表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

10-盗賊さんとこんばんわ

今週もよろしくお願いします。

 あれから何度かの戦闘と野宿を繰り返し、それでも図太く生き抜いているクロノアールです。我ながら順応するの早いと思います。

 ですが、そろそろタンパク質が食べたいです。ついでに食料は尽きてしまったので、見たことのあるものを中心に木登りとかしながら調達しております。たまに物凄く渋いのとかすっぱいのとかえぐいのとかにも当たりますが、幸いお腹に当たることは無かったので今のところは何とかなっています。

 まあ、何とかなっているとはいっても、そう都合よく見つかるものではないので、現在も盛大にお腹の虫が抗議の声を上げているのですが。


「はぁ…お腹減ったなぁ…」


 目が覚めてから、川沿いを歩き続けること早数時間。本日、まだ何も食べ物を口にしていません。

 川の水を飲んで空腹を誤魔化しながら、人間って食料や水の事情で行動が制限されるんだなとため息をつきました。

 如何に自然豊かな山の中といっても、そう簡単に食料や水が見つかるはずもなく。その両方が手に入らなければ、私の人生は直ぐにでも詰んでしまうでしょう。こうして偶然見つけた川を辿っているのも、藁をも掴むような気持ちで、生命線である水を失いたくないからでもあります。

 川沿いに進んでいけば、目的地からかけ離れた場所に出るかもしれません。太陽を頼りに考えると、今も東には進んでいるとは思いますが、おおよそ真っ直ぐには進んでいませんし。でも、もしかしたらそれを生活の礎にする集落か何かにたどり着けるかもしれないという期待もあるので、こうして川を頼りに進んでいるというわけです。

 川を辿るということは、最終的に海にたどり着いてしまう可能性も無きにしも非ずですが、ようは人里にたどり着ければいいのです。目的地に程遠い場所の集落にたどり着いたとしても、今度こそ道を外れないようにすれば、きっと目的地にたどり着くことも出来るでしょうから。なんと言っても、最終目的地のローゼンベルクは領都ですからね。片田舎の人でもそこに行く方法くらいは知っていると信じたいです。


 それにしても、今日は本当に食べ物に巡り合えません。こうして、お腹の虫を鳴かせながら歩いていると、もし火さえ使えたなら、私が倒したモンスターだって、貴重なタンパク源になってくれたはずだとか考えてしまいます。…ネズミやら虫やら、鋭い牙の生えた毒々しい色の魚とかを食べる気になれるかどうかは別としてですけども。

 そういえば、獣は魔獣なのは分かるんですけど、虫や魚って、モンスターだった場合なんて分類になるんでしょう?体が残らなければ魔物…残った場合は…いや、もう考えるだけ不毛ですね。どちらにせよ、ルビはモンスターなんでしょうし気にしたら負けです私。便宜上、モンスター凶魚モンスターとでも脳内変換しておくことにしましょう。そもそも、無意識に日本語で脳内変換している節がありますしね…。


 それにしても、度重なる戦闘や行く手を阻む植物たちのおかげで、すっかり服は汚れ、所どころ引っ掛けてボロボロになってしまったものです。もともと汚れてもいいような服を選んで着ていたとは言っても、これでも素材は絹だったので、元庶民の私的にはもう涙目です。

 それから、そんな感じですから無傷であるはずもなく、肘から下の腕はガードしたり振り回してぶつけたりで痣や細かい傷があったり、足も転んで擦り剥いていたり、ちょっと捻っていて痛みがあったり、痣があったりと満身創痍感が否めません。うーん、これでも嫁入り(直)前なんですが、何とか服とかで誤魔化せる範囲でしょうか?

 はぁ…。なんだか色々憂鬱になってきます…。どうして話し相手がいないと、こう、考えなくていいことばかり考えてしまうんでしょうね?そろそろ話し相手が欲しいです。その為にはここを抜け出さなければいけないんですけどね。さて、そろそろ出発するとしましょう。


「ん?」


 水を飲んで顔を上げると、川岸に丸っこくて艶々した黒っぽい物が見えました。なんでしょう?気になった私は、足を滑らせないように気をつけながらそれに近付きます。

 …これは、石…でしょうか?前世のお土産屋さんで売っていた、卵形に磨いたスノーフレークという石にそっくりです。大きさはダチョウの卵ほどもありますけど。

 拾ってみると、見た目と違って思っていたほどは重くなくて驚きました。1キロちょっと位でしょうか。普通に3キロぐらいはあると思っていたので結構軽く感じられます。

 水に浸かっていた部分はひんやりしているものの、太陽に当たっていたからか黒っぽい表面はポカポカとどことなく温かく、触れていると心が穏やかになるような不思議な気持ちがしました。

 石には色々なヒーリング効果があると聞きますし、そういう不思議効果なんでしょうか?この石を持っていると、あったかいお風呂に癒されているような、もっと根本的なところでいうと、お母さんの腕の中でまどろんでいる様な、子猫をひざに乗せてなでているような、ふわふわとした優しい気持ちになるのです。

 ともすると、この殺るか殺られるかの遭難生活で荒んでいた心が、まるで春風が訪れたかのように温かくなったわけで。なんというか、ここに来て初めてホッと一息つけたような気がしました。

 そのまま石を持って座り、表面を撫でていて、なんだかこのままこれを手放すのは惜しいなと、思っていることに気がつきます。石なんて拾っても、重いだけなのはわかっているのに、何ででしょうね?


「…まあ、鞄の中もルンバたん以外は空っぽなことだし、牛乳パック1本分くらいならさして問題にならないって事にしよう」

「ぴるる?」

「ごめんねルンバたん、これ鞄に入れたいから、ルンバたんは肩の上に乗って貰ってもいいかな?」

「ぴる~」


 鞄を開けると、なぁに?という感じで見つめてくるルンバたんに石を見せて伝えると、ルンバたんは心得たとばかりにピョンと鞄から飛び出して私の肩に乗ってくれました。なんて賢い子なんでしょう、親ばかになっちゃいますよ?




 川沿いを黙々と歩き続け、ぐうぐう煩いお腹を水で誤魔化しつつ、あっという間に夜になりました。

 そろそろ寝床を探さないと、と思ったとき、なにやらとても胃袋がきゅうっとなるとても良い匂いを感じました。もしかしたら集落が近いのかも!そう思った私は、くんくん匂いを辿りながら進みます。すると、焚き火の明かりが見えてきました。


 民家ではなく、焚き火だったことにがっかりした私でしたが、気を取り直してその傍の人影に近付いていきます。すると、その人影は私の気配に気がついたのか、ばっとこちらを振り返りました。


「何者だ!!!」


 訂正、臨戦態勢に入られました。ククリナイフというんでしたか、鉈のようにも見える湾曲した刃のナイフを握って、じわりじわりとこちらを警戒しながら近付いてきます。と、とりあえず、モンスターじゃないことをアピールしないと?


「えっと…人間です?」


 …いや、テンパって居たとはいえ、これはないでしょう私。相手も、は?と間抜けた顔になってますし。あまりにアホな返事をしてしまったことで、お互いの間に微妙な沈黙が流れました。

 先に持ち直したのは、ククリナイフを持ったお姉さんでした。…革鎧っぽい装備を身に付けていますけど、真っ赤な髪をポニーテールに結わいていますし、女性ですよね?冒険者でしょうか?とにかく、お姉さんはごほんと咳払いしてから私をキッと睨み直すと口を開きました。低めのアルトボイスです。


「…で、その『人間』がここになんのようだ」

「や、あの、その…」


 ぐぅうぅうぅうう


 うん、私が答える前に、お腹の虫が物凄く大きな音で答えてくれちゃいました。ちょっと恥ずかしいです。お姉さんも、目をぱちくりさせています。


「…その、えっと、遭難してしまいまして…その、良い匂いがしてきたもので、民家か何かがあるのかと…」

「…腹減ってんのか、譲ちゃん」

「…お恥ずかしながら」

「…ちっ、しょうがねぇな。遭難っつうのも、その格好見るからに嘘じゃなさそうだし、このまま放置しても目覚めわりいから食ってけ。んで、さっさと失せろ」


 ご飯は分けてやるからさっさと失せろと言われました。久々に人間と出会えたのに、なんだか残念です。


「んな顔すんな。とりあえず熱いから火傷すんなよ」


 突き放そうとしつつ優しいとか貴方ツンデレさんですか?もぐもぐ、とりあえず、もし今晩ここに居させて貰えないにしても、はふはふ、ハイネストの町かローゼンベルクへの行き方くらいは訊ねないとですよね、ごくん、うん、美味しいです、久しぶりのあったかいご飯おいしいです、涙が出そう。


「うー…はふ、美味しい…です…」

「そうかよ」

「はいぃ…」

「…食うか泣くか話すか一個にしろよ」

「もぐもぐ、はふはふ、あの、おねえさん」

「おね…なんだ?」


 あれ?なんかお姉さんが一瞬固まった気がしましたけど、まあ、今は質問が先ですよね。


「ここからハイネストの町か、ローゼンベルクに行くにはどうしたらいいかわかりますか?」

「…そこが目的地だったのか?なら、随分と離れてるが」

「ええと、具体的に、近いほうでどれくらい掛かりますか?」

「アーシェの村から出てる乗合馬車に乗るなら山道だからハイネストまで二日、馬を調達して単騎で駆けて一日程度といったところか」

「…因みに、歩きだと…?」

「はぁ?歩きぃ?乗合馬車の倍以上掛かるに決まってんだろ」


 となると、私が歩くとまた一週間は掛かる感じになりますか…。そこからローゼンベルクに行くにも、馬が居ないと倍掛かるから…。どうしましょう?結婚式の日取りまでにぜんぜん間に合うような気がしません。

 どうしたらいいか眉根を寄せて考えていると、ちょっと気の抜けるような声が聞こえました。


「兄貴ぃ、ただいま~。って何その子、攫ってきたの?ついに人身売買に手ぇ染めちゃうの?」


 内容は、笑えませんでしたが。人身売買って。不穏すぎません?


「んな訳あるか馬鹿」


 即答で否定してくれました。ありがとうお姉さん、ちょっとホッとしました。


「だよねぇ、んじゃ兄貴のコレにすんの?」

「アホか。遭難して飯集られてるだけだっつうの」


 否定に次ぐ否定をして貰えてよかったです。兄貴の小指?恋人ですか?ん?兄貴?この方たちのほかにも、どなたか男性がいらっしゃるんでしょうか?それにしても、このヘソ出しルックの女の子は、お姉さんとどんな関係なんでしょう?髪色は同じですし姉妹でしょうか?


「えっと、あの、お姉さん、こちらの方は?」

「ぶはっ!!!ねえ君、お姉さんって、こいつの事?」

「はい?」

「ぐふ、ふへぇ…やっべ、超つぼんだけど。兄貴がお姉さん…ぷくく、どっちかっつうと母ちゃんっぽいけどな…って、いってぇ!兄貴叩くんじゃねえよ!」

「笑いすぎだ。あと譲ちゃん、俺は男だ。お姉さんじゃねぇ」

「え!?こんなに美人さんなのに男性だったんですか!?」

「…ぶっふ…っ」


 …男。お姉さんじゃない?え、嘘でしょう。前世で言うモデルさんみたいに小さくて整った顔に、炎みたいに真っ赤で長い髪の毛が綺麗なこの人が女性じゃないなんて、脳が信じてくれません。声だって、ちょっと低めの女性で通るくらいのものですし…って、現実逃避するんじゃない私。あと、笑いすぎですそちらの方。


「すみません、失礼しました!お料理も美味しかったので、てっきり女性の方だとばかり」

「ひー、くっそ笑ったぁ…。確かに兄貴の飯はうめえよな。妹のアタシが作るより数倍うめえもん。」


 涙を拭うほど笑ったんですね、そうですか。どうやらこちらの女の子は兄貴さんの妹さんらしいです。

 それから妹さんがひとしきり笑って、兄貴さんに鉄拳制裁を食らったあと、唐突に質問タイムが始まりました。


「とりあえず、譲ちゃんに聞く。ボロになっちゃぁ居るが、その服絹だろ。アンタ何者だ?」


 それから私は、今までのことを二人に話しました。政略結婚する為の移動中にブラッディベアやバウンドボアに襲われたことなど話すと、二人は顔を顰めていました。いわく、良く生き延びたなと。


「ブラッディベアにバウンドボアから逃げて、ジャイアントホーンラットやビックワームなんかを返り討ちにしたわけか…正直、その装備でよく死ななかったな」

「なぁなぁ、政略結婚するって言ってたけど、相手は誰なんだ?」

「ここの領主様です」

「「は??!!」」


 あら?訊ねられたので何の気なしに答えたのですが、二人が顔を見合わせて固まってしまいました。


「兄貴、コレ、関わっちゃ駄目な奴だ」

「…だとしても、もう関わっちまったんだから、今更放置したら後が怖いぞ」

「そう…だよなぁアタシまだ死にたくない」

「安心しろ、俺もだ」

「あの~?」

「「!!!」」


 なんだかそのままこそこそと話しているので、声を掛けると、ビクぅっと盛大に驚かれてしまいました。なんだか、すごく悪いことをしてしまった気分になります。

 正直、どうして良いかわからないでいると、兄貴さんが頬を掻きながら口を開きました。


「…あー…なんだ。譲ちゃん」

「は、はい」

「単刀直入にいうとな、俺たちは盗賊で、この辺りではお訊ねもんなんだ」

「は、はぁ」

「だがな、そんな俺たちでも命は惜しい。だから、明日、目が覚めたらハイネストの町まで、アンタを連れて行ってやることにした」

「はぁ…って、え?!」


 どういう流れなのでしょうか、さっぱり付いていけません。


「あの、私、ご飯を食べたらここから出て行けって言われていたような気がするんですか?」

「あー…こっちも事情が変わっちまったというかな…色々あるんだ」


 目をそらしながらそう言う兄貴さんは、どことなく顔色が悪く見えました。…命が惜しいとか言ってましたけど、私、そんなに変なこと、言いましたっけ?

盗賊兄はなんだかんだ世話好きさんで、妹は男勝りなわんぱくさんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ