13-ギリギリセーフ、滑り込みで間に合ったようです
今週もよろしくお願い致します。
ローゼンベルクの町を、私はセドリックの後ろについて小走りで付いて行きます。盗賊兄妹さんたちは、途中でセドリックから何かを受け取り、現在は別行動中です。後ほど、セドリックが二人と合流するそうで、今頃は食事を摂っている頃では無いでしょうか。…なかなかに無謀なスケジュールでしたし、今はゆっくり休んでいただきたいものです。
それにしても、疲れました…。今なら、ソファーに座って数秒で寝れちゃう気がしますよ…。
「お嬢様、こちらでございます」
おっと、ぼーっとしているうちに、目的地に着いていたようです。いつの間にか建物の内部にいましたよ。流石に気づきましょうよ私…。まあ、疲労困憊過ぎて、周囲に目を向けられなかったという状況ではあったんですけども。とりあえず呼吸を整えてしまいましょう。
「一先ず、旦那様…お父上が心配しておいでですから、お顔を見せに参りましょう。」
「あ、はい」
一瞬、何でセドリックが言い直したか分からなかったんですけど、そう言えば、此処には『私の旦那様』になる方もいるんでしたね。結婚するためにここまで来たというのに、すっかり頭から抜けてましたよ。
「ノエル!!!!」
「…っ」
「よく、よく生きていてくれた…。私は、ノエルに何かあったらどうしようかと…」
ぐえっ。父が待つという部屋に入った瞬間、まるで万力か何かでぎりぎりと骨を砕かんばかりの力で抱きしめられました。く、苦しいし、地味に怪我した場所が締め上げられて痛いですよお父様。
ぺちぺちと背中を叩いて離してもらえないか試してみても、父は私を胸にしっかと埋めたままグスングスンと泣くばかり。私が息が吸えていないことにも気付いていないみたいです。あ、やばい、ちょっと意識が遠のく…。
「アナタ、クロノアールさんが苦しそうですわ」
「ん?おお、すまないノエル」
流石に気の毒に思ったのか、継母が父を窘めてくれなければ正直、モンスターに殺されなかったのに此処で死ぬかもしれないと本気で思ってしまいましたよ。継母、グッジョブです。
声を聞くまで気づきませんでしたが、この部屋には父以外に、継母と義姉たちも居たようです。父から開放されてそちらを見ると、なんだか青白い顔で見返されたので、大丈夫ですよとニッコリしてあげました。
「早速で悪いが、私は婿殿に無事到着したことを伝えてこようと思う。…本当に結婚する気がノエルにあるのなら、だが。」
「お父様?もし結婚したくないのなら、私、二度とお父様と会うこともなかったと思いますよ?」
「うぐ…」
「勿論、お相手の方が私を見て嫌だとおっしゃるのなら身を引くつもりではありますが、私からお断りすることはないと思って頂いて結構です」
「…そうか、なら、伝えてくる。ノエルはその間に湯浴みを済ませなさい。婚前の禊なのだから、念入りにと侍女たちに伝えておいた」
「…分かりました」
お風呂は大歓迎なんですけど、予めお手伝いを断れないようにするとは…やりますね、お父様…。私のことをよくわかっていらっしゃる。予めそんな指示がされていなければ、私、絶対一人でお風呂済ませますし。
さて、そんなわけでお風呂を頂いたわけですが、至れり尽くせりでした。髪や背中をいい香りのする石鹸で念入りに洗ってもらい、香油マッサージやパックなんかのフルコース。お肌はしっとりプルプルになりましたよ。ぴっかぴかに磨き上げられる途中、うっかり眠ってしまったのは内緒です。
入浴するにあたり痣やら傷やらが露見したわけで、お世話してくださっていた侍女さんたちが、なんとお労しやと涙ぐんでいました。ちなみに私が思っていた通り、長手袋などの小物でなんとか隠せる範囲だそうで、あれとそれを準備しておいてなど、話はあれよあれよと進んでいました。
本来なら腕の良い回復系術士に頼めば早いらしいのですが、今回は急遽ということで頼めないとのこと。傷はきちんと消毒して、傷の治りを早める特殊なポーションを塗りこまれましたヨ。瘡蓋になっていたりすると言うのに、とっても染みました。
髪を乾かし、すぐにウェディングドレスに着替えるからと簡易的なAラインのドレスを身につけた私は、侍女さんに連れられて何やら可愛らしいピンク色の壁紙の部屋にやって来ました。ドレッサーやら大きな姿見があるところを見ると、ここで衣装替えやお化粧をするのでしょう。開け放たれたウォーキングクローゼットには色とりどりの、そして様々なデザインのドレスが掛けられています。
思わず呆けたようにそれを見ていると、初めて会う侍女さんがニッコリと微笑みました。どうやら、嫁ぎ先の侍女さんのようです。
「こちらは全て、旦那様が奥様のためにとご用意してくださったものですよ」
「こ、これ全て、ですか?ええと、着きれないように思うのですが…」
「この中から最良のものを奥様にお見立てするようにと仰せつかっております」
「…何着ですか?」
「お色直し用のものを二着ほどですが、いかがなさいましたか?」
「…なんという…」
衝撃の事実が発覚しました。思わず心のなかで『…orz』と膝を付きたくなったんですけど、悪く無いですよね?だって、二十着以上あるドレスのうち、二着以外は袖を通さないで終わる可能性大なんですよ?流石にお色直し用のドレスとは言っても、飽く迄結婚式用に作られたものですからね…。
夜会とかに着ていけるようなデザインのものもあるかもしれませんが、やはりそれ用のドレスとは違うんじゃないかなというのは分かる訳でして。そうなると、普段着にでもするしか着る手段がないのかもと思いますが、普段着には向かないデザインとか絶対着ない色とか出てくるわけですよ。こうなってくると、モッタイナイ星人に取り憑かれた庶民のジレンマでしかないんですけどね…。
いっそ、庶民さんたちになるべく格安でレンタルしたらどうでしょうか?どれも素敵ですし、きっと、こういう結婚式の衣装に憧れる女性って多いと思うんですよ。前世でもレンタル衣装は大人気でしたから、結婚式が終わったら旦那様やセドリックに相談してみることにしましょう。
一人で悶々と考え、一人で納得していると、コンコンコンと扉を叩く音が響きました。
「花嫁が来たと聞いたが、ここか?」
「はい、現在、ドレスを選んで頂いているところです」
「そうか、入るぞ」
そう断りを入れて入ってきたのは男性でした。黒い艶やかな髪、男性にしては少し白い肌、鋭く光る真紅の瞳。そのパーツの一つ一つが整っていて、ともすれば何処か人形の様にも見えるイケメンさんの登場に、私は暫し固まっていしまいました。
いや、だって、ねぇ?普通、継母からの嫌がらせでの政略結婚だったら、とんでもなく太っているとか、とんでもなく醜男だとか、とんでもなく歳が離れてるとかでもおかしくないじゃないですか。
だとすると、嫌がらせ要素はその内面なのかもしれませんが、今は、そんなことなどどうでもいいです!何ですかこのイケメン!?私、前世から比べちゃうと結構顔面偏差値の高い人達――身内贔屓ですが、父や叔父、あとは従兄弟と使用人のオジ様方など――を知っているつもりでいたんですが、次元が違いました。
例えるのならば、そう。乙女ゲームなんかの二次元キャラが三次元化したらこうなるんだろうなって感じの…。美の女神か神や悪魔に愛されちゃう系の美形さんだったんです。冷徹キャラとか、むしろ魔王とかで居ても違和感がわかない感じの方向でしたけど。
そんなイケメンさん…もとい旦那様は、私を見てちょっとだけ眉根を寄せました。もしかして却下パターンでしょうか?確かに、この容姿だと到底吊り合いそうにないですからね。
「…逃げたのかと思ったが」
「熊さんに襲われたりバウンドボアに襲われたりで、従者と逸れてしまったもので…遅くなってしまい、申し訳ありません」
「別にいい。…大きさは問題なさそうだな。…ナタリー、青を用意しろ。それから、カスミ草とブルースターがあるなら必ず入れるように」
「畏まりました」
「準備に戻る。邪魔をした」
なまじ容姿がドストライクだったので、断られるとしたら残念だなーとか考えていたんですが、予想に反して旦那様は侍女さんに指示を残して部屋から出て行きました。
「さあ、奥様。お召し替えとお化粧をいたしましょう。皆さん、仕事にかかりますよ!」
「「「「はい!!」」」」
おかげさまで投稿開始から二ヶ月が経過しました。
ブックマークしてくださっている方、感想や評価をくださった方、そして、この小説を読んでくださっている全ての方に感謝します。
誤字脱字なども多い拙い文章ではありますが、これからも読んでいただければ幸いです。




