この天井、ブチ抜けるか?
「縦だ」
「いや、横っす」
「縦だって、縦」
「いいや、横っすよ!!」
「だから話を聞け、縦だ」
「横っす」
ミーティアは拳の照準をゆっくり床に定めた。白い廊下の四角い通路を、中央から真っ二つに叩き割るつもりだ。
赤毛が床に寝そべる。
よしきは離れた位置から、両手を伸ばして止めようとしていた。しかし、危なっかしくて近づこうとしはしてない。
「縦だ、今ならまだ間に合う」
「横っす、もう決めたっす」
ミーティアは今いる廊下を叩き割った。
白い床に、ミーティアの美白な拳がめり込む。小さな拳は、鉄鋼より硬く、四角い通路もポン菓子を割るように割れた。
筒が二つになって、白い廊下は広大な地下へと真っ逆さまである。
外はブラックライトのような蛍光灯で、黒炭色の岩壁が照らされていた。
よしきの黒い装飾の姿は、また薄暗い中で顔以外が溶け込んでいく。
ミーティアの滝のような赤い髪の毛は、黒いキャンパスに大きく逆立った。
「ほらみろ、縦のほうがよかった」
「横のほうがいいっすよ」
「後始末すんのは俺だっつ〜の」
よしきは、暗がりの中、両手を伸ばす。
「ブラックアート」
黒い装飾から、精製されたように黒い鉱物が飛び出した。それは岩となりながら、つららのように伸び、崩れた白の廊下に巻きつく。木の根っこが張ったような形になって、白い廊下をつなぎとめた。
そのまま、滑り台のようにして、そのつなぎ目を解く。
白い廊下は斜めになって、直線のまま、廊下の先の高層ビルに突っ込んでいった。
「ミーティア、手を貸せ」
「はいっす!」
ミーティアの美白の手を取る。
「そのまま突っ込め!」
「了解っす!!」
よしきは、ミーティアをハンマー投げの要領で回転させ、投げ飛ばした。
ミーティアは、赤毛を遠心力に任せて、高層ビルにすっとんでいく。突っ込んだ廊下に追いついて、崩れた縁をふんずける。
けられた廊下は、高層ビルの分厚い壁に突き刺さった。
壁には四角い穴が開いて、中に通路に崩れた廊下は、ストローのように刺さることとなった。
しかし、突き刺さった廊下は本来横に割れており、後ろの部分は刺さらなかった。重力に任せて、自由落下していく。
「Xバースト」
よしきは両手から光のようなエネルギーを放出して、空中を飛行した。体を回転させて、右にターンしながら、ビルに刺さったストローに着地する。
ミーティアは、赤い髪の毛を、斜めの廊下の縁にかぶせている。滑り出しの上に待ちぼうけているようだった。
「おっす、やっぱり横だったっす」
「もったいねぇ、あの落ちてったやつで面白いことやろうと思ってたのに」
「でも、やっぱり横だったっす」
「はいはい、横ボーダーのセータ大好き」
自由落下していた、廊下の後方は、下の工場のどこかに突き刺さった。衝撃のあまり、突き刺さるのではなく、瓦礫となって崩壊する。
工場の方は、シャッターが閉まっていて、誰もいなかった。大きな瓦礫の雨に逃げど舞うものすらいなかったのだ。
工場から伸びる、地下の白い高層ビルに、縦のヒビが入った。
「縦って、どういう風に割るつもりだったんすか?」
「そりゃ、割り箸のようにピシッと」
「まあ、見ててくださいっす」
縦に入ったヒビは、瞬く間に高層ビルの頂上まで伸びていった。
よしきとミーティアが高層ビルに入ると、突き刺さっていた廊下が、ヒビに巻き込まれる。揺れながら、崩れて、大きな穴だけが残った。
それでも、ヒビはさらに上に続いていく。
ミーティアが穴から上に覗き込むと、ちょうど屋上にヒビが回り込んだのだった。
よしきは、ミーティアの横からちょこんと顔をのぞかせる。
「うん、これなら納得だな」
「ぶっ壊すことには慣れてるっすから、一番効率の良い方法知ってるっす」
「効率とか言う言葉を、赤毛族から聞くことになるとは思ってなかった」
「あ! それは偏見っすよ!! 偏見!!」
「多分、日頃の行いだろうなあ。髪の毛の手入れとかしてるか?」
「このバサバサ加減は、大正解っす。余計なお世話っすよ」
「よし、一つ頼みたいこともある。この話はここまでだ」
よしきは大きな壁の穴から、下に顔をのぞかせた。ブラックライトのような蛍光灯で、黒炭色のドーム全体が照らされる。
まだ、下の方で、工場が崩れる音がしていた。
高層ビルが、ぶぶる、と身震いした。
「さて、このビル、ぶち抜けるか?」
「了解っす!!」
ミーティアは、ビルの外に飛び出していった。
「今度こそ横っすね」
「今度こそ横だな」
ミーティアは、高層ビルに開いた四角い穴から、一気に外に飛び出した。脚力でビルを揺らして、地下ドームの壁まで飛んでいく。
黒炭のようなドームの壁まで飛び跳ねると、左の指4本を壁に突き刺して、両足で張り付いた。
赤毛が地面に向かって、滝のように垂れ下がる。
「よし。丈夫っすね」
裸足で壁を何度も蹴った。崩れる様子はない。
ミーティアはニコッと笑って、左指を壁から引き抜いた。同時に、両足でドームの壁を思いっきりける。
地響きで高層ビルは揺れた。
よしきはその揺れたビルの四角い穴から、帰ってくるミーティアを眺めている。
目の前には、歌舞伎役者のように、赤い髪の毛を振り乱しているミーティアの姿だ。赤いハリネズミのように丸まって、足を外に突き出した。
「スーパーキックっすぅうう!!」
ミーティアは、踵を突き出して、高層ビルに突き刺さる。ヒビが割れ目になった時、ビルの揺れは大きくなった。
高層ビルは横に折れた。
「おお、静観静観〜」
「着地っす」
二人の真上にあった、約30階建のビルは、ボッキリと折れて地下に転がっていった。黒炭色のドームの壁を、ビルの角っこでグリグリ削っていく。右に転がりながら、地下施設にぶつかった。
瓦礫がまた降り注ぐ。
よしきの背後から、スミレの甲高い声が聞こえた。
折れた高層ビルは、フロアの壁半分が根こそぎ折れている。中央に、小さな客室があって、灰色の絨毯の上にスミレは椅子に縛られていた。
椅子に紫の着物ごと縛り付けられて、両手を後ろに回している。足の部分ははだけて、それでも斜めにしてしおらしくしていた。
洋式のトイレや、他のオフィスのなどで、上から見ると迷路のようになっている。
「きゃあああ! あの、アホのエクレツェア!! 何やってんのよ!!」
「スミレさんっす」
「ああ、アホって言われたぞ」
「もしや、私がやらかしてもよしきさんのせいにできるんじゃないっすかね」
「やめとけやめとけ」
「早く助けてよ!!」
ミーティアは脚力を以下いて、飛びかかるようにスミレに近づいた。ビルは大きく軋み、スミレは叫びをあげる。
「きゃ!」
「大丈夫っす」
「ありがと、手首のひも解いてくれないかしら」
「おい、スミレ。お前は忍者なんだから、縄抜けくらいできるだろ?」
「はぁ、目の前で連れ去られておいて何言ってんのかしら。やれたらやってるわよ」
「あっれ〜? この日も全然解けないっすね」
「そう、ビクともしないのよ」
スミレのきめ細かい肌の手首に、細い縄が結びつけられていた。ボロボロで、引っ張ればちぎれそうではある。しかし、ミーティアでもなかなか解けないほど丈夫であった。
手元が紺色の着物に隠れて、なお手間がかかる。
ヘリコプターの音がした。
プロロロロロロロ……
『戦闘ヘリ・出陣』
『攻殻ヘリ・錬成』
『工場システム起動・対人戦ロボットを錬成します』
「よしきさん、どうするっすか?」
「俺相手に、銃でお迎えとは、なめきってるな」
「じゃあ、接客はよしきさんに任せるっす。私はスミレさんを」
「気をつけろ、誰もいなさすぎる。多分、向こうはこっちが囮だからな」
その時、よしきの耳は何かの音を捉えた。皮のジャケットとブーツが擦れるおおと。カウボーイ特有の、あの擦れる音を。
「まて、ミーティア」
「どうしたっすか?」
「スミレは俺に任せて、お前には頼みたいことがある」
ぞろぞろと、高層ビルの階段から、カウボーイが上がってきた。銃を二つ構えていて、高身長だったり、筋骨隆々だったり、ぽっちゃりだったりする。
計3人。
「何っすか?」
「手をあげろ!!」
「この基地はもう放棄されている!!」
「囮作戦ってやつだ!!」
「よしき、どうするのよ!?」
「なあ、ミーティア。この天井、ぶち抜けるか?」
「えっ? ああ、はいっす」
「じゃ、頼んだぜ」
「そうだなぁ、技名を決めよう。鉄骨ビル・一本釣り、とかどうだ?」
「左右に分かれるぞ、太一!!」
「もうやってるって!!」
ズシィイン!!
「そうだなぁ、技名は、ビル・フルスイング。なんてどうだ?」
「飛べぇ! 太一!!」
「だからもうやってるって!!」
『データ受信。震度4』
『避難レベル3。地下空洞にご注意ください』
「オメガブースト!!」
「おい、一回転するな!!」
「方翼に捕まるからだろ」
『錬成・攻殻ヘリ・巨大ロボット』
『錬成・人型ロボット』
「太一! ここは引くぞ!」
「もうやってる!!」
「にがさねぇよ〜い!! おっ? これなんかいいなぁ」
ごそごそっ。
『錬成・スナイパーライフル』
『錬成・ボンムランチャー』
「大型ロボットなのに多くから攻撃すんなよ!!」
「いっぱしの兵士ってわけか。銃龍フラタニティー!」
「攻撃してる暇ねぇぞ!!」
「低空飛行だ!」
「お〜い、俺もいるんだゼェ? 瓦礫大砲!!」
ピュん!!
ずどん、ずどん、ずどん
「おい。いま何が起こった……?」
「あいつの能力だ、ただの瓦礫で廃ビルを何棟も」
「逃げるぞ」
「わかってるって」
『発射』
『発射』
「発射あああ!!」
「太一! そっちはどうだ!?」
「逃げ道なし!! そっちは!?」
「同じく、完封だな」
『『錬成・合体ロボ』』
「そろそろだぜぇ〜。今度は、このロボットを投げるからなぁ」
「アホだろ、いい加減にしろ」
「太一、逃げ道は一つだ。聞きたいことがある」
「わかってる。ロシナンテ。一つ聞きたいことがある」
「「お前、この地面、ぶち抜けるか?」」




