第一章 【第四話】
永久と紅は体育館を抜け、五階目指して階段を登っていた。
しかし入学式での疲れもあるのか、皆ヘトヘトだった。
「うへぇ〜、疲れたよ〜! いつまで続くんだよこの階段〜!」
今年からの新入生、操延永久もまたその一人だった。
「仕方ないだろ。一年生は一番上のフロアだからな。受けとめろ、現実を」
対してこちらの男子生徒、炎堂紅は汗一つかかずにしっかりとした足取りで歩いていた。
「うわぁ。さすが選ばれし者だなぁ〜! 全く息を乱さずに登れるなんて!」
二人はこの学年200名から各クラス二人ずつ選ばれた、選ばれし者なのだ。
いわゆる特待生中の特待生と言った感じだ。
「なのに操延さん。あなた本当に選ばれし者なの?」
「なっ!? 失敬な。俺はあの操延家の本家だぞ! 見えないってよく言われるけど!」
「だって本当に見えないじゃないの。お隣さんの炎堂様はもうファンクラブが出来たっていうのに」
「ちょ、ちょっと言い過ぎだよ布梶さん!」
「布梶さん?」
「あら、私の名字よ? ····そう言えば自己紹介してなかったわね。確かに一方的な挨拶になってしまったわ。私は布梶麗。あまり世には出回ってない家なんだけどね」
布梶麗。そう名乗った女子生徒は人が良さそうな笑みを浮かべる。しかしその瞳には燃えるような闘志が宿っている。
「よろしくね、布梶さん。俺は操延永久です。····って、ファンクラブ!?」
「そうですわよ? もしかしてあなたが知り得ない情報でして? それならば謝りますわ。私は誠実ですから。説明して差し上げなさい、下由」
「はい。しかしここは場所が場所ですし、後々でよろしいのでは?」
「あなたは?」
しかしずっと黙ってみていた紅が下由に名前を聞く。その眉はひくついており、不機嫌そうだ。
「あっ、申し訳ありません! 私、こちらの麗様の従者を務めさせていただいております、温上下由でございます。以後お見知りおきを」
下由はうやうやしくお辞儀をする。紅は永久を自分の後ろに隠すと、暫く二人を睨みつけ、
「行くぞ」
そう言って永久を引きずる形で教室まで連れて行った。
教室まではあまり遠くはなく、後一階登れば五階に辿り着くところだった。
教室の前までつくと、紅は勢い良く扉を開けて入った。そして真ん中まで歩く。
「ちょっ、ちょっと紅!? 何するの!」
「あいつは危険だ。あれ以上近づくな」
「言ってる意味が分からないんですけど!?」
「ひとまず座席順を見よう」
紅と永久は黒板に貼られている座席表を見る。
男は男同士で、女は女同士で座ることになっていて、それが交互になっているようだ。
紅と永久はもちろん隣同士で三列あるうちの真ん中の列の一番前である。
選ばれし者から優秀な者ほど前に席が行き、教師の目につきやすい場所になっている。
「全く····いきなり走り出すからびっくりしちゃったよ〜」
「わりい。何かあいつから嫌な気配がしてな」
「布梶さんのこと? 確かにちょっと性格に難があったけど、いい人そうだったよ?」
「いや、俺が言いたいのは―――」
「やぁおはよう! 今日も良い天気だね!」
紅が何か言いかけたとき、勢い良く足音を鳴らしながら褐色の男子生徒が入ってきた。
男子生徒は呆然とした皆を見つめ、そしてふと永久と紅を目に入れると、ズカズカと近づいてきた。
「やぁ! 君が操延永久くんと、炎堂紅くんだね! よろしく!」
「うん、よろしく······?」
「あぁ、よろしく! 炎堂くんも!」
「······よろしく」
紅は思いきり顔をしかめている。どうやら苦手なタイプのようだ。
「あぁ、すまない。自己紹介を済ませていなかったね! オレは獅煙楼だ! よろしく!」
獅煙楼。そう名乗った男子生徒は爽やかな笑みを見せた。
「何で先に行かれてしまわれますの? まだ話の最中でしてよ?」
そして、楼の言葉に被せるようにして喋りながらか入ってきたのは布梶麗と、その従者である温上下由だ。
「あぁ、君たちは確か····誰だったっけな?」
「あら。私の名を知らなくてよ? それは残念ですわ。ならば教えて差し上げましょう。私は布梶麗。こちらは従者の····」
「温上下由でございます。せめて名だけでも覚えていただければ幸いでございます」
楼は暫く二人を無表情で見つめていたが、やがて先程の笑みに戻り、
「あぁ! 麗と下由だな! よろしく!」
そう言ってニカっと笑った。
「ところでさ、楼さん」
「うん? 質問なら何でも受け付けるよ!」
「何で入学式の時来なかったの?」
そう。入学式の時楼の様な異質を放つ存在ならば、目立っていておかしくないのだ。しかしそれでも紅が、見たことない人を見るような表情を取るということは、入学式の時はいなかったということなのだろう。
「あぁ! それのことか! 実は遅刻してしまってね! 起きて急いで着替えて走って向かってやっとついたときには、もう入学式が終わってたんだ」
「でも入学式に間に合わなかったら入れてもらえないんじゃないんですか?」
紅が驚いたように聞く。しかし楼はガハハと豪快に笑った。
「それは無理に言って通させてもらったよ! どうしても入学したいって土下座までしてね。そしたらあっさり。まぁ先生達も本物の鬼だって訳じゃないし、流石に通してもらったよ!」
楼はそう言って笑う。もう皆は苦笑いしか出てこなかった。
「そうですわね····ひ、ひとまず座りましょう····」
先程まで威張っていた麗も顔が引きつっている。
「おいっ! 先生きたみたいだぞ!」
すると生徒の一人が扉の向こうを見ながら叫んだ。
椅子を引きずる音がひたすら鳴り、先程見張っていた生徒も何食わぬ顔で座る。永久達も椅子に座る。
そしてその瞬間、扉が開いた。
第四話の投稿となります。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
質問、意見や感想、誤字脱字の指摘やアドバイスなどありましたら感想の部分に書いていただけるとありがたいです。
毎週月曜日に更新致しますので、読んでくだされば幸いです。