無理やりな結婚の意図
しばらくして目を覚ます。
「な、どこだ……ここ……?」
自分の周りをオレンジの『障壁』が囲っているのがわかった。
キシヨのいるのは寺の本堂。目の前には大きな祭壇があり、何かが祀られていた。この風景は何か神聖な儀式をする時の風景なのだと、どこかで見た事がある。
自分の姿を見てみると真っ黒な着物に白い足袋。
「これはまさか……」
すると、隣の白い着物が動く。
「妾はいったい……」
隣には女性。角隠しからこぼれるのは朱色の髪の毛。見覚えがあった。
ミズノの声がした。
——キシヨさん。結婚おめでとうございます——。
「「ファアアアアアア!?」」
二人は破れ鐘のような大声をあげるのだった。
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それをカメラからノートパソコンで状況の確認している鏡の姿。
こちらはキシヨたちがいる隣。寝殿造りの和室で、畳のいい香りが漂っている。壁は真っ白で少しモダンだが、崩れやすい砂壁より丈夫そうだ。
「どうしたミーティアちゃん? 休んでもいいんだぜ?」
鏡が彼女のそわそわした態度に疑問を覚える。
「いえ、和室が初めてなもので、ついっす。裸足なもので触り心地がいいっす。さっきの部屋見たもので、こんな部屋があるとはおもわなかったっすよ」
「赤毛族が裸足なのは知っているが、足の裏感覚フェチだとは知らなかったぜ?」
「フェチじゃないっすよ!」
ミーティアは少し顔を赤くした。
少し雰囲気が和んだところで、鏡は部屋の隅でたたずむ少女に声をかける。
「おい、スミレとやら。準備しろ。ここからが本番だぜ?」
「一体何の用なのよ……」
振り返った彼女は寂しそうな顔をしていた。どうやら、アカリが結婚することにかなりの喪失感を感じているようだ。鏡はそんな様子を見かねて、
「おいおい、そんな顔してる場合か? 早く別の方法を考えないと本当に結婚しちまうぜ?」
「……それはどういう意味?」
彼は鼻から、仕方ないな、と漏らすと歩き出すと、
「分からず屋だなぁ。結婚したくないやつを無理やりさせるわけないだろ。あれは囮だ。お鷹の胸が結婚準備をしている間に、もう一つの継承方法を検討するぜ?」
彼は和室を出てこれまた和風の廊下を進むので、ミーティアもあとを追う。
「いったいどうやって?」スミレが横に並んで歩いた。
鏡は巻物を手に取り、
「この巻物に書かれている憲法によると、皇帝の継承は法律に則ったものというよりはどちらかというと呪いに近いようだな。キスが継承の方法に上がっているのもそのせいだ。普通そんなまどろっこしい方法は取らないぜ?」
スミレは右手で彼の話を少しだけ制すると、
「確かに、皇帝の座は呪いみたいなものだと聞いたことがあるけど。だからってなに?」
「いいか? だからお前はそのために皇族の家系図がある場所を教えろ。憲法によると皇位を継承するもう一つの方法はその家系図に新しく名前を書くことだ。おそらく、皇位継承の呪いの媒体にでもなっているんだろう。緊急措置のようだが、それができればわざわざ接吻も結婚も必要ないってわけだぜ?」
スミレは首を振って立ち止まる。
「そんなの、無理に決まってるわ」
「またそれか、頑固だぜ? お前」鏡も立ち止まった。
スミレはできるだけ平静を保ちながら、
「だって、皇族の家系図は封印されているのよ? それははるか昔から。誰も触れられたものはいないわ。それこそ、忍び頭の『ハルト』と『クロカズ』も指一本触れられなかった。お鷹の胸様も無理だったそうよ。そんなのにどうやって名前を書くの?」
鏡は口を閉じて考えると、
「うーん、まあ触れなくてもいいんだぜ? 一回見せてくれ。さっきの黒い場所の奥なんだろ?」
「……わかったわ。こっちよ」
スミレの案内に二人は続く。
道中、鏡が人差し指を立てたかと思うと、
「ミズキ。この城のスキャンを頼むぜ? マリの位置を調べてくれ」
——はいよ、了解ですぅ〜——
その場の皆の鼓膜を陽気な声が揺らした。
スミレが動揺する。
「一体、何?」
鏡は笑って先に進んだ。
「作戦開始の合図だぜ?」