第一章 【第二話】
二人は無事に門をくぐり終え、何とか時間内に体育館に入ることができた。
そこは少しの話し声でざわざわしており、体育館いっぱいにある椅子半分が埋まっているところだった。
「お〜、体育館も豪華なんだね、ここって」
「ああ、だがそんなの一々気にしてる場合じゃないぞ? 早く受け付けに行かなきゃいけねぇんだから」
紅は扉のちょうど向こう側にある長蛇の列を指差す。
「並ぶぞ」
「そこで何を受け取るの?」
「学生証だ」
「学生証? あぁ、それって小学校のときもたしか受け取ったよね?」
二人は少しずつ進んでいきながら話も進める。
「学生証ってのは分かると思うが、そこに学年、組、名前、そしてランキング順位が記録してある。そして左側の四角には後々撮る顔写真を貼り、その下にある長方形には学年の色がある。
1学年が青で、2学年が赤で、3学年が黒って仕組みになってるんだ」
「へぇ〜」
「そして裏側。そこには何かある人と何も無い人に分かれてるんだ」
「何か?」永久は首を傾げる。
「そこの真ん中に、普通科は何も彫られておらず、特待科はバラの形に彫られてあるんだ」
「凝ってますね〜」
「あぁ。しかもこの全学年200名から選ばれし者達ってのがいてな。そいつらは左上に★印が彫られているらしい」
「らしいって?」
「まだ俺も良く知らねぇんだよ。ただ、2学年と3学年にも選ばれし者達ってのは公にはしてねぇみてぇだが、実際にはいるらしい。あっ、俺達の番みたいだぜ」
永久が紅の顔から受け付けに目線を戻したときにはもう受け付けは目の前だった。
「おはようございます。本日は学園へのご入学、誠におめでとうございます。心より歓迎いたします」
「ありがたいです。それじゃ、なにすればいいんですか?」
「まず、氏名を申し上げていただけますでしょうか?」
受付にいる女性は愛想良く出迎え、氏名を聞いてきた。
「炎堂紅です」
「えっ、あっ! 操延永久ですっ!」
二人が指名を言うと女性は少しばかり目を見開いたが、すぐさま顔を戻し、紙に書いた。
「ありがとうございます。では次に漢字の誤字脱字が無いか確かめますので、こちらの紙に書いてください」
二人は渡された紙に自分の名前を書く。そして女性に渡した。
女性はしばらく紙と紙を見比べていたが、やがて顔を上げると、
「完了致しました。ただいまから学生証を発行いたしますので少々お待ちください」
と言って机に置いてあるパソコンに文字を打ち始めた。そしてたったの十数秒で何かが出てきた。女性はそれを取ると二人に渡す。
「裏側もご覧ください」
二人は言われて裏側を見る。真ん中にバラが彫られていたが、二人共左上に★印が彫られていた。
「こちらの印のことはご存知ですか?」
「はい。母親から聞きました」
「俺も今さっき紅に」
「了解いたしました。ではカバーもお渡し致します。こちらには学年など書いてある方を表とし、保存なさってください」
二人は銀色の学生証を金色のカバーに入れる。
「金かかってんなぁ〜」
「おい、そういうこと言うなよな。失礼だろ?」
「構いません。事実ですから。このバラも今年から取り入れましたし、新たな対策も取りましたから」
女性は愛想笑いではなく、素でフフッと微笑む。
「対策?」
「ええ。数年前から起こっていることなのですが、普通科の生徒がどこかから持ってきたのか、特待科の服を身にまとい、ネクタイを締め、やって来るのですよ。今まででしたら学生証もすべて普通科と一緒だったのですが、去年普通科の理事会と話をし、今年からこの対策を取ることとしたのです」
女性はそう言いながら自身の教師証を取り出す。そこにはバラが彫られてあった。
「逆に特待科も今までならば許可なく普通科に入ることができたのですが、今年からは許可なしに普通科に入るといくら特待科とはいえ、退学となってしまうのです」
「ほえ〜」
永久が相槌を打つ。対して紅は冷や汗をかいていた。
「あ、あの····」
「はい?」
「今日の朝、ついさっきですね。永久の能力が膨大すぎて普通科まで飛んでいってしまったんですよ。その後急いで戻ってきたんですが、それって許可なし····つまり勝手に入ってしまったってことになるんですか?」
女性はそれを聞いて一瞬目を点にさせて固まったが、またすぐに戻り、クスクスと微笑んだ。
「まぁ、そんなことがあったんですか。事情はわかりました。もし普通科に聞かれた場合には、【能力事故】の一種だと誤魔化しておきますね」
「ありがとうございます! ほら、永久も!」
「あ、はっ! そうか! あ、ありがとうございます!」
永久も状況を飲み込んだのか、慌てて頭を下げる。
「いえいえ。さて、無駄話も長くなってしまったようですし、席を私の能力でお教えいたしますね」
そう言うと女性は手を合わせ、目を瞑る。
すると一番真ん中にある席2つがぼんやりと光った。
「左側に永久様、右側に紅様がお座りになるようになさってください」
「はい。ありがとうございました。ほら、行くぞ」
「うん!あっ、ありがとうございました!」
二人は礼を述べ、光っている席へと歩く。
ついた頃には皆が二人を見つめている状態だった。
二人が席の前に無事立つと、光っていた椅子が光らなくなる。
「え〜っと、俺が右だっけ?」
「バカ。お前が左だ。ほら、早く座れ」
永久は紅に言われるがままに座る。二人が座った少し後、また騒がしくなった。
「ふぅ、何とか席に座れたね」
「あぁ。一時はどうなるかと思った」
二人が談笑していると、永久の肩に誰かの手が触れ、『ポンポンっ』と叩かれた。
「ふぉっ!」
「あぁ、脅かしちゃった? だったらごめんね〜?」
永久が振り向くとそこには、茶髪に赤い瞳の元気に微笑んでいる女子生徒がいた。
「アンタもこの学生証の左上に★印があったんでしょ?」
「あ、はい····」
永久は訳もわからず、頷く。すると永久の右隣、つまり紅が身を乗り出し、
「よくわからないですけど、まずは名乗ってくれません?」
と言った。女子生徒は目を見開きしばらく固まっていたが、やがて体を震わせたかと思えば、
「あっはははは! 君達面白いね! あ〜ごめんごめん。名乗るからそんな睨まないで? アタシは白城真理。君たちと同じ、選ばれし者だよ。よろしく!」
そう言って真理は元気よく微笑んだ。
「俺は操延永久。よろしくお願いします」
「そちらが自己紹介してくださったので、こちらも挨拶しないと感じ悪いですよね。俺は炎堂紅です。よろしくお願いします」
「操延に、炎堂ねぇ····アンタらが選ばれる理由が分かるね」
真理は目を細めさっきとは違う、探るような微笑みを浮かべる。
「ところで、普通科には絡まれなかったかい?」
「普通科ですか? ····言って良い?」
「俺から説明する。ええ。普通科には絡まれましたよ? と言うか、能力事故で間違えて普通科に入ってしまったんですけどね」
紅は目を細め、どこか疑うように言う。
「全く。そんな怖い目して言わないでよ〜! いやね? 普通科にアタシの双子の妹がいるもんだから、もしかしたら絡まれちゃったり? と思ってさ。アイツ血気盛んだからさぁ〜!」
そう言うとケラケラ陽気に笑う真理。
「ちなみにその双子の名前は?」
「ん? あぁ、理沙っつうんだ。もし会ったら仲良くしてやってくれよな!」
「ね、ねぇ····ちょっと静かにしようよ····」
すると、真理の隣からいかにも草食っぽい男子生徒が話しかけてきた。
「ん? あ、あぁ悪かったね。ついつい話が弾んじゃってさ!」
「あのっ、すみませんでした····。ボクは次操元です。これからよろしくお願いします····」
そう言って元は座ったままだが、深く頭を下げた。
「よろしく! 俺は操延永久!」
「····炎堂紅」
二人も元に続いて挨拶する。そうして挨拶が終わったとき、ちょうど入学式が始まるチャイムが鳴り、四人は慌てて顔を引き締めた。
第二話の投稿となります。
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