第一章 【第一話】
東京のど真ん中にある【超能力者】専門学校。そこでは今日、新たな新入生を迎え入れる入学式が開かれる。
「う、う〜ん····もう朝ぁ?」
そんな中、専門学校からさほど遠くない家に住んでいる少年、操延永久もまた、今回の新入生の一人だ。
「永久様。もう八時でございます。ご友人の紅様も外で待たれていますゆえ、準備をなさっては」
「ええっ!? もう八時なの! やっば! 早く準備しなきゃ!」
永久は慌てて起きると、いそいそと中学の制服を身にまとう。
「髪の毛は私がやりますゆえ、おすわりくださいまし」
「うん! よろしく!」
家政婦に髪を梳いてもらい、永久は朝ごはんのトーストを口にくわえ、急いで飛び出した。
「いってきます! 色々とありがとう!」
「いえ、構いませんよ····」
永久は慌てて飛び出したので、その後の家政婦の言葉は聞こえていなかった。
「なんせ、これが最後なのですから―――」
家政婦がそんなことをつぶやいているとは露知らず、永久は赤髪の青年の元まで走っていた。
「ごめんね、紅! 寝坊しちゃって!」
「別に。お前の寝坊癖はもう治らねぇって思ってるから」
「ほんな! ひほい!」
永久はトーストを食べながらいう。
「元はといえばお前が起きてくんのが遅えのがわりぃんだろ。おら、歩きながら食えよ」
永久はそんな言葉に頷き、むしゃむしゃと食べ始める。
「はいっ、食べ終わったよ!」
「んじゃあ、よろしくな」
そう言って炎堂紅は永久の肩に手を置く。
紅は幼稚園からの永久の幼馴染だ。
「え? 何が?」
「俺が頼むことつったら一つしかねぇだろ。テレポートだよ、テレポート。お前の超能力なんだからよ」
超能力。それは今の永久たちには当たり前になっている力のことだ。
物を浮かせたりするサイコキネシスは常識。さらには炎を出したり、氷を出すということも可能なのだ。
「とは言ってもなぁ〜。自分自身をテレポートさせることはできないしなぁ····そうだ! 任せて」
永久は紅の体に触れる。超能力の発動条件だ。
次の瞬間紅の姿は跡形もなくなっていた。
「よしっ」
そして永久は指を鳴らす。その瞬間、人々やすべての動くものが停止し、一切動かなくなった。
永久はその間をゆっくり歩いていく。そして五分ほどかけて学校まで行ったが、周囲は固まったままだ。
「ど〜こ行ったかなぁ〜。テレポートさせたつっても学校を意識したけど、明確な場所は意識してなかったからなぁ〜」
しばらく辺りを見渡していると、校庭の端で固まって動かない紅を見つけた。
「解除!」
永久はもう一回指を鳴らす。すると、とても静かだった空間がざわざわしたうるさい空間に戻った。紅も元通りだ。
「ここは····って永久!?」
「やっほ〜。成功させられてよかったよ〜」
紅が驚いているのにも関わらず、突き進んでいく永久。
「あっ、おい待てよ!」
それを慌てて紅が追いかけていく。永久は成功させられたことで気分が弾んでいた。
「ふふ〜ん。始めてだよ! 俺の超能力が成功したのって!」
「だから待てって!ここ、特待科じゃなくて―――」
すると、『ドンッ』という鈍い音をたてて、永久は何かにぶつかった。更にその衝撃で、尻もちまでついてしまったようだ。
「あいたたた····」
「おい、気をつけろよ―――って、ちょっと待て。お前の制服ってもしかしてだけどよ」
「ちょっと! ちゃんと前見てくださいね!」
永久が男子生徒の言葉を遮りながら、ブーメランが飛んできそうな事を言い、顔を上げて立ち上がろうとした。
しかし、いきなり体が重くなって動かなくなった。紅が肩を思いっきり掴んだからだ。そしてそのまま耳元で囁いてきた。
「おい永久。さっさとずらかるぞ」
「えっ。何で?」
「おかしいと思ったんだ。皆制服が違うし、いきなりテレポートした俺を見つけた途端睨んでくるし。それで思い出した」
「何を!」
永久は振り向かずに聞く。
「俺達は向こうの特待科の学校の生徒で、こいつらは普通科の生徒だ····この意味がわかるな?」
「うん····」
二人は目配せをし、頷きあう。
「逃げるぞ!」
「やっべぇっ!」
永久は咄嗟に紅の体に触れて、急いでスライドさせる。そして自分も能力によって空間を捻じ曲げて今度こそ、特待生クラスまで行った。
「ふぅ、一時はどうなるかと思った····」
「ごめんね〜遠くから見るとよく似てるんだよ〜」
普通科がここまで特待科を恨む理由。それには大きな理由があった。
まず超能力者はランキングが決まっている。国内にいる超能力者1000万人をランキングにして表しているものだ。
特待科は100万位以上で入れるエリートだ。対して普通科はランキングなど関係なく、無能力者でも簡単に入れる場所。
特待科に入ると将来が楽になるだけじゃなく、魔術師や能力者としての仕事がずいぶんとやりやすくなるのだ。
魔術師や能力者の話はおいおいするとして、また特待科の一部の生徒も普通科を見下している部分もあるのだ。少しの劣等感も抱いているのだろう。
永久と紅は家や親に恵まれて、特待科として小学生からエスカレーター式で入ることができたのだ。
「まぁ、お前の能力に頼ってしまった俺にも非はある。次からは寮生活にもなるし、叩き起こしてやるからな?」
「ええっ!? そりゃ勘弁してよ〜」
「まぁいい、向かうぞ」
「うんっ!」
二人はこうして遅刻することもなく、門をくぐることができた。
そして二人がいなくなった後の普通科の生徒たち。
「全く。あのエリートたちは一体何がしたかったんだ?」
先程永久にぶつかった男子生徒が眉をひそめながら言う。
「きっと自慢したかったに違いないわ。入学早々吹っかけてくるじゃないの」
隣にいるそばかすの女子生徒が、思いきり拳同士をぶつけ合う。
「おい理沙。程々にしろよ?」
「分かってるわよ鉄郎。入学早々退学沙汰になるようなことは控えるわ」
理沙。そう呼ばれた女子生徒はニヤリと笑って校舎内へと入っていった。
鉄郎と言う男子生徒も、呆れたようにため息をついてついていった。
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