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フルエンカウント

 戦いが幕と閉じる。

 ガンマンは全てエースとよしきが捉えて、砂漠には弾丸が残るばかりだ。


 大学の生徒たちは別棟の小さなプレハブ校舎に避難していた。蛍光灯の明るいックリーム色の内装だ。


 校長は生徒たちの安全確認を終えると、専用の四角い通路を通りながら嵐の中外に出て行った。


 砂嵐が吹き始め、視界が悪くなった頃、チームエクレツェアの人間たちは襲撃されたドームの中に集まっていた。

 

 天幕に大きな穴が開いても、非常用のバリアが砂嵐から身を守ってくれている。


 部屋も電気が復旧しており、くらいドームの中がグレー色の内装なのがよく分かる。


 ドリルのようなドームの中で、被害を目の当たりにしたメンバーたちは意気消沈していた。


 ゴッサムとエースも今後の動向を知るために詠嘆のエクレツェアを訪ねてきている。


 見上げると、ドームは天井に大


 そこに校長がやってきて、ドームの中心にいた皆に駆けつける。


「今、学生の安否を確認してきました。どうやら西行減の被害で済んだようですね」


 見上げると、ドームは天井に大きな穴がバリアに覆われて放送事故の映像みたいだ。見るに堪えない姿だった。


 その時、主要人物が集まったのを確認したように、ミズノが語りかけた。


——今回の襲撃を検証しました。どうやら、宇宙空間からの隕石と、ガンマンの事前潜伏による陽動だったようです——


 ミズノが語る検証は、今回の事件が何かの目的を達成するためのブラフだったということだ。


 その場でよしきが首をかしげる。

 いるはずの彼の姿がない。


「ディオはどうした? あいつは校長を助けに行くと言って砂漠に出て行ったんだが」


 スミレやミーティアに聞いてもわからない。

 もちろん、トイレにこもっていたサカ鬼と龍矢も知らず、なぜかゴッサムとエース、校長すらも心当たりがなかった。


 校長はおとなしい声で、

「一体どういうことでしょうか?」


 太一はあっさり理解してしまう。

「もしかして、ガンマンたちの狙いはこれだったのか?」


 よしきはその推測を嬉しがって、

「あちゃ〜。ディオグラディティ連れて行かれちゃたかぁ。おそらく敵の目的はディオグラディティの誘拐、または暗殺だ」


 サカ鬼が目を見開く。そわそわしたようにドームの真ん中のスペースを歩き始めた。


「あん!? そんな馬鹿な! 一体なんの恨みが!? そもそも、ディオグラディティさんは兵器の使い手だったはずだ! たやすく負けるわけがない!」


 龍矢は自分の犯したミスを改めて悔いた。

「トイレにこもってる間にそんなことが」


 よしきは皆を斜めから俯瞰しつつ、冷静に首を振る。

「いいんだ、おそらくこれも敵の計画だからな」


 ゴッサムとエースは先ほどよしきの言った言葉の深い意味を理解していた。


 彼らには、なぜディオグラディティがいない現状で、誘拐はともかく、暗殺という目的が出てくるのか、わからなかったのだ。

 元を探って考えると、この計画によしき自身が一枚噛んでいる可能性すらあったのだ。


 そのことに気がついたのは粉の二人だけだが、先ほどエースが感じた通り、状況次第では簡単に敵になる人間だということだ。


 ゴッサムはできるだけ視線に殺気を混ぜないよう心がけた。


 だが、エースは違う。


「詠嘆のエクレツェアだったか?」

「おお、どうしたんだ? サーバントさんよ」

「やはり、私がサーバントだと見抜けるわけだね、詠嘆のエクレツェア」


 エースは彼への敵意を隠すつもりは全くない。それどころか過去に敵対していたかのような顔つきだ。


「貴様が、あの詠嘆のエクレツェアか。あえて光栄だよ」

「たいそう光栄なことだろうな、いつかどこかであった気がするが。すまん、ヒントをくれ」

「クイズはいい、それはまた今度の機会だ。今はディオグラディティのことを先決に考えよう」


 すると、エースは手を出した。体格のよい彼がタンクトップを着ている姿は少し滑稽だったが、それを消し去るほど真剣なまなざしだ。


「初めまして、エース・タンクトップだ」

「ああ、初めまして。私が詠嘆のえ、グヌゥウ!」


 よしきが手を握ると、エースがその手に力を込めた。話さぬつもりで握りつぶすつもりでいた。


「こりゃすんごい握力だ。さすが、スーパーな男」

「笑い事ではない、少しひねればお魚さんウインナーより簡単にちぎれるぞ」

「なぜお魚さんウインナー名に例えたんだ」

●大好きなのかな?


 いかんいかん、そんなツッコミしてる場合ではない。


 俺とよしきに比べてその場は凍りついていた。急に、大学で最強のサーバントがエクレツェアで最強の男に喧嘩を売ったのだ。


 校長は冷や汗が止まらない。だが、エースのことはよく知らないため、口出しをためらった。


 なにより、詠嘆のエクレツェアが簡単にねじり切られることなどありはしない。そこからの反撃に冷や汗をかいていたのだ。


 もし、詠嘆のエクレツェアを本気で怒らせればタダでは済まないことを知っていたのだ。


 よしきがふざけたように話し始める。


「お前は、サーバントで最も強いと言われているわけだ。それはよっぽどの栄誉なんだろうな」

「何を言う、100年前、お前が起こした戦争のせいで、その栄誉すらはかなく散ったというのにもかかわらず」


 その場のエクレツェアメンバーは首をかしげた。


 100年前によしきが生きていた、という事実はこの世界に来てからのありえないランキングの中で一二を争うものだったからだ。


 年齢を見てもあり得ないが、喋り方、仕草、それはよしきの見た目に相当しているように思える。


 そして、それはエースも同じだ。


 そもそも、和帝の国ではかなりおとなしかったよしきが、100年前は戦争などと、そのようなことをするとは考えられなかった。


 よしきは少しだけ呼吸を整える。


 押さえつけられた右手が赤く染まり始めた。


 ミーティアは固唾をのんで見守っているが、スミレは今にも声をあげて止めそうだ。だが、なぜか校長が彼女を視線で制していた。


 校長は何かを知った風に、少しだけ冷めた視線を送る。目に宿る穏やかさは歴戦の王者にも見えた。冷や汗はかいままだが。


 よしきは鼻で笑う。


「ふふ、なるほど、100年前、そうきたか。通りで人間がサーバントになっていると思った。サーバントは天界の生物しかなることができないからな。天界人ならその範疇だ」


 それはすなわち、100年前に起こした戦争は天界人が絡んでいたということだ。同時に、詠嘆のエクレツェアが戦争を起こしたことが仄めかされてしまった。


 あくまで仄めかされたのだ。これ以上は言うまい。


 ゴッサムがエースの肩を引く。


「それくらいにしておけ」

「ゴッサム、昔話した通りだ。こいつは俺と因縁がある」

「お前と詠嘆のエクレツェアじゃ勝負がつかない」


 それがわかるなら、おそらく君は強くなるね。

 ゴッサムに、よしきは詠嘆した。


「ああ、さすがだ。この世界では相手の実力を見抜く能力は必須。その意味がわかるかな? エース・クリンプトよ」

「……確かにそうだ、彼は強い。だが、ゴッサムはお前のようにはならない。人は、そう簡単に人を殺したりはしないんだよ」

「人は殺してないんだけどねぇ」

「ゴッサムはお前にならない」

「『ならない』、じゃなくて、『なれない』、だろ?」


●悪役みたいなことを言うな、エクレツェアの主人公よ。


 おっと、口が滑った。太一がよしきのことをびっくりして眺めている。飛んだネタバレになってしまったね。


「よし、そこまで言うなら一つだけ本気を見せてやろう、エースとやら」


 よしきがそう呟くと、彼の表情は穏やかになった。

「僕の全力衝突人生フルエンカウント


 パチィ


 静電気が弾けたような音がする。


 しかし、それ以外、まだ何も起きていない。


 サカ鬼も龍矢も視線をキョロキョロ動かしたが、これといった変化はない。


 太一がスミレを見ると、彼女も何かが起こると見守っていた。ミーティアもまるで無防備にその何かを待つ。だが、それが太一には信じられないのだ。


 もう、すでに変化は起きているというのに。


 一見、何の変化も起きていない。だが、それは見た目だけの話。少し離れている太一には確実に伝わっていた。明らかにその場の重力が増している。


 かすかな変化だ。1グラムが1・01グラムになるくらいの変化。たったそれだけの変化に太一は気がついた。


 逆に言えば太一以外誰も気がついていなかった。それが弱いあまりになのか、それとも別か、分かり得ない。


 動揺してキョロキョロしていると、校長だけが歴戦の眼差しで太一を諭していた。


(案ずることはない)と。だが冷や汗はかいていた。


 エースも変化に気がつかない。それどころか彼の平然な顔つきが気に入らず、彼の手の色が青紫のようになるまで力を込めた。


 その時、詠嘆のエクレツェアの拳に気がつく。先ほどまで強く握られていた拳がまるで逆に握っているように見える。


(あり得ない! この私が握り返されているだと!?)


 だが、真実を受け入れる前に、よしきが突きつけた。


「ほい」

「うごぉ!」


 よしきが親指をエースの手に押し当てた。たったそれだけだ。たったそれだけが凄まじかった。


 エースはいきなり崩れ落ちる。先ほど太一が感じた重力が10倍になったかのようだ。


 1秒、2秒、3秒、と経過するたび、エースは地べたに押し付けられる。

 サカ鬼が何かに気がついた。


「まさかこれは、合気道か?」


 合気道、それは相手の体を利用した武術と言われている。敵が殴ればそれを利用して、蹴ればそれも利用して、立っていればそれだけで利用する。


 太一は極東の国でグレンシアと戦っていた時に心得ていたし、スミレも忍者としてのスキルに合気道を習得していたため、その基礎は心得ていたが。手をつかんだだけで相手をねじ伏せる人間は初めてだった。


「大丈夫か!?」


 ゴッサムがエースの手をよしきから振り払った。


「おぉ、やるねぇ。手を振り払うだけでも達人の技が必要だ」

「エース、大丈夫か?」

「大丈夫だ。それより、こいつの考えがいくらかわかったよ」


 よしきは不意のことに眉をしかめる。

 エースは立ち上がって、


「どうやら、ガンマンの襲撃を詠嘆のエクレツェアは知っていたようだな。どうなんだ、よしき」

「名前教えてないんだけどなぁ」

「心を読むことができる。名付けて。タンクトップ・マインドスキャン」

「名づけるのかぁ」

 だせぇよぉ。


 とぼけるよしきにスミレが迫る。


「いい加減にしなさい、それでもリーダー?」

「わかったよ、言うよ言うよ。だから着物の下からクナイで狙うのはやめてくれ」

「ごめんなさい、つい癖で」


 スミレは思わず右手を隠す。どうやら、イラついた相手にはすぐに攻撃できるよう、着物の下から狙う癖があるようだ。


●てか、突っ込みどころが多すぎるわ。


 よしきは皆に語り始めた。

「実はな、今回の任務。ディオグラディティの護衛じゃないんだわ」


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