第一章 【第六話】
「つ、つきましたっ! ここが、闘いをする場合にっ使用される、闘技場ですっ!」
「へぇ〜、ここが····」
「むっちゃ広いんだな。まるで東京ドームみてぇ」
永久達は現在、担任である水瓶降夜に闘技場に案内されていた。
その闘技場はとても広く、さすが国が作った学園だけあり、学園の生徒全員が余裕で入れるくらいにはなっていた。
そこにはもう他の学年の生徒も揃っていて、生徒会などの姿も見えていた。
「これはっ、成績に関わらないため、互いがこれからの為のっ、準備運動のようなものですっ! ルールは簡単ですっ! 皆さんには、これをつけていただきますっ!」
そうして降夜が見せたのは、青色の淡い光を放っている丸形の平べったい物だ。
「これをっ、心臓部分とっ、脇腹部分とっ、自分の利き足と反対につけますっ! これは相手の能力に反応しますっ! 自分が誤って傷つけてしまっても、大丈夫ですっ! 多分····」
「これをつけてどうするんですか?」
紅がキョトンとした顔で聞く。降夜はビクッとしたあと、恐る恐る自分の体に貼り付けた。
「でっ、では操延さんっ! これに向かってっ、能力を放ってくださいっ!」
「えっ? あっ、はい」
永久は言われるまま訳もわからず返事をし、首元から一本の太い針を取り出す。それを握り、能力を発動させると、丸形の平べったい物に直撃した。
その瞬間、不思議な機械音がして、淡い光がゆっくりと消えていった。
「ええっ! 光が消えた!?」
「あっ、はいっ、そうですっ! これは装着した人の能力を読み込んで、その本人の能力では壊れないようになっているのですっ! ですのでっ、爆発系の能力を使用する場合でもっ、安心して放つ事がっ、できます!」
降夜は説明を終えたようで、あたふたしながら生徒に配っていた。
永久たちにも配られ、持ってみると案外軽く、すんなりと装着することができた。
「これなら三つつけても大丈夫だね〜」
「そうだな。こんなにつけているのに普段通りに動ける····。学校側もずいぶん考えたものだな」
紅も感心したように呟く。するとだんだん周りが静かになっていき、理事長が立ち上がって壇上に登っていることが分かった。
『それでは皆様ご静粛に。起立する必要はありません。今やっていることをやめ、理事長の方をご覧ください』
すると、マイクから冷たい声が聞こえてくる。副会長の声のようだった。
『それではただいまから開会式を開始致します。着席したまま、起立、礼』
全校生徒は礼をする。副会長はそれが終わるまで待ち、自分も礼をするとまた再びマイクを持った。
『それでは理事長のお話です。理事長はお願い致します』
理事長はマイクの電源を入れると深呼吸し、喋り始めた。
『お久しぶり。一回教室に戻ってもらったのに、また呼んじゃってごめんね。でもこの模擬戦では互いのことを知るいい機会なんじゃないかな? 人柄も能力も知って、新たな学校生活の踏み台になればいいかな。じゃあ終わりにするね』
『気をつけ、礼』
副会長がまた再びマイクを持って言う。永久達は頭を壇上に向けて下げた。
『それでは次は生徒会によるルール説明です』
副会長はそう言うと、隣にいた生徒会長とともにマイクを持ったまま壇上まで登ってきた。
『気をつけ、礼』
また永久達は礼をする。
『生徒会長の気空全です。まずはルール説明を致します』
『副生徒会長の三葉花です。私からは後程、注意事項を説明させていただきます』
全は書類をめくり、マイクに向かって話す。
『まずこの模擬戦では、命を脅かすような場所への攻撃は認められていません。足元等の威嚇で刃物を使うのは構いませんが、直接攻撃はしてはいけません』
(それ終わったくさくね!?)
全の説明に生徒達は頷いているが、永久だけは冷や汗を流していた。
それは、永久の能力に関係する。永久の能力は空間移動であり、物に触ることにより好きな場所へと移動させられると言うものだ。
しかし永久は、先程の丸形の物を破壊したときと同様に、特殊な針を飛ばして攻撃する。そう。針だ。
(刃物使えないなら俺、どうやって戦えばいいの!?)
『しかし能力でどうしても使わなければ成立しない場合、こちらで感知レーダーにしか影響のないカバーを差し上げます。なのでそちらを使ってください』
永久はそれを聞いてホッとする。
そして丸型の物体は感知レーダーと言うらしい。安直な名前だと永久は思った。
『そして感知レーダー全てを破壊したその瞬間、その方の勝利は決定いたします』
(なるほど···。だから急所につけるのか···)
永久は考えを巡らせる。全は紙をめくって説明を続ける。
『では、これにて感知レーダーについての説明は以上です。続いては闘技場にての戦い方についてです』
永久はいよいよ顔をしかめる。実は永久はあまり戦いを好まない。
『まず、一年五組のAから始めます。そして一組まで行ったら、二年に入ります』
「五組かぁ〜」
永久は左奥を見る。そこにはキチッと座った双子を中心に、背が低い人達が揃っているようだ。だが強さは侮れない。175も身長がある永久からすれば、ああいう小柄な体の人間は素早く、中々的を絞れないのだ。
『最後は三年です。そして各学年の優勝者が戦い、一番勝利数が多い学年の勝利です』
『ここで注意事項です。同じクラスや学年で戦っている人の手助けや、その対戦相手に野次を飛ばすようなことはしないでください。した場合はその人を退場にするか、そのクラスを退場に致します』
やはり正々堂々戦わなければならないのだろう。永久はため息をつく。
『では戦う際のルールを説明致します。まず互いに向かい合ったら礼をします。そして握手をし、審判の合図があり次第、二メートル離れていただきます。そして審判の合図がまた再び降り次第、どちらからでも構いません。そこからは自由に戦ってください』
そこで全はピッと指を立てる。が、そんなの見えるか見えないかぐらいだ。
『しかし、節度はきちんと守ること。ハメは外さぬよう。そして周りへは先生方が結界を貼ったため、安全です。遠距離や範囲が広めな攻撃も可能です。安心して放ってください』
その言葉に永久含めた一年のみならず、全学年の生徒がホッとした顔をする。どうやら範囲が広い攻撃をする生徒が多そうだ。
『最後に。感知レーダーが破壊された時点で攻撃は止めてください。そして場外へふっ飛ばされても、感知レーダーが破壊されていない場合、再び戦闘に戻ることは可能です。万が一致命傷を負った場合でも、治療班が一生懸命治療させていただきます。以上で説明を終わります』
『起立。これにて開会式を終わります。気をつけ、礼』
全校生徒は礼をする。生徒会が生徒会鑑賞席に戻り、また三葉がマイクを手に取る。
『それでは、ただいまより模擬戦一年生大会、一年五組の試合を始めます。コールは私、三葉が努めさせていただきます。私が負傷している場合には代役がいますので、ご安心を。それでは第一試合、飛兎真希さん、飛兎美希さん、準備を始めてください』
「はーいっ!」
「はーいっ!」
すると二つの元気な声が重なって聞こえてきた。永久がそちらを見ると、先程見た双子の少女が立ち上がり、手を元気よく挙げていた。
「模擬戦、か···。最初はどうとも思わなかったが、色々聞いていたら面白そうだな。興味湧いた。永久、もしぶつかるときが来たらその時は全力だ」
「紅がそんなこと言うなんて珍しい····。うん、分かったよ! 今度こそぎゃふんって言わせてみせるからな!」
永久は意気込み、自分の戦いまでに行われる試合を見始めた。
第六話の投稿となります。
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