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超能力者達。 〜中学校編〜  作者: 村人S
第一章 〜中学校編〜
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第一章 【第七話】

「両者、構え!」

「ふふーんっ! 頑張っちゃうもんねっ!」

「こっちこそ! 姉ちゃんには負けない!」

 ここは模擬戦を行う闘技場。そこは今、何とも言えない緊張感に包まれていた。


「な、何か見てるこっちまで緊張してきちゃう····」

「バカ。まだ何も始まってないだろ···。まぁ、気持ちは分からなくもないがな。だが、そんな事でいちいち緊張しているようじゃまだまだだぞ。後々に俺達もあそこで戦うんだ」

 永久は紅に言われて改めて気を取り直し、双子が向かい合っている場面を見る。


「用意····始め!」

その瞬間、砂埃が舞い上がった。

「えっ! 何これ! エッホエッホ!」

永久は思わず咳き込む。そう。上にいた観客にまで届いてしまうくらいだ。

「バカ。ハンカチくらい持っていけ。ほら」

「ありがとー」

紅に渡されたハンカチを持って涙目で笑う永久。紅はそれを見て苦笑いをした。


「それにしても、全然目に追えないわ。やはり《俊足族》と呼ばれていただけはあるわね」

「俊足族····?」

麗は扇子で口元を隠す。そして興味深そうに目元を細めた。

「ええ。まだ実際に見たことは無かったのだけれど、聞いたことはあるわ。ものすごい速さで動き回り、肉眼で姿をおえないことから、その俊足さを称え、《俊足族》と呼ばれているの」


「やべえ! 速すぎて目で追えねぇ!」

すると近くの二組の方から男子生徒の声が聞こえる。そして見てみると、必死に目で追っているが、どうやら姿が追えないようだ。

「ねえ? 言った通りでしょう? 俊足族の力は恐ろしいのですわ」

「こ、紅、姿追える?」

「いや····。さすがに目が優れている家系じゃなければ見えないだろ。俺には見えない」

(そっか。紅にも追えないんだったら、俺の目に追えるはずが無いもんな)

永久は苦笑し、おさまった砂埃の向こうにいる双子を探す。


「ふぅっ、ふぅっ、美希、アンタやるねー。流石にここまで成長してたなんて、思わなかったよー」

「ははっ! はぁ、はぁ····、はぁ。流石にお姉ちゃん、舐めすぎだよー。私だってやる時はやるよー?」

勝負の映像は大きいモニターで映されている。さっきはモニターすら隠してしまうほどの砂埃だったため、何も見えなかったが、今では鮮明に見えるし、会話も聞こえる。

「うん、うん。じゃあお姉ちゃん本気出しちゃおっかな。私に負けたくないんでしょー? じゃあお遊びの私よりさ、本気の私に、勝ってみなよっ、と!」

「!?」


美希が驚いた時には遅かった。真希は目にも止まらぬ速さで感知レーダーに向けて拳を放ったのだ。

「グゥっ!」

鈍い音と痛そうな声を上げて美希は吹っ飛んだ。

一気に二つの感知レーダーが機械音を出し、淡い光を放ちながら消えていった。

「よし! 美希! これについて来れなきゃ私に勝つなんて言えないよ!」

「うっ、うぁぁ····」

美希は地面に爪を立てながら立ち上がる。

(まだだ、まだお姉ちゃんは本気を出してなんかいなかった····! くっ、今まで互角に張り合ってきたと勘違いしていたけれど、まだまだお姉ちゃんには勝てないっ····)


美希はふらつきながらも立ち上がる。真希はそれを見て優しげな笑みを浮かべた。

「流石だよ美希。強くなったんだね。私さ、ずっと美希は私の後ろをついてくるだけの存在だと思ってたの。でも違ったんだよね。美希は美希なりに強くなってた。ある意味私は美希を馬鹿にして、どこか優越感を感じてたのかもしれない····」

「お姉ちゃん? いきなりどうしたの····?」

「私、いつも美希には私よりも強くなって欲しいってずっと言ってたよね。でもあれは嘘。私、心の奥底で美希は常に私のちょっと後ろをちょこちょこついてきて、私よりも弱い····。そんな関係を築いて行くんだって、ずっと」


いきなり始まった会話に、驚きを隠せない生徒達。

「聞いちゃうけど、あの二人に何があったの?」

「分からねぇ。ただ、まぁ、双子だからな。色々思う節はあるんだろう」

「双子····か」

永久は真希と美希を悲しみを帯びた瞳で見つめる。

「永久? どうした?」

「ううん! ただ、双子っていいなって感じただけ。さっ、戦いが再開するっぽいよ! どーなるかなぁ!」


「ごめんね。こんなこと言っちゃって。でも負けられないなぁ。美希。本気を出して」

「本気? 私にとっては、あれが本気だよ····?」

「ううん。私には分かる。美希はまだ行けるよ! さぁ、来て!」

「え····」


美希は考えた。自分の本気とはなんだろう。いかなる理由で、本気を出せるのだろう。

(本気····。私の····)

「来ないならこっちから行くよ!」

真希は地面を踏みしめ、こちらに向かってくる。美希には酷くそれがスローに見えた。

(そもそも本気ってなんだろう)

美希は考える。そしてあるときの言葉を思い出したのだ。

(お父さんとお母さんに”また”お姉ちゃんと比較されて落ち込んでる時に、お姉ちゃんに言われたことだ)


『美希。言われっぱなしでいいの?』

『お姉ちゃん····』

『そんなに言われて、悔しくないのっ』

『なんでお姉ちゃんが泣いてるの····?』

『悔しいの! 目の前で美希が酷く言われてるところを、いつも見たことがない。なのに目の前で美希は傷ついてる····。ねぇ、美希は何を思うの?』

『思う』

『うん。仕返ししてやりたい! とか、見返してやりたい! とか』

『····』

『あれ? もしかして余計だった? ごめんね』

『ううん。見つかったよ。私の思うこと』

『見つかった? なになに! 教えて!』

『私の思うこと、それはね』


「お父さんやお母さんや皆に、飛兎真希の妹の飛兎美希じゃなくって、一人の人間の飛兎美希として見てもらいたい」

美希は呟く。それは辛うじて声を出した程度の小声であり、しかし自分を奮い立たせる大きな自信となる言葉だった。

『ドックン、ドックン、ドックン』

心臓の音がうるさくなる。血の巡りが早くなってくる。


美希は地面を踏み締める。そして右足に力を入れると、地面が割れた。

拳に力を込める。そしてダッど力強い音を立てて美希は飛び出した。

「私は、飛兎真希の妹なんかじゃない! 飛兎美希なんだぁ!」

拳が当たる手応えがした。懐に潜り込んだ為、真希の拳は当たっていない。


「うぉぉおおおお!」

『えっ? それが願いなの?』

『うん』

『良いじゃん! 私もそれ、楽しみにしてる! いつか互角に戦える時が来るといいね!』


巨大な爆発音がし、砂埃が先程の倍以上舞い上がる。

「エッホエッホエッホ! どうなったの!?」

「分からねぇ!」

生徒会が軽く魔法を使ったようだ。素早く砂埃は晴れていく。

「ど、どうなったんだ!」


全生徒が目を凝らすと、そこには確かに立っている人影があった。

「えっ、えーっと····。飛兎真希戦闘不能! よって勝者飛兎美希!」

「うおおお! すげぇ!」

「熱い展開だったな!」

会場中から称賛の声が上がる。その中心に、確かに飛兎美希は立っていた。


永久は咄嗟に目を細める。眩しかったのだ。ボロボロになりながらも、達成感をもちあわせた顔をしている美希が。

「大丈夫、お姉ちゃん?」

「うん! 凄かったよ! もしこれが真剣な戦いだったら命を落としてたかもねー」

「お姉ちゃん大袈裟だよー」


二人は着替えるために生徒会に案内された場所まで行く。

「俺もあんな戦いができるのかな····」

「さあな。だが、無理してそんな風に戦わなくて良いんだぜ? 自分らしく戦えばいいんじゃねぇの」

「そうだね。うん」

永久はまだ来たる自分の戦いに胸を踊らせていた。




-----------------------------


「ふぅ。お姉ちゃんは医療室に運ばれたみたいだけど、大丈夫かなぁ」

美希は着替え終わり、真希の身を案じていた。しかし、前から聞こえてきた足音に顔を上げると、その思考は停止した。

「えっ、お父さん、お母さん····?」

「美希。真希はどこだ?」

美希の前から歩いてきた人物は、美希が悩んでいた両親だった。美希は真希を傷つけてしまったことへの罪悪感を持ち、俯く。

「医療室で着替えてる。私よりボロボロだったから」

「そうか····」


父親がゆっくり美希の方へと歩いていく。美希は真希を傷つけてしまったために、両親が怒っているのだと思っているため、肩を震わせて怯えた。

しかし、父親は手を美希の上に置いて左右に動かし始めた。頭を撫でたのだ。


「え」

「すまなかった」

「お父さん···?」

「そこまでしてお前が真希との比例を嫌がっているとは、気づけなかった」

「ごめんね、美希ちゃん」


母親も目を伏せて謝る。美希は唖然としていたが、やがて微笑むと、

「今日、お姉ちゃんと一緒に四人で、レストランに行ってくれるんだったらいーよ」

「!」

と言った。それを聞いた両親は互いに顔を見合わせて暫く驚いていたが、

「そうだな。学校に外出届けを承諾してもらって、レストランに行こう」

「今日は美希の好きなところでいいわよ」


「····うんっ!」

第七話の投稿となります。


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

質問、意見や感想、誤字脱字のご指摘やアドバイスなどありましたら感想の部分に書いていただけるとありがたいです。


毎週月曜日に更新致しますので、読んでくだされば幸いです。

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