3-モンスターと遭遇しました
生物図鑑のほうに、(私の中では)看板キャラクター(になる予定)のボールピッグとダウニーゴートの説明をイラストつきで載せてみました。良かったら見てあげてください!
村長さんたちからお土産をいっぱい貰って、私は再び馬車に揺られています。馬車の中でお土産を確認したら、沢山のウィンナーとそれに関するレシピや、白い毛糸玉が3個、ふかふかのミントグリーンの毛がごっそりつまった布袋が入っていました。
たぶん毛糸の材料とおんなじ生き物から取れたものだとは推測できるんですが…このミントグリーンの毛っていったいどうすればいいんでしょう。ニードルでも使ってフェルト人形でも作れってことなんでしょうか?
下手に手を出して怪我でもしたら怒られることは目に見えてますから、使用用途については後で、聞かれたことには殆んど答えてくれる生き字引のセドリックにでも聞いてみることにしましょう。
困ったときには有能な執事に助けを求めればいいですよね、本人も、何かありましたら行動に移す前に相談していただけますね?といっていたわけですし。
ところで、この世界にはファンタジー御馴染みのモンスターが存在しています。魔王軍に関する文献などで稀に存在が確認されているような、人にそっくりな姿をもつ高知能高魔力を持つ悪魔族。彼らも襲い掛かってくる敵として、このモンスターと言う括りに含まれることがありますが、それを除外すると基本は二つから三つに分類されていますね。
一つ目は、スライムやゴーレムなど魔力で行動している魔物。これらを倒すと素材や魔石を採取することが出来ます。
魔石は体中に残った魔力が一箇所に凝固して出来るもので、魔道具などの燃料や材料などに重宝されるため、小さいものでも取引の対象になるようです。因みにこの世界では魔物の素材を取るのは魔石が凝固し終わる前に急いでやらなくてはいけないそうです。
理由は、体内に残っている残存魔力がゼロになると、ほぼ確実にドロップする魔石以外の体は消滅してしまうからだそうです。某ハンターゲームではないですが、欲しい素材はすばやく的確に採らないと折角頑張って魔物を倒しても泣きを見ることになるとか。
中には魔石を形成せずなんらかの素材のみ回収できる魔物もいるようですが、それも残存魔力ゼロになれば体が自然と消滅するらしいです。
二つ目は、魔素や魔力や邪気を浴び続けた動物が突然変異を起こしたり、そのモンスター化した生物が繁殖して種族化した魔獣と言う存在。
例えば私がおいしく頂いたウインナーの材料になったボールピッグは、バウンドボアというイノシシの魔獣を豚と掛け合わせたり、おとなしい個体同士で掛け合わせて家畜として改良されていますが歴とした魔獣です。
普通の動物よりも御しにくいという面はありますが、副産物は普通の動物よりも上質のものが多く家畜として手懐けられているものも少なくないようです。
ちなみにボールピッグの原種となったバウンドボアは、身の危険を感じたときや怒らせた時などに、森の木を利用しながら魔力で底上げされた勢いで縦横無尽に跳ね回り、さながらピンボールのような攻撃を仕掛けてくるそうです。頑丈な牙も生えていますし当たったらひとたまりもないと聞いたことがありますね。
魔物と違い、自然発生したりせず、かならず元の動物がいるか、種族として繁殖しています。死んでも肉体が残るので、お肉とか牙とか毛皮とかに利用価値があります。
稀にですが突然変異の個体などは心臓の辺りに魔石が結晶化していることもあるとか。
コボルトやオークなど見た目的に魔獣と魔物の分類が微妙な存在もいて微妙なところですが、基本は討伐後肉体が残るか残らないかで判断すればいいそうな。
それで分類するなら妖精の類なのか魔石を残して消滅するコボルトは魔物、オークは討伐後に急いで素材として肉を切り分けなくとも肉体が残るので、焦らず美味しい食材として処理できる魔獣扱いなんだそうです。
二つから三つと曖昧に覚えているのは、人型のモンスターに関しては妖魔と呼ぶ事もあったりしてするからです。人によって人型モンスターの認識が妖魔だったり魔物だったりするので教えて貰うほうとしては訳が分からなくなるんですよね、ごめんなさい。いっそ血の色とかで区別してくれたらいいのに。
因みに妖魔と呼ばれることのあるゴブリンやオーガのような人型のモンスターは、基本的にはその土地の小精霊などが長く魔力や邪気を浴びて変異し体を持った存在で、討伐後には身体が残らないものが殆どなのだそうです。
あとモンスターとは別口で鬼族だったり竜人族だったり獣人系の人種も居るらしいですが、その区別を例に挙げると、姿が似通ったものでも知性が低く人語を解しないワーウルフは魔獣で、獣顔でも人語を操り文明社会に溶け込めるライカンスロープ等はヒト族として区別しているんだそうです。
人顔ケモ耳ケモ尻尾な獣人についても、例えば有翼人種のガルーダ族や人魚族、魚人族のように知性と理性を備えたものはヒト族、知性と理性に乏しく人間を襲ってくるハーピーやセイレーン、水魔などは魔物や妖魔と呼ばれるそう。
でも私、思うんですよ。ヒト族のテイマーが従魔にしたとかで知能が高く人語を理解し意思疎通できるような、ヒト族に好意的で襲ってこない人型モンスターが居るとしたら、それはどうなの?って。まあ、例外中の例外なんでしょうし、考えるだけ無駄なんでしょうけど。
なんで突然モンスターのことなんかをおさらいなんてしているかといえば、現在絶賛▼まもののむれがあらわれた!状態で、馬車の周りに群がられているからなんですよね。屋敷の敷地内から出るような機会もなかったたため、これがはじめての野生のモンスターとの遭遇と言うことで正直ドキドキしていました。
馬車の周りにいるのは十匹ほどのゴブリン。大きさは人間の腰ほどの高さで、緑色の肌をした小鬼という、ファンタジー物通りの姿をしています。手には棍棒を持っていて、振り上げれば人間の頭部にもダメージを与えられそうです。
戦闘能力の低い丸腰の人間ならば、所謂雑魚呼ばわりされるゴブリンにさえかなわず、手も足も出せないうちに命を落とすといいますし、こういう場合はどういう行動をとるべきなんでしょうか。逃げる?戦う?それともなにかアイテムを…あ、モンスターと遭遇したときに役に立つアイテムなんて持ってなかったですね。
そんなことを考えていたら、御者台からセドリックが声を掛けてきました。
「ふむ。お嬢様は馬車の中でお待ちください。ゴブリンは私めが駆除してまいります」
駆除するそうです。
そっかぁ駆除するのかぁって…え?さも当たり前のようにさらりと言われましたけど、駆除?セドリックって、執事でしたよね?戦闘職じゃないですよね?そもそも今武器って持ってましたっけ。大丈夫なんですか?
私が思わず馬車の窓にびたっと張り付くと、その真横にある馬車の車輪にゴブリンがよじ登ろうとしているのが見えました。あれこれもしかしてやばい?と思った瞬間。目の前を何か黒っぽい残像が横切って、風を切るビュッという鋭い音に続き、ゴブリンがギャッという短い悲鳴とともに車輪から落ちて尻もちをついたのでした。
「お嬢様には危害を加えさせませんよ」
そういって、いつのも執事スマイルを浮かべてゴブリンを見据えるセドリックの手には、馬車を駆るときに使う鞭が。ああ、さっきゴブリンをはじき落とした黒っぽい残像って鞭だったんですね…。
そこから先はセドリック無双と言うか、かなりサクサク雑草のようにゴブリンたちは駆除されていきました。鞭捌きもさることながら、人間の子供くらいのゴブリンたちを的確に捉えて繰り出される技の数々…腰を落とした正拳突きや、流れるようなローキック…からのアッパーカットなどなど。素人目に見たら凄いとしか言いようがありませんでした。何よりもほぼ瞬殺って感じでしたし。
私がポカンと呆けた顔をさらしている間に、ゴブリンたちの討伐証明部位である右耳をちゃっかり確保し、魔力が枯渇して消滅したゴブリンたちの魔石を手馴れた感じで回収してから戻ってきたセドリック。
彼は何事もなかったかのように笑顔で、
「お待たせいたしました。では先を急ぎましょう」
と御者台に乗り込もうとしました。
「…えっと…セドリック?」
「何でございましょう、お嬢様」
私が呼び止めるとセドリックは律儀に立ち止まり、小首を傾げなから言葉の続きを促してきます。そんな彼に思い切って聞いてみました。
「セドリック、何故そんなに強いのですか?」
ええ、気になって仕方なかったんです。騎士団勤めをしていた過去があるとか、討伐部位の回収も手馴れているようだったからもしかして元冒険者という経歴があるんじゃないかとか。長い付き合いでも知りえなかった過去が聞けるかと思ったのですが、返って来た答えは少々期待はずれなものでした。
「私めは執事ですから、この程度のことは出来て当然でございましょう」
執事だから当然というセドリック。それも普段通りの筈なのにどこか胡散臭く見える笑顔付きで。
私は彼を信頼をしていますが、思わずジト目を向けずにはいられませんでした。