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帝の間




 キシヨはコーデルに渡されたスーツケースの中から服を取り出し、身を包んでいた。



 彼の姿はよしきと似て黒が基調のとてもタイトな戦闘服。無駄な装飾がないのがよしきとの違いだ。



 また、銃の色に合わせたように青が散りばめられ、繊細にディテールまでこだわってデザインが彫られた間違いなく高価な一品なのがわかった。



 今、彼は真っ白な内装の廊下を歩いてはいる。一直線に続いていて途方もなく感じる大きな廊下だ。横5メートル、縦7メートルは有るだろう。小さな契約オフィスビルならば、二棟が並んで入るかもしれない。



 だが、歩いてみるとそれは白の構造による錯覚であり、本来はそこまでの大きさがないこともわかった。敵の目を欺くためだと知る。



 だが、それよりもキシヨの目を引くものがあった。



 今、廊下を歩いている一行は、キシヨ、ミーティア、鏡、サカ鬼、龍矢、ミズノ、お鷹の胸。



 彼らはまるでボーリングのピンのように鏡を中心にピラミッド状で廊下を進んでいた。

 


 鏡の後ろにスミレとお鷹の胸が並び、その後ろに他の四人が並んで歩いている。



 キシヨの右隣で、サカ鬼と龍矢が盛大な喧嘩をしている。サカ鬼は龍矢の紳士服を、龍矢はサカ鬼のはだけた水色の着物を、両者握りしめていがみ合っていた。



 だが、目につくのはそこではない。スミレとお鷹の胸が来ている花柄の着物の向こうに見える、鏡の姿だった。



 鏡は、会議室で見たとき、普通のリクルートスーツを着ていたはずだ。



 しかし、よしきがどこかへ行ってしまったあと、再びよしきが黒い装飾の姿で現れたとき、そのよしきは自らを鏡と名乗っていたのだ。



 詳しく聞くにつれて、事情が少しわかった。よしきが野暮用でダブルブッキングしたときには、鏡がよしきの姿に成り代わって仕事をこなすらしい。



 黒い装飾は細部まで再現されている。しかも、その再現を少しだけ違わせることで、仲間から見ると誰が誰のなのか一目瞭然ということだった。



 キシヨがグレンシアと戦っていたときも、変そうという技術はあった。しかし、ここまで完全変態しているのを見たことはなかった。



 一行が巨大な白と朱色の門の前にたどり着くと、それはゆっくりと摩擦を起こしながら開いていく。



 ここがどうやら帝の間らしい。



 門の先は相変わらず明るい内装だが、天井がこれでもかと高く、白色というよりかは眩しい色をして、朱色との交わりが神社の境内のようだった。床は白い材質で光沢を持っている。


 天井や壁に折り目がついており、それはまるで折り紙の内側のようだ。



 奥には四角いテントのような物が一つ。布が透けて人が座っているのが影で見える。



 そのテントの前まで来ると、スミレとお鷹の胸はその両脇に跪く。



 よしきがその真ん前であぐらをかいたのを見てキシヨ、ミーティア、サカ鬼、龍矢の一行はその場に座った。



 ちなみに、コーデルがいないのはこんな訳がある。



『なんだって!? 僕はこの部屋から出ないよ絶対に! 電波の届かないところでは生きていけないんだよ! せっかくここも改築したのに!』



 すんな。



 一方、ミーティアがなぜこの動向に参加しているのかというとこういう訳だ。



***************************************



 先ほどの会議室から隣の木のドアを進むと、そこにはまるで電車の車両間のような小さな木の部屋があった。



 右も左も、壁にはたくさんの棚が備えられている。ミーティアの知る限りでは、すべてジークの武器屋にあった武器カタログに載っていたはずだった。



 そんな武器だらけで、少し後汚い部屋の中央。椅子が一対、ボロい木のテーブルが一つあった。



 部屋の向こう側には扉が続いている。だが、その扉は、こちら側に向かって椅子に座る女性の姿で隠されていた。



「へー、ミーティア・エクスション。いい名前ね。髪の毛が綺麗な赤色だから、赤毛族かしら」



 ほんの数分前、この女性がミーティアに書かせた資料を、眺めてそういった。


 要望書を眺めて座っているのは妖艶な美女。胸を大きくはだけた黄色とオレンジのグラデーションが鮮やかなドレスの下からサラシを露わにし、エロでは無く驚異の美学を誇示している。彼女が7人目。



 遊郭を連想するほど妖艶な彼女は声までもが妖艶だ。ミーティアが頷くと目の前の女性はにっこり笑って、



「私はユー・ユーと申します。よろしくね」


「はい……」



 たわいもない会話の後、要望書を眺めているととあるところに目が止まる。



「ターニャ・パルルリッタ」うんと頷くと「もう一つの名前ね」



 正面で神妙に座るミーティアは頷くばかりだ。赤毛も少しばかりなりを潜めていた。



 すると、妖艶な女は明るく感激する。



「偉い! 本当に偉いわ! あなたがお姉ちゃんと生き別れた原因の名前をきちんと書いて提出するなんて! 涙がこぼれちゃう!」



 ミーティアはぎょっとして見つめる。



「なんでそんな事知ってるんすか! そこまで書いてないっすよ!」


「私はね、なんでもわかっちゃうのよ? そんな事より、この『お姉ちゃんを探す』依頼は50エア貰うわよ? いいわよね?」


「それもまだ言ってないっす……え? そんなに高いんすか? 確か、10エアで依頼ができるはずっすよ?」


「それは依頼だけならよ……? その椅子に座るだけで40エアかかるもの」



 ミーティアはゾッとした。金銭の支払いとはこんなにも簡単に発生してしまうのかと、社会のこわっさに血の気が引いた。



「えっ……? じゃあ、もう支払い決定っすか?」


「領収書」



 と妖艶な女性はニッコリとして領収書を手渡す。ミーティアは戸惑ったが、渡された紙切れを受け取った。



 そのとき、ユー・ユーの手が異常に冷たく。れ伊藤品を触っているような感覚がした。その違和感に、ミーティアの心は簡単に動揺した。



 ミーティアはすかさず土下座をして許しを乞う。



「無理っす! 絶対に払えませんっす!」



 無我無調腕頭を下げる。支払いをできなければどうなるのかも、彼女には全くわからない。



 しかも、彼女は先日エクレツェアで所持金をぼったくられたところであった。悪徳なのを覚悟するべきだったと、心の底から反省していた。



 しかし、妖艶な女性はいたって妖艶で、優しかった。まだ経験の浅い彼女を微笑ましくみやると、かさず土下座する彼女の肩に手を置く。



 すると、ニヤリとしてこう告げた。



「いいお仕事があるの、それをやってくれたらチャラにしてあげてもいいわ」



******************************************



 そして、ミーティアもマリ救出に参加する事になった。なんか怖い。



 テントの横に鎮座したお鷹の胸は、正座姿で身だしなみを整える。スミレをちらりと見て、彼女のスミレ柄の着物を見定める。特に変哲もないのを確認した。


 お鷹の胸はテントの中に声をかける。



「アカリ様。チームエクレツェアの方が到着いたしました。挨拶のほどをお願いいたします」



「わかりました」



 若い女の子の声が聞こえてくる。キシヨの感覚で言うならば女子高生くらいの年に思えた。



 そのうちテントの中で火が灯る。すると、中が暖かく光って、朱色の淵までくっきり届いた。ついでに、甘い香りが漂ってくる。



「皆様初めまして、わたくしが次期皇帝正当継承者、アカリです」



 皆一同で頭を下げる。



 先ほどまで喧嘩をしていたサカ鬼と龍矢も、意外なほど素直に頭を下げていた。



 ミーティアは何が何だかわからず、野蛮に拳で床に手をつく。見よう見まねで頭を下げた。



 キシヨも礼儀に習って頭を下げる。極東の国は仏教が浸透していたため、仏殿の前で頭を下げるようなものだった。



 だが、よしきは一人頭を下げずに話を続ける。その姿をスミレは軽く睨みつけたが、お鷹の胸は平然としてそれを許す。



「アカリ様、初めまして。チームエクレツェアのよしきと申します。早速ですが一つお聞きしても良いでしょうかだぜ?」



 奇妙な語尾に明かりは少し戸惑った。帝ともなればよしきが異世界最強であることくらいは、事前に知っていただろう。しかし、最強ならばもう少し凛々しくあるものだと思っていたようだ。



 それでも、テントの中から一拍の間をおいて返事が返ってくる。



「構いません」


「お尋ねします。この継承問題、何にも問題がないように思えるんですが、違いますかだぜ?」



 唐突な質問にその場が静まり返る。



 キシヨは訳がわからなかった。先ほど聞いた話によれば、和帝の継承の間軍事力が使えない。しかも、その軍事力すら反乱軍と手を組んだとなれば、何が問題ないのかわからない。



 しかし、のそ疑問を投げかけるほどの余裕がその空間になかった。



 キシヨが側を見ると、ミーティアは難しい話に首をかしげいている。



 反対側を見ると、サカ鬼と龍矢は何やら鏡の様子をうかがっていた。キシヨが彼らに少しアイコンタクトをすると、龍矢が人差し指を口の前に持っていく。



 それは静かにしろという合図だった。



 テントの左隣を見ると、スミレがふてくされたように鏡を睨んでいた。だが、反対側で鎮座するお鷹の胸はその通りだと頷いている。



 意見が二つに分かれているようだったので、余計に混乱していた。



 一方、テントの中のアカリも事態に困っていた。



 するとその時、ミーティアが手をついて前のめりについて鏡に尋ねる。



「今まで味方だった人が敵になっちゃったんすよ? 問題あるに決まってんじゃないっすか」



 龍矢は慌ててミーティアに這い寄って止めにはいった。ミーティアは思わず警戒して尻餅をつく。空気を読まない彼らの姿にスミレは苛立っていた。



 だが、よしきは躊躇することなく、首を横に振った。、



「いや、だが戦争にはならない。あなたが正当な継承者であるならば、命を取られる前に継承してしまえば問題ないのです。そうすればあなたが女皇帝となり、軍の統率も再び取れます。リスグランツは統率をとった軍で潰せますし。では、一体ないが問題なのでしょうかだぜ?」



 お鷹の胸は俯いている。何か思い当たる節でもあるようだ。



 よしきが懐から緑の巻物を取り出し、床に開いた。



「これはこの世界の歴史について調べた時に発見したこの国に古から伝わる憲法ですが……」



 すると、巻物を指でなぞりながら、



「これによると、皇帝の継承をするならば、その血筋のものが結婚の契りのための接吻をかわせば簡単にできるはず。なぜあなたはそれをしないのですかだぜ?」



 鏡の話の進め方はどこかで見たことがあった。キシヨは頭の中でその似ている何かを探す。すると、一つだけ思いついた。



 営業。これだ。鏡の話し方、資料の出し方、その紹介の仕方。何から何まで訪問販売の営業に似ていた。



 キシヨが極東の国にいた時、事務作業ん効率化を図るための技術をセールスしにくる営業員がいた。その営業は巧みで、瞬く間にシステムが改心されたのだったが、鏡のいますの型はそれに似てる。



 侮れない。キシヨは鏡を心のどこかで警戒していた。



 鏡の話の流れば明確で、きちんと目的まで会話の結論を届ける。スムーズで清らかな川のようなテンポ。



 アカリの声が流されるように、テントの奥からゆっくりと声が聞こえてきた。



「それは、できません」



 否定的な答えだ。予算から少し外れた商品を断る時に似ている。

 だが、鏡の会話はより的確に迫った。



「どうして? 女皇帝の血筋であるあなただったはずですだぜ? それくらいの覚悟はあったはずでしょう? だぜ?」



 だがアカリは突っぱねた。



「絶対にいやです」


「大丈夫だぜですよ。結婚は我々が全てサポートいたすますだぜ。披露宴からハネムーンまで、全て担うのぜ。エクレツェアではたくさんのかんんこうスポットがあって」


「お断りです!!」



 キシヨの予想と少し違った。途中から鏡の会話がセールスから要求に変わっていたようにも思える。たしか、極東で営業を見た時はもっと丁寧だった時臆している。



 アカリが起こるのも無理はなかった。結婚したくないものを、サポートするからしろというのは少し横暴だ。



 だが、それが鏡の狙いであることに気づくこととなる。



 鏡はため息をつくと、顎を指で撫でた。



「うーん、なるほど。これは頑固だ。手がかかるぜ」



 お鷹の胸がことの顛末を説明する。



「我々があなたがたに頼るほかないのはアカリ様が婚姻を拒否し、この中に閉じこもってしまっていることにございます。あなたがたなら、我が軍を越え得る程の実力をお持ちだとお見受けしてのことでした」



 よしきが頷いて、

「なるほど、戦争して欲しいというわけか。高くつくぜ?」



 キシヨはこの時ようやく気がついた。鏡は結婚させるために会話していたのではないと。鏡は結婚の意思があるかどうかを確かめていたのだ。



 だれでも、結婚したければ金と時間とサポートが入るだろう。そうでなくとも、何かしらの条件が伴ってくる。



 もしそれらの条件をクリアできれば結婚するだろう。これはよしきが極東で行ったことと似ていた。



 もし、今何も障害がなくて、自由ならば何がしたいか? もし、全てのことができるのであれば、どうするのか?



 アカリに提示された条件は結婚を全て滞りなくサポートするというものだ。話が長引けば、言わずともそういう流れになっていたに違いない。



 だが、アカリは突っぱねた。それは、国がどのような事態に陥っても結婚したくないという意思の表れだったのだ。



 それを知ることで、アカリを無理やり結婚させるのか、別の方法をとるのか。この二つが上がってくるわけだ。



 キシヨは鏡に一目置いた。



 その頃、鏡は手を振って、

「だがな、俺たちの本来の目的はこの世界とエクレツェアを接続することだ。戦争しに来たんじゃない。それはわかっていたはずだぜ?」



 ということはアカリを無理やり結婚させるというとだろう、キシヨはそう思った。するとどうなるか、考えただけでも面倒だ。キシヨはマリと仲が良かったので王族の結婚となれば普通よりも別格に面倒臭いことを知っている。



 まず、有名になっても心の屈しない殿方が必要だろう。しかも、国民に認められるような殿方である。その場合、経歴も考えて親族まで調査せねばならない。



 そうやって選んだ殿方がアカリの好みに合わなければならない。そこで破綻しようものなら今回の二の舞になってしまう。



 さらにさらに、その夫が社交場で恥ずかしくないような人間である必要がある。それは将来も含めて王室に悪い印象を与えないかどうか、そこを見極めなければならない。



 少し考えてもこのくらいはある。それはキシヨにとってあまりにも長い道のりだった。マリを救うには時間がかかりすぎる。



 キシヨがしびれを切らしてつい、



「そんなことより、マリ様を助けることが先決だろ。だいたい、ここから引きずり出せばいいんだろうが!」



 キシヨは苛立って、アカリの寝床に入ろうとした。ずかずかと進んでテントの前までやってくる。



 スミレはキシヨを止めるべく立ち上がったが、お鷹の胸の視線に諭され思いとどまった。彼女は今、テントの恐るべき機能を思い出していたのだ。



 キシヨがテントの幕に手をかける。



 すると、ギャシャン、ギャシャン、と機械的な音がした。寝床がせり上がって機械の足が現れる。背後からは機械のアームが斧を持ち出して、キシヨに切りかかった。



「死ぬわぁあ!」



 キシヨは叫ぶと、吹っ飛ぶように転んで避けた。コメディーのような光景を見て、後ろのサカ鬼と龍矢は笑いが噴き出た。



 寝床が元に戻ったのを見計らうと、お鷹の胸が冷静に告げる。



「寝床は安全のため完全防衛です」


「初めっから言っとけぇ! 俺はそんなことしてる場合じゃないんだよ!」



 思わずキシヨは自分らしくもない悪態をついて見せた。



 鏡が仕方なさそうに、キシヨとお鷹の胸の間に入ってくる。



「まあまあ、それはわかってるぜ?」



 すると、鏡は懐に手を入れて、黒い装飾の仲に手を突っ込んだ。



「ところでアカリ様。本日はてお土産を持ってまいりました。懐に収めますかだぜ?」


 ドスン……


「なぬぅ……」



 アカリは思わず唸り声を上げた。

 鏡が懐から出したのは10冊以上ある大量の漫画だ。



「イケメン男子メイドシリーズ全巻、イケメン男子学園シリーズ全巻、イケメン男子源平合戦シリーズ全巻。全部で56巻のBL漫画です。お納めくださいますかだぜ?」



 ミーティアが目をむいて、



「どこにしまいこんでいたんっすか! って、なんのためにぃ?」



 テントが大きく揺れた。中から興奮した女子の声に熱がこもって聞こえる。



「なぬぬぅ……! よかろう、中へ持ってきても良いぞ?」

 しかし、誰も動かない。

「何をしておる? 早くせんか」

 しかし、誰も動かない。



 鏡がにやけた声で、



「いやはや、アカリ様。これは自分の手でお確かめくださいませ。ここに置いてありますので、ぜひ出てきてください。いい思い出になりますだぜ?」


「なにぉ! そうか、そういう作戦か! 私にその趣向があると知っての狼藉だなぁ! だがそんな手には乗らんぞ! 私はそんなものにつられるほど愚かではないわい!」


● なんだかコメディーのような展開になってきた。しかし。それが鏡の交渉術だ。何かを企んでいるときに限って、彼はこういう突拍子もないギャグを入れてくる。

● 何か作戦があるのだろう。



 すると、よしきに変装した鏡は漫画を手にとって、



「ではこれはなかったことに」


「ちょっと待ってぇ!」



 漫画を撤収しようとしたよしきを止めようと、テントが大きく動いた。

 瞬間、テントの中にうっすら灯っていた光が落下する。



「あ、アロマが!」

 そして瞬く間に炎上。

「あっつぅう!」

 と、アカリがテントから飛び出してきた。



 彼女は色とりどりな着物をこれでもかと気重ねている。よくこの姿で今の身動きが取れたものだ。朱色の長髪がしっとりとしていて、汗をかいていることがわかった。



 キシヨがそんな関心をしていると。



「ルーク、ビショップ。だぜ?」



 鏡の声とともに床から黒いお帯が現れ、それは生き物のように動き、アカリを一瞬で拘束してしまう。



「な、なにをする!」



 彼は立ち上がって、



「おい、お鷹の胸。このまま縛って婚姻を進めろ。流れで継承させるんだぜ?」


 ちなみに、鏡はよしきとして化けている間は決して性格の荒っぽさを見せない。しかし、彼の仕事っぷりは見事にその冷酷さを反映しているとも言える。


「なるほど、そうきますか……わかりました」



 お鷹の胸は縛られたアカリを軽々と持ち上げた。



「どこに行く気じゃ! 腐女子に結婚ができるわけないじゃろ! 私は男全てを1秒でカップリングする女じゃぞお! 離せぇ!」



 しかし、お鷹の胸は無視をしてアカリをどこかへ連れて行く。

 その様子を見てスミレは何か不服そうだった。


**************************************


 広い帝の間を出て行こうとしたスミレを、鏡は呼び止める。



「おい、お前は残った方がいいぜ?」



 振り返った彼女は寂しそうな顔をしていた。すると、立ち止まる。



「無理よ。絶対に」



 キシヨは立ち上がった。白い帝のまで、光沢のある床に自分が少し映る。



「いったいなにが無理だってんだよ」



 スミレは思いつめたように俯いていたが、ふと顔を上げ、



「結婚よ、絶対に成り立たないわ。アカリが結婚したとしても、続かないのは目に見えてる。継承者と結婚した相手は死ぬって知ってるでしょ!」



 その言葉にキシヨは呆然と「おい、それってどういうことだよ」



 鏡は平然としながら、

「この国には代々女皇帝しかいない。それは、男の継承者は死んでしまうからだそうだ」



 スミレは涙を浮かべて必死に、

「アカリはそれを目の当たりにしなくちならないのよ! それならいっそ、私が敵を全部ぶっ倒してやろうと思っていたのに……お鷹の胸様に逆らってでも戦うべきだったわ。あなたたちなら反乱する人間を全て倒せると思ってたのに」



 鏡は以外と真面目に、

「意味がわからないんだがな。お前のできないことにこだわらなくてもいいんだぜ?」



 地団駄を踏んだ彼女は、

「それだけじゃない! アカリ様の結婚相手だってどこにもいないわよ。この城の皇族居住区にいるのは護衛十三集の私たち二人とアカリ様だけで、男なんてどこにもいないし。アカリ様のお眼鏡に叶う男を連れてくるにも、この居住区から出ることはできないわ」



 キシヨが理解できずに

「どうしてだ? 反乱軍は城の周辺を取り囲ん出るだけ、城の中に男の一人くらいいるだろう」



 スミレは少し呆れ、ため息をついて、

「意外と理解力がないのね。『ハルト』と『クロカズ』はこの城の中にいるのよ。提携を結んだ『リスグランツ』もいるわ。でも、お鷹の胸様が城の居住区から締め出したの。だから、ここ以外は全て敵陣地よ」



 鏡は柳眉を寄せて困り顔になる。スミレに尋ねた。



「ちょっとも男はいないのか? それはきついぜ?」

「ええ」

「少しも? マジなのかだぜ?」

「ええ」

「ちっとも? ぜ?」

● 『ぜ』を無理に入れるな。

「ええ?」

「わかった、じゃあこうしよう。いいこと思いついたぜ?」



 それだけ言うと鏡はキシヨの背後に静かに回った。



「え?」キシヨが振り返ろうとすると鏡はその前に彼の首に手刀を叩き込んだ。



 キシヨの意識が途絶える。

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