太一、開幕
「貴様ら、いい加減諦めろよぉ〜。もう完全にそっちの方はねぇぞ?」
ノットバレットは赤と黒の短髪に汗をつたわせながら、砂漠の熱い町の上に立っていた。
彼の見据える先には、太一とロシナンテの姿。後ろには、今は誰も使ってないビルが何棟もへし折れていて、見る影もない。
その場のあちこちに、ノットバレットが先ほど投げ飛ばした合体ロボットの破片が散らばっている。鋼の機体はコックピットや装甲に分裂して、一見しただけでは本当にロボットがいたのかすら怪しい状況だ。
その真ん中に、二人は立っている。汗をかきながらも、冷たいような冷静さを保っている。
ロシナンテは小さく呟く。
「太一。もう一瞬だけ頼む。隙を作ってくれ」
「もう何回目だほんとに。10回は隙を作ってんだろ」
「わかってる、でも、後一回だけ頼む」
太一は下を向いて、自分の靴を眺めた。エクレツェアでもらった戦闘スーツはあちこち解けて、ボロボロだ。終いにはフィガーま熱を帯びて、まるで腕時計にカイロでも仕込んだように、じっと手首に染み込んでいた。
太一は一歩踏み出す。
「フィガー開幕・モデル・オメガバースト」
太一の体を光の粒が覆う。これは彼の奥の手で、グレンシアの人間たちが使っていたものと同じ『開幕』だった。
フィガーの攻略をほぼ百%まで使用するこの『開幕』、発動方法はフィガーを既存の物語に同調させるといういささか難しい言葉になる。
ここでいう同調を簡単に説明すると、『すでに存在している物語ベースにその物語に沿った能力を使用することができるようになる』というものだ。
すると、オメガバーストという物語がすでにあることになるのだが、この物語は太一の元いた世界に存在していたアニメーションである。内容はシューティングゲームを元にしており、まさにこの戦闘にはもってこいの物語であった。
太一の体を、鋼にも似た別の質の金属アーマーが煽っていく。光沢もあるもののステンレスのように軽くもなければ、鉄のように思いわけでもない。原子の結合時に自由電子を生み出す点では同じであるが、この金属はどの金属に比べても硬質な物質であった。
太一の体表を、薄いシルバー色のアーマーが覆う。脚部、膝、掌、背中、ありとあらゆる場所に小型のエンジン。体から発するエネルギーを抽出つして、こう火力かつ機動性に長けたしなやかなアーマー。一丁のレーザー銃と、一振りのレーザーソードを腰に備えた、異世界でも稀に見るトップクラスの戦闘兵器。
太一のように、もともと弱小と呼ばれる異世界出身でも、フィガーなら現実にできた仮装状の兵器。オメガバースト。又の名を、戦闘機オメガ。
その姿はアーマーと言うよりはまるでその姿の生命体で、見事なまでにコンパクトに収まるっていた、
「おい、おっさん!」
太一が声を腹あげる。拡声器でわららように響く声は、宇宙空間ではあまり使わない代物だった。
ノットバレットが耳を傾ける。
「なんだぁ。コスプレかなんかきぁ?」
「そう見えるか?」
「いっちいち耳に触る母さんじゃねぇよ小僧」
「もしかすると、お前俺を舐めてるだろ?」
「舐めてるだと? 銃を持たない兵器っていえば、まさに不意打ちみたいなもんだぞ? それはつまり」
ジャパ!!
ノットバレットが、手元から鋭い手裏剣を取り出した、空気を叩くは辣腕をさせて、あっという間に手裏剣を投げ飛ばした。
残像も出ないほどはやく、手裏剣は太一の横のロシナンテの首に父が。
ノットバレットは笑った。
「つまり、不意打ちには一番警戒してるんだわ、おらぁ」
手裏剣は、ロシナンテの顔の枝握りつぶされる。太一の鋼の拳が、これもまた残像を残さずに掴み取ったのだ。
太一がその場に手裏剣の残骸を投げ捨てる。
「……じゃねぇよ」
「あ?」
「そんな手ェ抜くようなことはしなくていいから、本気でかかってこいよ。今の俺は、ちょっとだけつぇぜ?」
しゃきんと、ノットバレットは、針金からコインまで、金属のものを素早く手に取った。
「図に乗る奴は、嫌いじゃねぇ」
太一は今、顔の前に青いシールドを張った。




