仕事柄長時間の護衛は慣れておりますので。我が母国フィブリア帝国に着港するまでの間お守りいたします。もちろん、閣下のお屋敷に着くまでの道中もお任せください」



敬礼されるも、アレウスの言う内容が二人の頭に入ってこなかった。

ここまで厳重にされるのは元軍人の自分が信用されてないからかともマリアナは考えたが、それだと日傘さへ持たせてもらえない意味が分からない。仮に日傘が武器になるから持たせられないなら、最初から出さなければいい話だ。

隣でウィナも頭を抱え、思考を巡らせている。今にも煙が出てきそうだった。


本格的にシュドレッジ公爵が自分に対して勘違いをしていると確信したマリアナは溜め息を吐く。 か弱い令嬢のイメージをどうやって払拭できるか、彼女は新たな悩みに出航前から酔いそうだ。


手を軽く取られ先導される。

港で何をやってるんだろうと客観的にみてしまい、顔に再び熱が集まりそうになった。

男性に、ましてや異国の騎士にエスコートされた事のないマリアナはどこがぎこちなく歩き、ウィナは令嬢としてちゃんと扱われている主人の姿に感動しながら、フィブリア行きの大型船に乗り込んだ。






****






船室はそれは豪奢(ごうしゃ)だった。

華美な物に疎い者でさへ聞いた事のあるロイヤルクラスと言われるその船のトップの部屋に案内された令嬢と侍女は、アレウスに軽くデッキを案内されてから部屋へと連れてこられた。

自由に客船を見て回って下さいと了承は出ているが、一度出たら二度と船室に戻って来れない自信が付いてしまい、大人しく一日船室に篭っていようと二人で決めたのだった。

職人の腕が試されそうな細工がふんだんに船室に散りばめられていて、落ち着かない。

お尻の辺りが何だか落ち着きを無くしてきたマリアナは取り敢えずカウチに浅く腰掛けた。手触りが感じた事無いぐら滑らかだったが無視をした。ウィナに至っては入り口から微動だ出来ていない。心なしか顔も青くなり、しかし目線だけは物珍しく動いている。



「ウィナ、気持ちは分かるけど座ったら?」

「……、お嬢様この客室の壁や家具にはフィブリアの一部の貴族しか使う事の許されない模様が掘ってあります。ウィナは座る所などございません」

「そう言ったら私も座れないよ。落ち着かないけど、とにかくこの部屋は公爵が用意して下さったらしいから使っても怒られはしないから」

「うぅ、しかし……」

「私が部屋の主人って事になるし大丈夫、座りな? ずっとは立っていられないよ?」



マリアナは浅く腰掛けていたカウチにわざと大袈裟に座り直す。

行儀悪く凭れウィナにも催促する目線を寄越した。 勢いをつけて座ったのに何の音も鳴らないカウチについつい感心してしまう。

改めてこに部屋を用意出来るシュドレッジ公爵の権力に怖くなる。


王族が使う場所を自身に提供できる。

そんな事に今更ながら、凄い家系に嫁ごうとしてるもんだとプレッシャーがかかった。



ーーー何故そんな高貴な一族が私なんかを娶ろうとするのやら。 他に幾らでも選択肢はありそうなものなのになぁ。



無意識にマリアナは溜め息が出てた。


船が僅かに船体を揺らせを汽笛を鳴らす。僅かに軋んだ後は少し揺れた。いよいよ自国から離れるのかと、窓を眺める。


快晴に今日は門出にはもってこいだろう。

そう言い聞かせながら。

読んでくださりありがとうございます!


船に乗った事が無いので全て想像ですσ^_^;

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