第一章 【第三話】
一瞬で静かになった体育館には音はない。ゆういつあるとすれば教頭の歩く音だろうか。
「·······はい。無事に揃っていただけたようで何よりです」
教頭はそう言うと、扉の方をしきりに気にし始めた。どうやら他の教師は揃っているようなのだが、理事長が来ていないらしい。その証拠に、一つだけ豪華な椅子がぽっかり空いている。
すると、扉の方から音がし、優雅に一人の男性が歩いてきた。
「すまなかったね」
そう謝った男性は、豪華な椅子に腰掛けた。どうやら見る限り彼が理事長みたいだ。
ふんわりとした笑顔だが、特待科の生徒達にはすぐに分かった。理事長はとても強いと。
「ふぅ。それではただいまから第二百回、入学式を挙行いたします。一同起立」
ここは練習せずとも皆スタッと立ち上がることができた。そして「礼!」という合図と共に、教師共々頭を下げる。
「では最初に、理事長による挨拶です。理事長はお願い致します」
「はい」
理事長は立ち上がると、豪華な底の音を立てて歩き、舞台まで登る。そしてマイクの電源をオンにすると、きゅっと引き締まっているその端正な唇を開いた。
「この度は我が学園にようこそ。····ってちょっと堅苦しかったかな? じゃあ崩すね。まぁ、僕のことは少なからずとも知ってるかな? 一応自己紹介しておくね。僕は炎堂神です。よろしく」
そう言って神は優しげに微笑む。永久は神の名字を聞き右隣を急いで見た。
「こっ、こここここ紅!?」
「あ〜、俺の叔父。今までそう言えば言ってなかったな」
「そ、そうだったの?」
神はそんな二人に気づき、ふんわりと微笑みかけてくれた。
それを見た紅が顔をしかめる。
「一応能力者として活動もしています。ランクは四位です」
そう言った瞬間、凄まじく体育館の中が騒がしくなった。
「四位だって!?」
「四位って、あの四天王に当てはまるじゃない!」
四天王。それは一度は聞いたことがあるだろう。
簡単に言ってしまえば、その世界で選ばれた四人が言われる称号だ。
神はその中に最年少で入っており、歴代最年少の四天王とも言われている。
「まぁ、そんなことはっきり言ってどうでも良いよね? だってランクなんてのはただの表向きの見せつけでしかないんだから。だってそうでしょ? 君達の友達が自分のランクを一位でも越してたら悔しい、勝ちたい、って気持ちが湧いてくるでしょ? それだよ。それを狙ってるんだよ。闘争心を掻き立てて最終的には政府がそれを手玉に取り、駒にするんだ。そんなのは酷い!」
いきなり両手を広げて叫ぶ神に、紅含め生徒達は首を傾げる。
「あぁ、熱くなってごめんね? ようは未来のことは考えず、いま自分の目の前にある課題を少しずつこなして行けってこと。そうすれば自ずと未来が見えてくるはずだよ。じゃあ、話を終わるね? 聞いてくれてありがとう」
「えっ? あぁ。一同起立!」
皆は立ち上がる。教頭は額から汗を流しながらマイクに向かって喋る。
「気をつけ、礼!」
皆言われたとおり頭は下げるが、中はちんぷんかんぷんだ。
「では続いて、生徒会の挨拶です。生徒会長と副生徒会長は前にお願い致します」
「はい」
すると、体育館の端のほうから二つの声が重なって聞こえてきた。
そして階段を登る音が聞こえてくる。上がってきたのはキリッとした男子生徒と、これまたしっかりしてそうなキリッとした女子生徒だ。
「一同起立! 気をつけ、礼!」
「皆様お座りください。新入生の皆さん、この度はご入学おめでとうございます。生徒会長の気空全です」
「副生徒会長の三葉花です」
「私からはこの中学校の生徒になることにおいて、最低限守っていただきたいルールをお伝えさせていただきます」
「私からはそれを破ってしまった場合の処罰をお伝えいたします」
処罰。重苦しいその言葉に新入生皆が息を呑んだのがわかった。
「ではまず一つ目。頭髪、制服など····まぁ、要するに身だしなみを整えろってことですね。これは小学校の頃からやってきたことですし、簡単ですね」
「今のところこの校則を違反しているものはいないようですが、もし違反していた場合には一週間の停学とさせていただきます」
「二つ目。他の科と無闇に戦闘を行ったり、能力をひけらかさないこと。学校が決めた年に一回行われる決闘会以外では戦闘を行ってはいけません。つまり他の科とはあまり接触するな、ということですね」
「この校則を破った場合、最悪退学ということも考えられます。注意してください」
「あひゃ〜。相当厳しく取り締まっちゃってるね、こりゃあ。これじゃ妹にも会えないじゃんかよ」
真理が小声で悪態をつく。それを聞いた元は慌てて口元に人差し指をやり、静かにさせる。
「そして最後。先程も言いましたが、身内に会う以外他の科には接触しないこと」
「この校則を破った場合、問答無用で普通科行きか、退学ですのでご了承ください」
退学。三葉はその言葉を生徒たちにつきつける。
「あなたたちはあの科では無いので、そんな親の脛かじって権力を振りかざしているだなんてことは、無いとは思いますが····? まぁ、大丈夫でしょう。それでは生徒会からの話は以上とさせていただきます」
気空と三葉は礼を同時にし、舞台上から去っていった。
「それでは以上を持ちまして、第二百回入学式を終わりとさせていただきます。一同起立! 気をつけ、礼!」
生徒達は最後になる入学式での礼を終え、座った。
「お疲れ様でした。ここからはクラス分けとなります。学生証をご覧ください」
永久と紅は学生証を見る。そこには二人とも、青色のスペースに美しい白色の宝石がはめ込まれていた。
「先程皆様が入学式を行っている最中、強さや学力、家系などを見て決めさせていただきました。白色が一組、緑色が二組、黄色が三組、オレンジ色が四組、紫色が五組となっております。こちらは全学年全科共通しておりますので、来年からは説明いたしませんのでご理解のほどお願い致します」
「ねぇねぇ永久! アンタ何色だった?」
「白だった。紅も?」
「あぁ。俺も白だった。真理さんは?」
二人の色を聞いて思い切り顔をしかめる真理。
「ちぇーっ。アタシ緑色····つまり二組だったよ! うわーっ最悪なんですけど!」
真理のその言葉に続いて生徒たちが次々に文句を言い出す。
「そうだぞ! なんてことしてくれんだよー! 離れちまったじゃねぇか!」
「家系でも決めたんでしょ!? だったら私と結菜は一緒のはずよ!」
「そうよそうよ! 考え直しなさいよー!」
「そうだそうだ! 一緒にしろよっ!」
次々にブーイングが飛び交う。それを見た教頭が慌てて宥める。
「おっ、落ち着いてください····これは平等なもので決めましたので、あなたたちに否定権はありませんっ」
「チッ、ならしゃーねーな」
真理が舌打ちをついたことによりその場は静まり返った。どうやら落ち着いたみたいだ。
「あの女子生徒は?」
それを見ていた神が教頭に小声で問いかける。
「はっ。あの者は白城真理という者です。二組の選ばれし者の様です。それ以外の細かな情報はこちらに」
教頭は分厚い冊子を渡す。神はそれを見て妖しく微笑んだ。
「へ〜。面白そうだな。あの操延家の落ちこぼれに惚れているなんて。私の所の甥の方が数倍良いと思うんだけど」
神はもう一度真理を見ると、再び指示を出した。
「進めてくれ、このまま」
「しかしよろしいのでしょうか? 未だに生徒たちは不満そうですが····」
「そんなもの知らない。何か文句があるんだったら直接私に言えばいいものを····。ともかく。このまま進めてくれ」
「かしこまりました」
教頭は神のただならぬ空気を読み取り、これ以上は何も聞かずに生徒たちの方を向く。
「皆さん! ひとまず一組から教室に移動してください! 担任も含めて詳しい話はそこで行います!」
「ちぇ〜っ。仕方がないかぁ····」
「まぁいいわ。隣のクラスだし、また会えるわよね」
それを聞いて生徒は渋々移動し始める。
「担任かぁ〜楽しみだね!」
「お前だけだと思うけどな。楽しんでる奴ってのは」
「えー? 楽しみじゃない?」
紅はため息をつきつつも出口に向かって歩いていった。
「じゃーなー! 永久と紅!」
後ろで真理と元が手を振っている。永久と紅は振り返して教室へと向かっていった。
第三話の投稿となります。
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