無力と孤独
お祭り疲れました、でも今年も最高の夏祭りでした!
「ネネ!ナツ!急ごう!!」
その煙を見た直後、
リオンさんは顔に焦燥感を漂わせながら
メッキール王国に向かって全力で駆けはじめた。
ネネさんと自分は顔を見合わせアイコンタクトを取ると
リオンさんの後を追った。
ネネさんがかけてくれた、移動速度上昇の風魔法のおかげで、なんとか遅れをとりながらリオンさんやネネさんの後についていけた。
前に立ちふさがった2体のゴブリンが攻撃を仕掛けて来た。
しかしそれを先頭にいるリオンさんが
ほとんど減速することもなく瞬殺する。
少し前の位置にいるゴブリンの横薙ぎを
空中での横回転で回避し、ゴブリンの頭を掴み着地と同時に首の骨を折る、流れるような動作で後方に控えていたゴブリンの攻撃を回避し後頭部への蹴りで、一撃で仕留める。
「こんなことをしてたらラチがあかない!
無視して突っ切るぞ!!」
「はぁ、はぁ………はい、了解です!!」
ネネさんは頷いて答え、自分も追いかけるだけで精一杯の中、返事をしリオンさんの後ろに必死でついて行く。
全力で走りはじめてから15分もかからないうちに
メッキール王国の門の前に着いた。
しかし、その門は見るも無残に破壊されており
もはや、門としての役割を果たしていなかった。
その奥に見えるレンガ造りの街並みも
瓦礫の山と化していた。
「俺は妻のフローネが心配だ!!悪いが先に行かせてもらう!」
それだけ言い残し、リオンさんは街の中へと
駆け抜けて行った。
「ネネさん!どうしますか!?リオンさんの後を追いますか!?」
「私はとりあえずこの街の冒険者ギルドに行ってみることにする!何が起きてるのか把握しなければいけない、それからリオンさんを探して手助けすることにしよう。リオンさんなら大丈夫だ、私より確実に強い!」
そう言ってリオンさんはギルドのあるであろう方向に向かって走りはじめた。
確かにリオンさんの奥さんの事も心配だが、
今の自分がリオンさんに着いて行っても
足手まといになるだけだろう、
この3日間でリオンさんとの実力の違いを
ヒシヒシと感じていた。
今はネネさんの言う通り、この国で起こっている事、
状況を把握することを優先しよう。
街の中を少し走っていると、鎧を着た騎士が剣を目の前で構えているシンボルが描かれた看板が見えてきた。
「あそこが冒険者ギルドだ!ここなら何が起こっているのか聞けるだろう。他の冒険者たちも集まって情報を交換しているはずだ!」
そう言って、冒険者ギルドの扉を勢いよく開けた。
ギルドの中は消毒液と血の匂いが充満し、
怒号や叫び声、子供の泣き声などで、
混乱に陥っていた、
「なんなんだよ!あれは!?あんなのに勝てるわけねえだろ」
「ううっ……、いてぇ、いてぇよお……」
「おかあさん、どこいっだのー??わぁぁぁぁ」
「なんだよ…これ……うっ」
予想以上に悪い状況に自分は知らないうちに呟いていた。
ギルドの中にいた人々は皆虚ろな目をして、
身体中に痛々しい怪我が見て取れた。
子供達は付き添う大人もいなく、ただその場で泣き叫んでいた。
今までの元の世界でこんな現場には居合わせた事がない、生々しい怪我を直接見た事がなかったからか
吐きそうになってしまい、胃から込み上げてくるものを抑えつつ、なんとかカウンターでギルドの職員と話をしているネネさんの元へ向かった。
「先ほど、ここにきたばかりの冒険者です!何があったのだろうか?、何か私に出来る事はないだろうか!?」
ネネさんは身分を証明するかのようにカードを取り出しそれを職員に見せていた。そのカードを見た職員は
虚ろな目に少し光を宿し
「ああっ!とても助かります、貴方のような力のある冒険者様がいまこの場所にいらしていただける事が奇跡のようです。
実はつい先ほど国内の中心地より爆発が起こり
その爆炎の中からゲートが出現、
中から魔人達とモンスターが召喚され
無差別な攻撃を開始しました。
冒険者の方々が魔人やモンスターの討伐に向かうも
今だ思わしくない状況です。」
「なんで魔人がこの国に!?」
ネネさんは頬に一筋の汗をかきながら
顔に驚愕の色をうかべていた。
「ネネ様にはできれば、モンスター、また魔人の討伐をお願いしたいのですが」
「微力ながら協力させていただく!
現状どこが一番劣勢なのだろうか?」
「ここから北に行った噴水のある広場周辺での戦闘が手こずっていると聞きました。」
「了解です、そちらに向かってみる事にしよう!」
「ご武運を…」
「ナツ!私は北の広場に行ってみようと思う!そこの戦闘が片付き次第リオンさんが向かった方角へ自分も向かって見ることにする。
できれば君には安全な場所にいて欲しいのだが…」
ネネさんの顔を見ると、自分を本当に心配してくれているのがわかった。
現状、ギルド内部にいる明らかに自分より強そうな冒険者が痛手を負っている。それを見れば自分が行った所で足手まといになってしまう事は十分にわかった。
それでもやっぱり悔しかった。
こんな時に自分にも誰かを助けられる力があれば、
みんなの役に立てる力があれば、
けれども、やっぱりどれだけそう思おうが
現状は変わらない。
自分は手が白くなるほど握りしめた。
「そうですね………わかりました。
ネネさん、気をつけて行ってきてください。
絶対戻ってきてくださいね。」
そう言ってネネさんを送り出す。
ネネさんを見送った後、自分はまたギルド内部に入り
自分にも何か出来ないかと
ギルドの職員へと話しかけた。