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少女流転  作者: 丸々
1/7

【1】プロローグ

始まります。

設定は結構大雑把なので、流して読んでもらえると助かります(>_<)


被弾描写ありますので、一応ご注意ください!




砲弾の音が、鳴り止む事はついに無かった。


こびり付いてしまったのか耳を塞いでも聞こえるこの音は、これからもきっと彼女を苦しめるだろう。





****





魔術による浮上効果を緩め空から地へ向かう。荒れた土に足を付けた。

何時間ぶりかの地面。立っているだけでふらつきそうになる。


長時間の浮上はこれだから嫌なのだと舌打ちをする。重力や空気抵抗に逆らっている分疲れが溜まりやすい。

大きく分けて三軍団で結成されている部隊の中でも斥候班などと揶揄されている上空部隊第三師団は言わばハズレくじの様な物だ。


いくら魔術士官学校を出てエリートと呼ばれようとも空に上がれば死が隣で笑っている。

狙われるのはいつも空にいる斥候班だ。

魔術を扱える分狙われる可能性は大幅に上がるのだった。


敵も味方もいかに先手で相手の情報を取るかで争っているのにさらには地上部隊、主に前衛を共に担っている第一師団に空からの支援を施さなければいけない。

自身を守る防弾術式、地上を防ぐ避弾術式、更に身を隠す虹彩反射の術式に常に展開している浮上術式に滑空術式。

これらを砲弾と魔術が飛び交う中で常に気を張り使い続けるのは無理な話だ。

通常三つ術式を同時に展開出来れば秀才だと言われる。だがエリートと称されそれなりの階級を授与される上空部隊はその先を要求され出来ないの文字は強制的に消されてしまう。

何としても命令を完遂し相手の動きを読み先手を取りを地上部隊を円滑に前進させる。


それが軍の花形と表向きは言われている上空魔導師(じょうくうまどうし)空動(くどう)師団(しだん) 通称空部(くうぶ)の実態だ。


そんな状況に狂わずにいられるだろうか。

自覚症状が出る前に敵に討たれてしまえたらと何回も思うぐらいには彼女も疲れていた。

早く誰か、自分を解放してくれないかと。


目の前に広がるのは、砲弾によって壊された家々と転がる死体。上がる硝煙に鼻の奥に滲みる人の焼ける臭い。

敵か味方か分からない死体の山。

その絵図を描いたのは間違いなく自分達であると、彼女は理解していた。

早く嗅覚も麻痺してくれればいいのにと、鼻をすする。


魔術による通信で、司令部に居る師団長の声が直接頭に響く。

淡々と告げられる命令に無意識に軍服の胸の辺りに付けられている国章を強く握る。この行為で命令が変更された事など無いが、せずにはいられない。



「…師団長の能無し、この状況を一度見てから言ってのっ!」



誰にも聞こえない悪態をつき、再び浮上を始める。尚も高度を上げ続け、何処からともなく当てずっぽで放たれる砲弾から逃れた。

敵側も情報を位置を特定されたく無いのだ。

誰も彼もが必死でこの戦場を生きている。


編隊を組んで飛んでいたはずの仲間はすでに何人も墜とされた。隊列は乱れ、後方にはやっと追いついてきた僅かな部下しか残っていない。他の部隊も同じ様なものだった。

その内の一人が彼女に並ぶ。苦しそうに顔を歪め戦場に似つかわしくない幼さを晒す青年だ。

彼の服には血が滲んでいた。


彼女は滑空し近づき静かに尋ねる。



「被弾したの?」

「…へへ、油断しました。副団長は相変わらず軽傷な様でなによりです」

「術式は?」

「展開してるのは地上に対しての避弾術式だけです。もう他のは正直…続けるのも結構キツイです…」



息を整えるため彼は深く息を吐いた。

覚悟を決めた様に顔を引き締めて、彼女を見つめる。



「…さっきの師団長からの通信聞きました?」

「……、えぇ」



彼の言わんとする事が分かり言葉が詰まった。

それでも彼女は奥歯を噛み締め、表情を作る。冷静に、戦場では熱くなった方から死んでいくのを嫌と言うほど見てきたからだ。

隣の部下を見ると、彼は涙を溜めていた。



「酷いですよね、何がもう勝利は目前だよ。結局は最前線の空に直接攻め込めって事じゃないですか…! あそこには対空動魔術師の高射砲(こうしゃほう)が設置されてるんですよ、空から相手の動きなんて見る余裕ある訳がない!」

「そうだね。…でもさっき情報が入ったのだけど最前線の近くの森で友軍が孤立しているらしい。彼らを助ける事が出来たらきっと戦況は大きく動く筈。 高射砲さへどうにかできたら希望は見える。 まだ引き返す訳にはいかない…!」

「そんなの…ーー」



無理ですよ。彼の呟きは隣に居る彼女にさへ届くのがやっとだ。


いくら戦況が自国に向いていようとも時間がかかり過ぎた。

友軍を助けるにしても、生きている保証などないのだ。 最早粗悪な賭けでしかない。

現に師団長からは空部の単独で最前線へ行けとの命令まで出ている。

現在彼女に残ってるのは疲弊し負傷した兵士だけ。空でこれだけの被害が出ているのだから、陸も期待は出来ない。


状況は最悪だ。 だからこそ命令を無視してでも賭けに出るしかないと彼女は考える。


通常、地上部隊には数人毎に上空部隊の魔術師から頭上に防弾術式を加護として付与される。

だがその魔術師が墜とされれば加護は消え、それに気付かず砲弾に撃たれて死ぬ。

きっと何も感じず一瞬で。

仲間達が苦しみの中、墜ちていくのを見続けていた彼女はそれを羨望する。

叶うなら、自分も苦しみたくないと。

本心は逃げ出したい。それを必死に隠しておく。彼女にも、逃げれない理由があるのだ。



「……、命令は無視する。 私は友軍を助けに行くよ、じゃなきゃこっちが潰される」

「あの高射砲の中を進むおつもりですか!? やめましょう、こんなの逃げたって誰も責められない! それに友軍だってもう生きている筈がない! 何時間ここで足止めを食らってると思ってるんですか!?」

「単独で行ったって戦況は変わらない。高射砲を叩いて、友軍を引き連れ攻め込まなければ勝機は無い。 寧ろこの有利な状況は変わってしまう。 仲間の死を無駄にするつもり?」

「っですが!」

「これが最後のチャンスなんだ少尉。貴方も分かってるはず、今がきっと最終決戦だと。ここを攻めなきゃまた長引くだけだよ」



もしくは負ける。均衡した僅かなバランスの上に成り立つ勝利の兆し。

この戦況は、多くの仲間の命を代償に手にしたものだった。

死をも恐れぬ前進でいくつもの情報を集め攻め入る隙を作ってくれた。

その中には、仲良くしていた友人も居た。思えば彼女はその友人が死んでから酷く疲れてしまった気がする。



「少尉、貴方はもう引き返した方がいい。 戦う意思が無いのなら隣で飛ばれても邪魔だよ。 友軍は私が助けに行く。 必ず連れてくるから…」

「………、副団長は死ぬのが怖くないんですか?」

「そりゃ怖いよ。でももう大戦が始まってから七年経ったんだよ。 いい加減私は家に帰りたい」



それが遺体でも。

魂だけでも。


七年前のある日彼女は突然聞かされた。

自国が脅威に晒されていることを。幼いあの日の彼女は国を守る、家族を守ると決意したはずなのにいつの間にホームシックにかかったのか最近では母国の空を思い、異国の空を飛ぶのに飽きてしまったらしい。


隣を飛ぶ彼は、速度と高度を僅かに落とした。



「………隊長、すみません。自分は、臆病者です」

「しかたないよ。 何か心残りでもあるんだろうし…」

「故郷に恋人を置いてきました。だから必死に生き延びてきたんです…! こんな、もうすぐ終わるって時に!」

「いつだって決め所はリスクがついてるもんだよ。だからこそ、ここで決めなきゃいけないんだ。命を賭ける価値はある…!」



術式を大きく展開させ、索敵の有効範囲を広げる。 斥候は見つからない事が最低の条件であり、また敵を見つけるのが最大の役割だった。

感覚を研ぎ澄ませ、友軍の気配を感じ取れる様に集中し直す。

最前線の森はもうすぐだった。まだ随分遠いが敵国兵士が居る。



「さ、少尉はもう離脱したほうがいい。敵兵に観測されたら終わりだよ。貴方が言ったんだ、誰も責められないって。私も貴方を責める気は無いよ。誰かがするのなら目的は完遂されるからね」

「貴女には心残りや、やりたい事は無いんですか?」

「…、そう言うの戦場で言わない方がいいよ」

「え?何故で…ーーー」



彼の言葉が途中で途切れた。さっきの様にわざと速度と高度を落としているわけじゃない。頭から地面に向かっている。 彼の展開していた術式が解けると続け様に砲撃が飛んできた。 どうやら敵国には優秀な狙撃手がいるらしい。

右眉の少し上に赤黒い穴が見えた。すぐに被弾したのだと理解する。あの大きさなら後頭部は半分はど弾けてしまっただろう。

力の抜けた、ただの物となってしまった彼を横目で一瞬見ると、彼女は素早く遠方の敵兵に攻撃魔術を放った。

当たらなくとも、牽制くらいにはなるだろう。


この距離から虹彩反射を無効化し攻撃を当ててくるとなると、敵兵の中に斥候、ないし観測に優れた者が居るのは明らかだ。

対象的に彼女の近くに居た戦闘を得意とする斥候の最後は今し方狙撃されたばかり。後方にももう僅かにしか残ってはいないだろう。

厄介な斥候を最初に狙ってくるのは分かっていたのに、対処が遅れた自分に腹をたてる。

戦況が長引く時は大抵敵国の斥候は死んでいる事が多いのが今までの経験で培ってきた考えだったが、それを脳内で消去する。

息を深く吐き、一瞬で来る空気抵抗に覚悟を決めて加速する。

今から高度をとっても観測されている場合は意味がない。ならば、正面から応戦するしかないと彼女が出せる最高速度で敵兵に向かった。

正面からくる攻撃魔術をギリギリで避けていく。少しでも無駄を減らし空気抵抗で減速するのを防いだ。


手を翳し、魔弾を生成する。


同時に仲間に向け魔術通信を飛ばし、強制的に彼女の叫びを脳に言葉を叩き込む。



「第三師団、各位に通達!少尉が墜された! 敵兵の中に斥候有り、虹彩反射は通用しない! 最大火力で撃ち落として!! 高射砲を破壊し次第私は友軍を助けに行く、必ず連れて帰るからっ! それまで、どうか持ち堪えて…!」



更に速度を上げ敵兵との距離を縮めていく。

訓練施設で唯一誰にも負けなかった高度と速度で敵兵を背後に置き去りにした。

何発かは防弾術式を抜け掠ったが彼女は止まる事はしなかった。

正面での交戦に持ち込んだ彼女が自分達を通り過ぎ前線に向かうのを敵兵はあえて見逃した。ここで躍起になれば後から付いて来ている彼女の仲間に無防備な背中を見せることになるからだ。

自分達を突破できたところで先に有るのは何十もの上空部隊を撃墜してきた優秀な高射砲。絶対的の自信と信頼をそれに預けていた。


それは彼女もよく知っていた。


何故なら彼女の部隊より先に高射砲の怒りを受けたのは他でも無いもう居ない友人だったからだ。

彼女は思考を停止してただ高射砲からの砲弾を避け本体を破壊する。それだけをプログラムされた機械をイメージした。 痛みも恐怖も感じない、ただの物になろうと。

思考を再開すれば、墜ちていく少尉の事を考えてしまうからだ。

彼は言っていた。心残りや、やりたい事は無いのかと。



ーーーこれが終わったら……



彼女は大型魔術の術式を展開した。

詠唱している間も放たれる砲弾を避けながら狙いを定めて打つ。


放たれたそれは幾筋もの赤い閃光を撒き散らし爆音を立て高射砲の大多数を壊す。目下に広がる炎の海に僅かに口の端が上がった。

己が放った術式の熱風を浴びて薄く汗を滲ませる。

それに続けと多くの同胞が同じく大型術式を展開していく。中にはやはり墜とされる者も居たが、彼女の攻撃を皮切りに僅かに戦況が動いた瞬間でもあった。


あれだけ煩かった高射砲の音はもうしない。


熱で巻き上がった黒い粉を髪から払い、滑空を続ける。

目指すは前線。 友軍が居るかの森。


彼女は指先で己のベリーショートの髪を摘んだ。



「………うん、伸ばすのも有りだよねぇ」



彼女はまた笑う。先程の笑みとは違い控え気味だ。

どうかこれが遺言にならない事を願いながら、彼女はまた速度を上げた。


読んでくださりありがとうございます!

※この物語は恋愛のお話です!

全くそんな要素の無いプロローグですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです(*´-`)

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