VRMMOが驚くほど面白くなかった
「おーい、亮介! どうだった、世界初のVRMMOは? すごかっただろ」
登校するなり友人の優斗がハイテンションで話しかけてくる。挨拶くらいしろ。
ため息をつきながら顔を見れば、おやつを目の前に置かれた犬のような顔をしており、俺がポジティブな感想を言うのを心待ちにしているのが丸分かりだ。しかし、俺はこれからこの友人に残酷なことを言わなければならない。
「あのゲームな……ごめん、せっかくハードの入手を手伝っておいてもらって悪いんだけど、驚くほど面白くなかった」
優斗はキョトンとした顔、「またまた御冗談を」とでも言いだしそうな顔、俺が本気だと解ってガチ凹みする顔へと三段階変身を遂げたのち、震える声で問いかけてきた。
「ど、どの辺が面白くなかったか教えてもらっても良いでしょうか……」
「なぜ敬語。まあ、いいや。どの辺がって言われても……俺にとっては全体的にストレスが溜まりまくる出来だったとしか」
「全体的に!?」
妙にショックを受けた様子の優斗。それでもなぜか感想を聞こうと食い下がるので、プレイして酷いと思った点を一つ一つ思い出すことにした。
「まず最初に突っ込みたくなったのは、キャラメイク」
「そこから!?」
「そこから。キャラの種族をランダムで決めると稀にレア種族にって仕様、何アレ。しかもキャラ削除しないと種族変更不可な上、削除に三日かかるとかいうリセマラ対策。そしてレア種族は他の種族に比べて露骨に強いとか、舐めてるとしか思えなかった」
「そ、そんなに酷いかなー。オレにはロマンのある仕様じゃないかって思えるんだけどなー」
キャラメイクでスタートに大きな差がつくとか、レア種族引いた強運の持ち主以外やる気なくすわ。俺もやる気が大きく削がれた。友人から勧められたから義理でプレイ続行したけど、そうじゃなかったらこの時点でアンインストールしてる。
「ゲームを始めた後も酷かった。チュートリアル受けるとランダムでスキルがもらえるだろ? ここでもランダムかよって思いつつ手に入れたのが生産スキル。俺、生産とか七面倒臭いことは一切するつもりないのに」
俺は火力特化の脳筋プレイが好きなんだ。プレイ方針を自分で選べないとか、馬鹿じゃねーの?
「その後のバランスも滅茶苦茶だった。VRMMOだから、自分の身体を動かす感覚で操作するだろう? すると、俺みたいな運動音痴の鈍くさいゲームオタクは苦労するわけだ。だからリアルの運動神経に関係のない職業を選ぶんだけど、同じようなことを考えたプレイヤーが一部の後衛職に集中した。具体的には魔法使い系と回復系とテイマー系で溢れかえった」
おかげでパーティ募集は常に前衛の需要過多だった。プレイヤースキルのある前衛はガチ勢のギルドが囲うので、改善の兆しも無い。
「そういえば、テイマー系職業も変な仕様だったな。連れてるモンスターがパーティーの枠を使うゲームとか、俺がやったことのあるMMOの中では初めてだ。これ、例えるなら武器にパーティーの枠取られるようなもんだろ。テイムモンスターを使うこと前提の職業でこれは酷いと思ったね……テイマー系がぶっ壊れ職だと気づくまでは」
オンラインゲームでは一つの職業がやたら強い、なんて事態は珍しくもない。ただ、俺が遊んだゲームはあまりにもバランスを欠いていた。
「テイマー職の連れているモンスターがめっちゃ強いんだよ。普通にプレイヤーと互角に戦えるくらい。レアな奴なんて並みのプレイヤーを一蹴するんだぜ?」
なお、レアなモンスターを序盤で入手する方法はテイマー系職業のチュートリアルでもらえるモンスターの卵からランダムで以下略。
「おまけに、レベルがある程度上がると一度に出せるモンスターの数が増えるとか。もはや、テイマーと他の職業は別ゲーだ。さらに言えば、一部の廃人を除いてテイマー以外の職業は必要ない。必然的に、パーティーを組む必要もない。むしろパーティーを組むとテイマーは弱体化するまである」
おかげでキャラを作り直すプレイヤーが続出している。そして元々テイマーをしていたプレイヤーとの差が嫌になってゲームクリア続出だ。
「で、でもよ! テイマー以外にも強いプレイヤーがいないってわけじゃないんだろ?」
どこか切羽詰まった声で問うてくる優斗。お前、このクソゲーにそんなにのめり込んでたのか。
「テイマー以外に強いプレイヤーか。いることはいるね。……個人的には、そいつらこそ俺がこのゲームを見限った最大の理由だ」
「はあ!? どういうことだよ」
「テイマー一強の状態で、それでも尚他の職業を選ぶ奴は三種類いる。一つは強くなることにさほど興味を持たないエンジョイ勢。これは特に問題ない。個人で、あるいは身内で楽しくやってるんだ。ある意味、こいつらこそオンラインゲームにおける真の勝者だ」
問題は残り二種類の人種だ。
「もう一つはリアルでも運動神経の良いやつ。さっきもチラッと行ったけど、このゲームのプレイヤースキルはリアルの運動神経に関わってくる」
ステータスを上げて素早くなっても、スキルの補助で動いても、どうしてか運動神経の良い同じくらいのステータスやスキルを使うやつに競り負けるんだ。反射神経とか、とっさに次の動きへと繋げるセンスが違うのだろう。
「そんな運動できるやつとプレイすると、げんなりしてくるんだ」
「げんなりって、どういうことだよ」
「……体育の授業で、サッカーをしていたとする。下手なやつと下手な奴どうしがそれなりに楽しくプレイしているところに、現役サッカー部のクラスメイトが乱入。どう思う」
「……げんなりするわ」
運動が苦手なやつなら分かるだろう? 運動部が入った瞬間、俺たちはプレイヤーから引き立て役に強制ジョブチェンジを食らうのだ。
ゲームのプレイスキルで負けるのなら、悔しいで済む。しかし、なんでリアルのスキルがゲームに大きく関わってくるのか。負け惜しみと自覚はあるが、土俵違いのやつが入って来るなと言いたくなる。
「最後が一番腹立たしい。最初のランダムなスキル習得でチートじみたスキルを入手したプレイヤーだ。たまたま運よく凄いスキルを手に入れた僕ちゃんは凄くてカッコイイ! 俺TUEEE! ってか? やられる側からすれば反吐が出る」
「それ、僻みじゃね?」
「僻みだぞ?」
「お、おう」
オンラインゲーマーは嫉妬深い。何を当たり前のことを言っているんだ。
「俺はゲームが好きだ。なぜなら、リアルよりはいくらか平等だからだ。オンラインゲームは金と、時間と、人間性を一番削ったやつが一番強い。その前提を覆したら、ダメだろ」
ライトなゲーマーである優斗が「何言ってんだこいつ」みたいな目で見ているが、他の主張を認めこそすれ、俺はこの主張を撤回するつもりはない。
「それで、なんで優斗はあのゲームの評価がそんなに気になるんだ? いちユーザーの目線なら、そこまで他人の意見を気にしないだろう?」
「実は……」
語られたのは、優斗の両親がVR技術関連の会社を運営しているということ。色々と事情があり、本来は畑違いのオンラインゲームをVR技術を使って作ることになったこと。ゲーマーの息子である優斗にどういうゲームがやってみたいか尋ねたこと。そして
「参考になるかもって、とある小説投稿サイトを紹介してみたんだ」
そのサイトは技術が現代ほど発達する以前からVRMMOを題材とした小説が多く投稿されており、実際に作家を何人も生み出したサイトだった。
いくつかの小説をサラッと読んでみれば、優斗のご両親がどうしてあんなクソゲーを生み出したのか、少し理解できた。
「なるほどな。この小説、面白いな。主人公が意図せずトッププレイヤーになっていく様は痛快だと思う」
「だろう?」
「でも、俺はこんなゲームやりたくないな。これ、主人公の為だけに存在してるゲームじゃないか。主人公以外のプレイヤーがどうしてプレイし続けてるのか、理解できない」
小説の一形態としては大いにアリだと思う。しかし、オンラインゲームに毒されている身としては爽快感を生み出すための設定に突っ込みたくなって仕方がない。これは、それだけの話だ。
作者はVRMMO作品も俺TUEEE!とかも大好物です。この作品に特定の作品を貶す意図はありません。ただ、モブキャラから見たVRMMOってどんなだろ? と考えた結果、こんなものが出来ました。