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2-初めてのお泊り

一応文章に変すぎるとことがないか確認しながら投稿していますが、読みにくいところがあったらすみません…。


※はっ…気が付いたらブクマが付いている…ですと?!あわわ、なんだかありがとうございますっ!!!

 ――コンコン――


 特にすることもなく物思いに耽っていた私は、ノックの音で思考の海から引き上げられました。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか」


 一拍空けて聞こえたのは、現在この馬車の御者をしている執事のセドリックの声です。そういえば、いつの間にか馬車がとまっていますね。目的地に到着したのかも知れません。それとも何かあったんでしょうか。


「どうかしましたか?」


 小窓にかかったカーテンを開けて外を覗くと、目の前には夕焼けに染まった牧草地が広がっていました。柵に囲まれた中には羊のようにモコモコした二足歩行の生き物たちがいて、パンダのように手を使ってのんびりと牧草を食べていました。ファンタジーな見た目でとても可愛らしいです。

 でも、ここはまだ目的地ではなさそうですね。話しによると目的地のローゼンべルクと言う街は、それなりの大きさがある領都みたいですから。そうするとここは何処でしょうか。一見、家畜の放牧で生計を立てているような村に見えますが。


「それが…我が領からノクターン辺境伯領までは遠く、途中経由する予定の街はなるべく大きなところをと心掛けてはいたのですが…」


 セドリックいわく、丘をひとつ越えていかないとそれなりの大きさの町にたどり着かず、かといってこのまま進んでいては夜になってしまうようです。夜は野生動物やモンスターの動きが活発になるので危険なため、無理に強行軍を進めるのは避けたいということでした。


「では、野営ですか?」


 テントを組み立てて、焚き火をしながら交代で見張り番をするのかもしれないと思ってワクワクしながら訊ねると、セドリックはとんでもない!と言わんばかりに驚いた顔をしていました。何でも野営は最終手段で、なるべく貴族に危険が及ばないようにするものらしいです。

 私は別に気にしないし、野営でもキャンプみたいでいいと思うんですけど、こちらの常識ではナッシングみたいですね。でも、道中まだまだ長いようですし、今後野営があることを期待しましょう。

 それにしても野営じゃないのだとすると、いったい何処に泊まるつもりなんでしょうか?規模の小さい村ですし、宿屋を営んでいるとは思えませんが。


「お嬢様には不自由をお掛けしますが、本日はこの村の村長と交渉いたしまして村長の家に宿泊する手筈となっています」


 私が馬車を降りるのを手伝いながらセドリックは教えてくれました。なるほど、村長さんの家にお泊りするんですね。突然押しかける形になってしまったというのに泊めて下さるなんて、なんて親切なんでしょうか。

 セドリックについて少し歩くと、他の家に比べるといくらか大きい家が見えました。他の農家は平屋ですが、こちらのお宅は二階建てです。玄関前には初老の男性が立っていて、彼がこの村の村長さんとのことです。


「これはこれは、貴族の子女様。狭いあばら家で申し訳ないのですがごゆっくり御寛ぎください。」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、突然押しかけるような形になってしまい申し訳ありません。」


 挨拶のあと村長さんに案内されて入った家の中は、贅を尽くしたような装飾品や家具などは見当たらず、どれも使用目的のみに特化しているような物が、必要最低限置いてあるといった感じです。ともすれば殺風景に思えてしまうかもしれないですが、部屋のちょっとしたところに置かれた写真や野の花などが彩りを添えていて、温かくホッとする空間を生み出していました。

 素朴な生活感に溢れている家で、なんだか懐かしくなる肩肘張らなくてもいい雰囲気に、思わず立ち止まってしまった私の口から小さなため息がこぼれます。


「あの…何もなくて驚いてしまわれましたか?」


 そのため息を勘違いしたのか、村長さんは不安そうな表情を浮かべてこちらの様子を伺っていました。なんだか悪いことをしちゃいましたね。だから私は頭を振って勘違いを訂正します。


「いいえ、むしろその逆です。心温かな生活を感じることができる良い家ですね、ここは。」


 経済面では貴族のそれと比べ物にならないくらいに貧しいのかもしれません。ですが、家族と寄り添い助け合い、互いに思いやりながら苦楽を共にする幸せと言うのは、心を豊かにすることが出来る掛け替えのない財産だと思います。そういった面では、この家は私の実家のような貴族よりも豊かな暮らしをしていると言えるのではないでしょうか。

 そのことを笑顔で伝えると、村長さんは驚いたような顔をしました。その後ろでセドリックまで鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をしていたんですが、何故なんでしょうかね。


 そのままリビングに通され夕食まで寛がせて頂き、ご家族の夕食に同席させて貰いました。バウンドボアと言う野生の魔獣から家畜として改良された、ボールピッグという魔獣の肉を使って作ったという自家製ウインナーは、一口かじればパキッと小気味良い音とともにジュワッと肉汁が溢れてきて、さらに鼻腔を抜けていくハーブと燻製の香りが絶妙でとても美味しかったです。

 お土産にしたいので売ってくださいと褒めちぎったら、明日の出立時にウインナーの作り方とウインナーを使った料理のレシピと一緒に持たせてくれることになってホクホクです。


 その後ですが、この村にはお風呂がないらしく、奥さんが盥に用意してくれた丁度いい温度のお湯とタオルを使って体をふいた後、用意された部屋で就寝することとなりました。

 前世で畳にせんべい布団か、良くて木製の二段ベッドでしか寝たことのない私は、正直お貴族様ご用達の雲のようにやわらかな天蓋つき特大ベッドで寝るより、使わせていただいた硬い感じのベッドのほうが落ち着いてぐっすり眠ることが出来ました。


 久々の庶民感ってやっぱり落ちつきます。その影響もあってか、久々に日本の家族の夢を見ました。あれから十六年、一番下の双子ももう成人している頃なんですよね。皆、元気にしているでしょうか。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


 朝です。庶民派ベッドでぐっすり眠った私は、早起きな小鳥たちのさえずりで目を覚ましました。窓の外を見ると、まだうっすらと空が白みはじめたくらいの時間帯です。

 普段はメイドやセドリックが起こしに来るまでは、早起きしても部屋でおとなしくしているのですが、なんと言っても今日は実家ではありません。思い切り背伸びをした後、私は着替えて部屋から抜け出しました。


 農家の朝は早いです。畑を持っていれば早い時間に収穫して出荷準備に勤しんだり、畜産業を営んでいれば4時ごろから獣舎の掃除や餌やり、乳を搾れる家畜がいるのなら乳搾りもしなければなりませんから。私も前世、自分が当番のときは日も昇りきらないうちから作業の手伝いをしていたものです。

 この村長さん宅でもそれは同じみたいで、家畜たちを牧草地に放牧していたり、獣舎の掃除を家族で手分けしてやっているようですね。外から家畜を追う声やベルの音が聞こえてきますから。

 それと、ほんのり良い匂いが漂ってくるのは、作業を終えてお腹を空かせて帰ってくる家族のために、奥さんが朝食の準備をしているのかもしれません。まだセドリックが起こしに来る時間には間がありますし、興味があるので私はキッチンを覗きに行くことにしましょう。


 思ったとおり朝食作りの真っ最中だったようで、キッチンからはトントントントントンと、まな板で野菜を切る音が聞こえてきます。耳を澄ますと他にも、コトコトコトコトジュウジュウパタパタ聞こえてきて、朝の音だなと懐かしく思いました。煮込んだり焼いたり刻んだりと、忙しく動き回る音は日本でもよく聞いていたものと同じでしたから。

 キッチンのドアを開けると忙しそうに朝食の準備をしている奥さんの姿がすぐ視界に飛び込んできました。その背中は、忙しくても朝食を作ってくれた前世の母に良く似ていて。


「おはようございます、なにかお手伝いさせていただけませんか?」

 と、気がついたら声に出していました。


 突然声を掛けられたと思ったら突拍子もないことを言われ、奥さんは凄く驚いてしまったようです。貴族のお嬢さんの手を煩わせるわけにはいかないとか、火傷をさせてしまうかもしれないから危ないとか、包丁で指なんて切ったら大変だとか、とても慌てられてしまいました。

 これでも本日の朝食メニューの目玉焼きくらいなら、普通に作れるんですけど。断られても何とか頼み込んで、どうにかお手伝いの権利をもぎ取ることが出来ました。

 さあ、レッツ☆クッキング!


「あのぅ、本当に大丈夫ですか?」


 横で見ている奥さん、とっても不安そう。ごめんなさい、絶対失敗しないから許してください。どうしても、やりたかったんです。私はもう一度、奥さんに大丈夫だと言ってからフライパンを火に掛けました。

 フライパンが温まってきた頃を見計らって少量の油をフライパンを傾けながら全体に広げ、平らなところで叩いて卵に皹を入れます。シンクの角のほうが割り易そうに思うかも知れませんが、殻が混入しやすかったりもするので私はいつも平らなところで叩いていますね。卵をフライパンに落としたら、用意しておいた水を少量フライパンのふちに流して急いで蓋をし火を弱めます。我が家ではいつも、この蒸し焼きスタイルでしたね。ほんのり黄身に火が通ったら、用意していたお皿に滑らせて、ほかのものと一緒に盛り付けて完成です。うん、ウルトラ上手に焼っけましたー!


 たったこれだけのことですが、貴族の娘にそれが出来ることが驚きだったのでしょう。小躍りしそうな自分を嗜めて振り返ると、奥さんはポカンと口を開けていました。


「ええと…手際がよろしいんですね」

「少々嫁入り前の手習いで嗜んでいたものですから。どんどん焼いていきますね」


 それからは大丈夫だと思って貰えたのでしょう、二人で手分けをして朝食の用意をしていきました。目玉焼きを焼いて野菜やマッシュポテトやウインナーと共に、温めておいたお皿に盛り付ける。それだけのことがこんなに楽しく感じられたのは久しぶりです。

 作業を続けていると突然キッチンの扉がバン!と勢い良く開きました。何事かと思いそちらを見ると、慌てた様子のセドリックが飛び込んできました。


「お嬢様!こちらにいらっしゃられますか!?って、いったいなにをなさっているのです!?」


 どうやら私が部屋にいなかったため、慌てて探しにきたようです。私の姿を認めてホッとした表情を浮かべたセドリックですが、私が料理の手伝いをしているのを見て困惑したようです。


「なにって…見たとおり朝食作りのお手伝いをさせて頂いていますが」

「それは見れば分かります!私めが言いたいのはそういうことではなく、どうしてそのようなことになったのかと言う事でございます!」


 おおう、これは怒っていらっしゃいますね?さて、なんと答えるべきか。ストレートにやりたかったからでは納得してもらえないでしょうし、出来れば本心に沿った正論っぽい理由をつけて、ぐうの音も出ないようにしたいんですけど。セドリックは礼儀を重んじるようなところがあるから、そこも考慮すると…。


「人の家に突然お邪魔して親切にしていただいた一宿一飯の恩があるというのに、貴族と言う立場に茣蓙をかき、上げ膳据え膳を当たり前とする礼儀知らずのような態度でいることを、私が嫌ったからです。奥様は気にしなくてもいいとおっしゃってくださったのですが、私がどうしても何かお手伝いをしてお礼をしたいと無理に頼み込んで了承していただいたのです。」


 こんな感じでしょうか。私の言葉でセドリックは少々渋い顔をしています。


「お礼でしたら、私めが。そういったことは私共に任せていただければと。」

「それでは私がお礼をしたことになりません。たとえ信頼できる身内をお礼によこしても、本人が直接伺うのとでは誠意の感じ方に差が生じるのではありませんか?」


 被せ目に反論してみると、彼はため息をついて額を押さえました。


「わかりました。しかし、私共に何も言わずに行動することはお控えください。何かありましたら行動に移す前に相談していただけますね?」

「…はい」


 勝ったと思ったんですが、こっそり部屋を抜け出したことに関しては言外に釘を刺されてしまいました。ああ、そもそも勝った負けたなんてなかったですか…とほほ。


 その後、二人の話を呆然と見ていた奥さんに、話しが終わったのでしたら朝食にしませんか?と声を掛けられ朝食を食べることになったのですが。くだらない言い争いのせいで朝食はちょっぴり冷めてしまっていて、そのことを反省することになったのは言うまでもありません。

 折角のおいしいご飯を一番美味しい状態で食べられなかった原因が私とか…私の馬鹿~!!!

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