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この街で何かが起こる。

***********************************


 場所戻り駅構内。車両の中にキューゴが倒れこんでからよしきが狙撃手を倒しに行って数秒もたたない瞬間だ。茶色い車内に、大きな紺色の制服がぎっしりと横たわっていた。



 ミーティアは赤毛も置いて、すぐさま駆け寄る。



「大丈夫っすか!?」



 さすっても返事がないように見える。



「大変っす! 死んじゃったんじゃないっすか!?」



 だが、太一の顔は冷静だ。おそらくは、狙撃の瞬間に起きた出来事を、見事目で捉えて見せたのだろう。やけに冷めた瞳で二人の眺めていた。



 太一は今の出来事をできるだけ頭の中で反芻しながらキューゴを蹴り起こした。



「演技がすぎますよ」

「うが! 何も蹴らなくても」

「よしきじゃないんだから、タチが悪いです」

「……なるほどな」



 太一のセリフから、キューゴはよしきの日頃からの態度が窺えて苦笑った。その笑みを浮かべたまま、車内の床から狭そうに立ち上がる。



 ミーティアが太一の肩を叩いた。



「私寝ちゃってたっす、何があったんすか?」


「俺がミーティアを抱えて列車を降りるとき、ミーティアの頭を狙撃で狙われた」


「そうだったんすか、でもキューゴさんが庇って打たれて」


「それどころか、一番最初に列車を降りたのに、いつの間にか後ろにいて、しかもライフルの弾を指でつまんでた。そんなの、見たことも聞いたこともない」



 キューゴの髭面が並の人間から超人に見えてきた。



 どこにでもいそうなおっさんが、そんな繊細なことをやってのけるとは思わない。



 それどころか太一には、よしきが月を落としてぶっ壊したとしても、その繊細さには及ばない気すらした。



「それは困るぜ、太一。お前は俺の弟子だろ?」



 よしきが太一の後ろに、パッと姿を現した。彼の長距離移動はときにタイミングがつかめない。



 ● というか、●の付いてない部分に干渉してくるのはやめなさい。

「悪かったよ」

「よしき、どこいってた」

「猟師狩りさ。近頃の暗殺者は背中をとっても激情して殺してきたりしないようだな」



 どさりと狙撃手を列車に下ろす。

 スナイパーは眠りについていた。目の半開きぐあいとよだれを垂らす姿から、深い眠りであることが窺えた。



 キューゴが立ち上がる。手にはどこもへしゃがることのないまま掴み取ったライフルの弾丸を手に弄ぶ。白い手袋の上でするすると回った。



「捕まえたのか、情報は?」

「たっぷり持ってた、今回ディオグラディティがNB結社にいることは間違いなさそうだ」

「それはわかってる、他は?」

「これは俺ちゃんだけの心の中にしまってた方が良さそうだなあ」



 よしきは車窓から少し空を眺めた。水色の空に白い雲が漂ってる。均等に散らばっているのが景色に見栄えを出している。



「キューゴ、お前は駅に残れ」

「……そうか」



 敵襲の示唆。おそらく、NB結社はこのコペッチ村の駅を攻撃するつもりらしい。



 周辺に集まってきていた野次馬にも気を使ったセリフは、絶妙に危険を伝えいていた。



 太一もこれがエクレツェアのやり方かと感心している。



 でもそのとき、ミーティアが口を滑らした。



「それって、この駅が襲われるってことっすよね?」



 列車の中でつぶやいたとはいえ、それは近くの乗客から伝って外に漏れる。



「なんだって、この駅が襲われる?」「駅が襲われるのか?」「誰が襲われるって?」「駅長が襲われる?」「なんで襲われるんだ?」「まさか、駅長ってそういう趣味が……」「そんなぁ! あの性格で攻めじゃなっくて受け!?」「襲われるってまさか!」

「駅長が不倫してる!?」

● 誘導ミサイルすぎるぞおい。



 あたりがざわつき始めた。コペッチ村に用のあった銀行員や政治家、旅行客が突然のスキャンダルに沸き立つ。



 ついでに混じっていた女性の新聞記者がよしきたちに突貫した。



「すみません! 駅長の不倫とこの射撃事件はどのような関係が!?」



 よしきは舌打ちをして太一とミーティアを外へ連れ出すと、

「おいキューゴ!」

「なんだ!?」

 よしきは親指をぐっと立てて、

「後始末頼む」

「こら、ちょっと待て!」



 あとを追うキューゴの目の前に、ピンクの髪の毛を束ねた女性リポーターの姿が突如現れる。



「駅長の不倫とは本当ですか!?」



 キューゴは新聞記者に押され始めた。メディアとは言え乗客の彼女に抵抗できない。



「ちょっと待って、事情は捜査中ですので」

「そこをなんとか!」

「そう言われましても、まずは列車お降りてください」



 ガタイの良いキューゴも乗客の混乱にはたじたじとするばかりだった。



 その頃、駅の外までよしきが太一とミーティアを連れてくる。そこは西部劇の絵が飾れているような風景に直面していた。



 露骨に大きな木の家が幾つも並んでいる。サイコロをデタラメに転がしたような配置だった。それらは一見たりとも同じものはなく、どれも扉がすぐに開きそうなことだけは同じだった。



 駅の中ではまだ喧騒が止まらない。恰幅の良い、貴族のような男性たちがそれを気にしながら外へと出てきていた。



 その周りを取り囲む、現代人のようなスーツ姿の男たち。彼らは皆銀色のトランクケースを手にしており、見た目とその力の加え方から、中身が容易に想像できた。


 彼らの後ろには、ピンクの髪の毛のキャスターと、大型カメラを担ぐカメラマン、巨大な照明を操るスタッフが二名。



 一同でキューゴと押し合いへし合いをしていた。そのキューゴはよしきの視線に気づいて、視線を使い行動を急かしていた。



 太一はよしきの黒い装飾を引っ張って、無言の合図を送る。ミーティアもおもむろに赤毛をかきあげて、西部劇の街に歩みを進めた。



 村の名をコペッチ。銃工業の栄える、カルテルの本拠地。



 太一とミーティアの臆さない態度に、よしきは思わず舞い上がった。嬉しそうに両手を広げて、二人の間で両方の方を組んだ



「いいねぇ、頼もしい」

「それほどでもないっすよ」

「いかなきゃ始まらないからな」



 太一もミーティアも少し誇らしげに歩き始めた。人っ子一人の気配も感じないコペッチ村を、三人で闊歩する。



 道の土が軽く吹き荒れた。



 よしきはそんな二人に成長の兆しを見つけた。太一とミーティアの方の間で、一つの推測を話し始めた。



「おいお前ら、なんかおかしいと思わないか」

「何がっすか?」

「何かあったか?」

「今、列車に乗ってた客のほとんどが、金融と政治と報道関係者だった。誰かがこのでの情報を世界中に拡散しようとしている。」

「なんでそんなことするっすか?」

「この村で何か事件が起きるってことだ」



 初めての西部劇が今始まる。

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